サブスク商品の平均継続期間は1/解約率になることを証明してみた!
唐突ですが、noteで数式が使えるようになりましたね。
2021年12月なので、すごい今更ではありますが。。。
今回はnoteの数式機能をテスト的につかっていきたいと思います!
タイトルにもあるように、 $${平均継続期間 = \dfrac{1}{解約率}}$$ を解説していきたいと思います。
平均継続期間とは
サブスクリプションサービスやアプリ系では「平均継続期間」が重要です。
なぜなら、「LTV(Life Time Value)」を求めるときに使うからですね。
LTVの考え方は複数ありますが、今回は下記を採用しましょう。
$$
\bm{LTV = 顧客単価 \times 利益率 \times 平均継続期間}
$$
ご覧の通り、 $${LTV}$$ の算出に平均継続期間が必要になります。
ここでQuestionです。
$${平均継続期間 = \dfrac{1}{解約率}}$$ というのを目にしたことがある人も多いと思いますが、これは正しいのでしょうか?
結論からいうと
$$
平均継続期間 = \frac{1}{解約率}
$$
は正しい式です。(解約率が一定、という条件の下で)
今回はこれを示してみよう、というわけです。
導出(前半)
簡単な例
平均継続期間について例を使いつつ見ていきます。
あるサービスにおいてユーザーがAさんとBさんの2人だけの場合で、
Aさんが8ヶ月継続、Bさんが12ヶ月継続したとします。
このとき、平均継続期間はどうなるでしょう?
非常に単純で次のように10ヶ月になります。
$$
平均継続期間 = \frac{8 + 12}{2} = 10
$$
では、今度はユーザーがAさん、Bさん、Cさんの場合。
Aさんが9ヶ月継続、Bさんが12ヶ月継続、Cさんが15ヶ月継続ならどうでしょう?
この場合も単純で
$$
平均継続期間 = \frac{9 + 12 + 15}{3} = 12
$$
で、12ヶ月となります。
つまり、「ユーザーの延べ継続期間」を「ユーザー数」で割ったものが平均継続期間期間です。
$$
平均継続期間 = \frac{ユーザーの延べ継続期間}{ユーザー数}
$$
じゃあ「ユーザーの延べ継続期間」を求めよう
ここでは初月(1ヶ月目)のユーザー数を $${U}$$ 、月間の解約率(チャーンレート)を $${N}$$ とします。
$$
\def \arraystretch{1.5}
\begin{array}{l|c|c}
期間 & 解約数 & ユーザー数 \\ \hline
1ヶ月目 & 0 & U \\
2ヶ月目 & UN & U(1-N) \\
3ヶ月目 & U(1-N) \times N & U(1-N)^2 \\
4ヶ月目 & U(1-N)^2 \times N & U(1-N)^3 \\
5ヶ月目 & U(1-N)^3 \times N & U(1-N)^4 \\
6ヶ月目 & U(1-N)^4 \times N & U(1-N)^5 \\
7ヶ月目 & U(1-N)^5 \times N & U(1-N)^6 \\
8ヶ月目 & U(1-N)^6 \times N & U(1-N)^7 \\
9ヶ月目 & U(1-N)^7 \times N & U(1-N)^8 \\
10ヶ月目 & U(1-N)^8 \times N & U(1-N)^9 \\
11ヶ月目 & U(1-N)^9 \times N & U(1-N)^{10} \\
12ヶ月目 & U(1-N)^{10} \times N & U(1-N)^{11} \\
・・・ & ・・・ & ・・・ \\
n-1ヶ月目 & U(1-N)^{n-1} \times N & U(1-N)^{n}
\end{array}
$$
$${n-1}$$ヶ月目まで見ると上記のようになります。
最終的にユーザー数が0になるまでウォッチしていきたいと思います。
現実的には不可能ですが、数学的な問いとしては問題ないです。
少し詳しく説明すると
今、$${N}$$ は解約率なので
$$
0 \le N \le 1
$$
の範囲になります。
現実的には、解約率が $${0\%}$$ とか $${100\%}$$ というのはありえないと思うので、
$$
0 < N <1
$$
と考えてよいと思います。
このとき、
$$
\lim_{n \to \infty} (1-N)^n = 0
$$
となります。
要するにユーザー数が0になるとは、
$${\infty}$$ヶ月目まで考えよう、ということです。
つまり、こういうことですね。
$$
\def \arraystretch{1.5}
\begin{array}{l|c|c}
期間 & ユーザー数 \\ \hline
1ヶ月目 & U \\
2ヶ月目 & U(1-N) \\
3ヶ月目 & U(1-N)^2 \\
4ヶ月目 & U(1-N)^3 \\
5ヶ月目 & U(1-N)^4 \\
6ヶ月目 & U(1-N)^5 \\
7ヶ月目 & U(1-N)^6 \\
8ヶ月目 & U(1-N)^7 \\
