【短期シリーズ】「子ども中心の支援」のために、今始 めるべきわたし達のアクション vol.2 ー 矢印の向きは、スタッフみんな一緒 1
私たちデジリハでは、リハビリツール「デジリハ」の開発・提供を通して、たくさんの障害児者支援の現場と接点を持たせていただいています。
「デジリハ」はデジタルアートとセンサーを活用したリハビリツールです。放課後等デイサービスをはじめ、複数のリハビリや療育の現場で導入していただくなか、私たちが目指している「すべての子どもたちのアソビが拡がる支援」を、皆さんと一緒に見いだすことができました。
そんな中で、皆さんのお悩みを伺うことも少なくありません。様々なお悩みの特徴をあえてまとめると、「子ども中心の支援の提供がしにくい構造がある」というものです。
そうしたお悩みの一番大事なところを掘り下げていくと、「療育の現場をいかにしてチームにできるか」がポイントだといえそうです。
療育の現場は指導員、保育士、理学療法士、作業療法士など様々なスタッフがかかわっています。こうした様々な役割・専門性を持ったスタッフが、それぞれの能力を生かして相互に補完し合えたその時に、「子ども中心の支援の提供」が可能になります。それは、施設に関わるスタッフが、単に人が集まった状態である「グループ」から、目標に向けて互いに補完し合う「チーム」へと変化したことを意味します。
まだ私たちデジリハも、このテーマについて着手し始めたばかりで、仮説を設定するにとどまっている段階です。しかし、療育現場をより良いものにしていきたいという思いは、皆さんと同じです。
「子ども中心の支援の提供を可能にする、療育現場に必要なチームビルディング」を実現するために、様々な仮説を設定しながら、デジリハのメンバー、そして外部のご協力者の方々を交えつつ、皆さまが働く療育現場でお役に立てるヒントを見いだしていこうと思っています。
今回はこの記事シリーズの第2回をお届けします。お話を頂戴したのは、東京都江戸川区を拠点にして、重症心身障がい児を対象とした児童発達支援事業・放課後等デイサービスを運営する、特定非営利活動法人 EPO ここねの代表・齋藤えりかさん。そして理学療法士の宮代祐希さんです。
EPO ここねでは、3拠点において4つの事業所を運営しています。スタッフ全体としては、本部スタッフも入れて約30人。専門職である看護師は約12人、理学療法士などのセラピストは8人在籍して事業を展開しています
(2024年1月現在)。
また、2023年12月からは、重症心身障がい児とそのご家族のためのコミュニティサービス「COCOLON」を提供し始めました。このような取り組みは、全国的にもまだ珍しいといえます。
私たちデジリハが以前ここねさんを訪問した時に感じたのは、皆さんの雰囲気の良さでした。今回ここねさんにお話を伺いたいと考えた理由は、「この雰囲気の良さは、いったいどこから来るのか?」を明らかにしたかったためです。
齋藤さんのお話を通じて、療育現場におけるチームづくりのヒントを探ってみたいと思います。聞き手は、株式会社デジリハのゼネラルマネージャー、また理学療法士として国内外の現場経験が豊富なセラピストのひとり、仲村佳奈子です。
全国的に珍しい施設で問い合わせが絶えなかった
――重症心身障がいがあるお子さんを預けられる施設は、人口密集地である東京都内であっても希少です。そんな中、重症心身障がいのお子さんを受け入れているここねさんは、設立前から保護者の皆さんによるたくさんのお問い合わせがあったと伺っています。まずは設立当時の状況からうかがえますか。
齋藤氏(以下敬称略):2015年より、東京都足立区で重症心身障がい児の通所施設「ここね」の運営を開始しました。現在、江戸川区の「ここね江戸川」と「ここね篠崎」を含めて、児童発達支援の事業所を3つ、そして放課後等デイサービスの事業所を1つ、合計4つの事業所を運営しております。
立ち上げた当時は、全国的にも同種の事業所が少なく、当時、足立区では3カ所目でした。どのくらい希少だったかというと、「3カ所目の事業所がオープンした」というだけでも「足立区は優秀だ」と言われるような状況だったんです。
そのような具合ですから、近隣の地区にも同種の事業所がほとんどなく「事業所ができるよ」という情報が当事者ご家族の間に一気に広まったようでした。設備の準備もこれからという中で、皆様のご期待の反映からか、私の携帯電話がしょっちゅう鳴るような時期もありました。
事業所をオープンしてみると、利用されるお子さんの9割近くが、足立区の隣の葛飾区のさらに向こう側にある江戸川区在住のお子さんでした。その理由は、江戸川区には重症心身障がいのお子さんを受け入れる事業所が1カ所もなかったからです。
私たち事業所のスタッフは、お子さんのお家の目の前まで、車で送迎しています。往復で2時間かかることも少なくありません。お子さんにとっても移動は負担になるんじゃないかなと考えまして、翌年に江戸川区松島にも事業所を立ち上げました。
すると、足立区に立ち上げた時と同じような現象が起きました。墨田区、江東区、中央区ご在住のお子さんたちを通わせたいとのお申し込みがあって、またすぐに枠がいっぱいになりました。その結果、江戸川区のお子さんに必要な日数をご用意しにくい状況になってしまいました。そこでその翌年、つまり最初の立ち上げから3年目に当たる年に、江戸川区にもう一つ、篠崎町で事業所を立ち上げました。
――そのお話からはあらためて、重症心身障がいのお子さんが通える施設がとにかく少ないという事情が見えてきますね。
齋藤:幼稚園の場合は月曜日から金曜日まで5日間利用できるのが当たり前ですけれども。私たちがご利用対象のお子さんに対してバランスよく利用枠を振り分けると、だいたい週1日、多くても週3日程度が限界でした。
私たちは2021年から篠崎町の事業所で放課後等デイサービスも提供していますが、当時はそれよりも就学前のお子さん向けに対するニーズが強かったので、まずはそれに対応するべく、児童発達支援事業所を立ち上げていくことが最優先でした。
一方で、児発の卒園生が増える中で、重症心身障害児のお子さんが利用できる放デイがほしい、ここねさんつくってください、という当事者ご家族の方たちからのお声も強くなってきました。というのは、重症心身障害児のお子さんを預かる放デイの施設は、児発よりももっと少ないからです。
ただ、私たちもまだスタッフの陣容や運営面での体力が追いついていなかったので、やりたいなという希望は持ちつつ、時期を見極めていました。そうして2021年に、放デイを篠崎町に開所しました。
――どの事業所も、1日当たり5名が定員ですね。
齋藤:対象が重症心身障がいのお子さんなので、配置基準に沿ってスタッフをしっかりと配置しています。医療的ケア、リハビリ、保育それぞれの面から丁寧なケアをするためです。
現在(2024年1月)の登録者数は、児発の事業所がそれぞれ25名から30名ほどいらっしゃいます。その中から1日5名ずつご利用いただいてる状況です。放デイのほうはもっと登録者数が多くて、現在、57名の登録者がいらっしゃいます。その57名の中