9ヶ月目 & U(1-N)^8 \\
10ヶ月目 & U(1-N)^9 \\
11ヶ月目 & U(1-N)^{10} \\
12ヶ月目 & U(1-N)^{11} \\
13ヶ月目 & U(1-N)^{12} \\
・・・ & ・・・ \\
\infty ヶ月目 & U(1-N)^{\infty} \\
\end{array}
$$
最後のユーザー数は $${\infty-1}$$ では?と思う方もいるかもしれませんが、$${\infty}$$ も $${\infty-1}$$も変わりませんので、間違いではないです。
ピンと来る人はすぐに分かると思いますが、ピンと来ない人は理解しがたいと思うので、また簡単な例で見てみましょう。
例えば、
3ヶ月間 継続したユーザーが10人いて、
2ヶ月間だけ 継続したユーザーが20人いて、
1ヶ月間だけ 継続したユーザーが30人います。
と言われたら、延べ継続期間を
$$
3 \times 10 + 2 \times 20 + 1 \times 30 = 100
$$
と計算すると思います。
これは下のグラフで言うと、『縦に分割して』計算しています。
1ヶ月だけ使った人 ⇒ 黒枠の部分
2ヶ月だけ使った人 ⇒ 黄枠の部分
3ヶ月間使った人 ⇒ 赤枠の部分
ここまで来たらなんとなくピンと来るでしょうか。
先程の、
3ヶ月間 継続したユーザーが10人いて、
2ヶ月間 継続したユーザーが20人いて、
1ヶ月間 継続したユーザーが30人います。
を言い換えると以下になります。
(※上のグラフもよく見て考えてみてください)
1ヶ月目にはユーザーが60人いて、
2ヶ月目にはユーザーが30人残っていて、
3ヶ月目にはユーザーが10人残っていた
さっきは、延べ継続期間を
$$
3 \times 10 + 2 \times 20 + 1 \times 30 = 100
$$
と計算しましたが、単純に『棒グラフの数値』を足せば
$$
60 + 30 + 10 =100
$$
でも求められるじゃん、ってことです。
ここまでを踏まえると、「ユーザーの延べ継続期間」が
以下の表の「ユーザー数を全て足した数(ユーザー数の総和)」になるということが分かるのではないでしょうか。
つまり、上の棒グラフのように考えると、
『グラフの数値を単に足し合わせている』ということです。
$$
\def \arraystretch{1.5}
\begin{array}{l|c|c}
期間 & ユーザー数 \\ \hline
1ヶ月目 & U \\
2ヶ月目 & U(1-N) \\
3ヶ月目 & U(1-N)^2 \\
4ヶ月目 & U(1-N)^3 \\
5ヶ月目 & U(1-N)^4 \\
6ヶ月目 & U(1-N)^5 \\
7ヶ月目 & U(1-N)^6 \\
8ヶ月目 & U(1-N)^7 \\
9ヶ月目 & U(1-N)^8 \\
10ヶ月目 & U(1-N)^9 \\
11ヶ月目 & U(1-N)^{10} \\
12ヶ月目 & U(1-N)^{11} \\
13ヶ月目 & U(1-N)^{12} \\
・・・ & ・・・ \\
\infty ヶ月目 & U(1-N)^{\infty} \\
\end{array}
$$
さて、ではユーザー数の数列を見てみる。
$$
\{U, U(1-N), U(1-N)^2, U(1-N)^3, \cdots , U(1-N)^n, \cdots \}
$$
これは高校生でも習う
$${\bm{初項がU, 公比が (1-N) の等比数列}}$$ (†)
というやつだ。
こいつらの和を考えろというが問題であり、
ガッツリ数式で書くと
$$
\sum_{n=0}^{\infty} U(1-N)^n = \lim_{n \to \infty} \sum_{k=0}^n U(1-N)^k
$$
ということですね。
ここまでが前半です。
ここで少し等比数列の復習をするので、分かっている人は飛ばしてください。
等比数列の復習
等比数列の総和
$${初項a, 公比r の等比数列}$$を$${第n番目}$$まで書くと次のようになります。
$$
\{a, ar, ar^2, ar^3, ar^4, \cdots, ar^{n-1} \}
$$
要するに、最初の項が「$${a}$$」で、それ以降は「$${r 倍}$$されていく数列になります。
これらの和は
$$
S_n = \frac{a\left(1-r^n \right)}{1-r}
$$
になります。
簡単に証明してみましょう。
まず単純に「和」なので全部足してみると
$$
S_n = a + ar + ar^2 + ar^3 + ar^4 + \cdots + ar^{n-3} + ar^{n-2} + ar^{n-1}
$$
と書けます。(☆)
この両辺を$${r 倍}$$してあげると
$$
r \times S_n = ar + ar^2 + ar^3 + ar^4 + \cdots + ar^{n-3} + ar^{n-2} + ar^{n-1} + ar^n
$$
となります。
上の式から下の式を引くと、等しいところは相殺して消えるので、
$$
\begin{aligned}
S_n &= a +\cancel{ar} + \cancel{ar^2} + \cancel{ar^3} + \cancel{ar^4} + \cdots + \cancel{ar^{n-3}} + \cancel{ar^{n-2}} + \cancel{ar^{n-1}} \\
r \times S_n &= \cancel{ar} + \cancel{ar^2} + \cancel{ar^3} + \cancel{ar^4} + \cdots + \cancel{ar^{n-3}} + \cancel{ar^{n-2}} + \cancel{ar^{n-1}} + ar^n \\
(1-r)S_n &= a-ar^n = a \left(1-r^n \right)
\end{aligned}
$$
となります。
よって、$${rが1以外}$$であれば、
最後の式の両辺を$${1-r}$$で割って
$$
S_n = \frac{a \left(1-r^n \right)}{1-r}
$$
ということになります。(♡)
$${r=1}$$ならもっと単純で、(☆)の式を見れば
$$
\begin{aligned}
S_n &= a + ar + ar^2 + ar^3 + ar^4 + \cdots + ar^{n-3} + ar^{n-2} + ar^{n-1}\\
&= a + a+ a +a +a +\cdots +a + a + a \ (aをn個足す)\\
&=na
\end{aligned}
$$
になります。
さらに、
$$
-1 < r < 1
$$
であるなら
$$
\lim_{n \to \infty} r^n = 0
$$
となるため、
$$
\begin{aligned}
\lim_{n \to \infty} S_n &= \lim_{n \to \infty} \frac{a \left(1-r^n \right)}{1-r}\\
&= \frac{a}{1-r}
\end{aligned}
$$
に収束することが分かります。(♡♡)
(♡)の$${nを\infty}$$にするということは、
つまり(☆)の式で$${n}$$をどんどん大きくして無限まで足していくことです。
その総和が(♡♡)に収束すると言っています。
導出(後半)~話を延べユーザー継続期間へ~
ユーザー数を全て足した数(ユーザー数の総和)を求めよう
話を元に戻しましょう。
今の証明で「初項$${a}$$、公比$${r \ (-1 < r <1)}$$」の等比数列を無限に足していくと
$$
\lim_{n \to \infty}S_n = \frac{a}{1-r}
$$
に収束するのでした。
数学的には(†)にも記載した通り
『$${\bm{初項がU、公比が (1-N) の等比数列}}$$』の和 (††)
でしたね。
ここで、$${N}$$は前述したように
$$
0 < N < 1
$$
と考えてよいので、$${1-N}$$ の範囲は
$$
0 < 1-N < 1
$$
となります。
よって(††)の和は収束します。
分かりづらい方は
「初項$${a}$$、公比$${r \ (-1 < r <1)}$$」の等比数列の和が
$$
\lim_{n \to \infty}S_n = \frac{a}{1-r}
$$
に収束するという話で、
$${aをU, rを(1-N)}$$に置き換えたと思ってください。
そうすると、(††)は
$$
\begin{aligned}
\lim_{n \to \infty}S_n &= \frac{U}{1-(1-N)} \\
&= \frac{U}{N}
\end{aligned}
$$
となりました。
すーごいキレイな形に収束しましたね!!
つまり
$$
ユーザーの延べ継続期間 = \frac{U}{N}= \frac{ユーザー数}{解約率}
$$
ということですね。
さて、随分前のことで忘れているかもしれませんが、
求める式は
$$
\bm{平均継続期間 = \frac{ユーザーの延べ継続期間}{ユーザー数}}
$$
ですので、
$$
\bm{
\begin{aligned}
平均継続期間 &= ユーザーの延べ継続期間 \times \frac{1}{ユーザー数}\\
&= \frac{\cancel{ユーザー数}}{解約率} \times \frac{1}{\cancel{ユーザー数}}\\
& = \frac{1}{解約率}
\end{aligned}
}
$$
というわけです。
1行目から2行目の式変形で、先程導出した
$$
ユーザーの延べ継続期間 = \frac{U}{N} = \frac{ユーザー数}{解約率}
$$
を利用しました。
これで、無事に
$$
\bm{{平均継続期間} = \frac{1}{解約率}}
$$
が示されました。
今回はここまでです。
Bye,Bye.
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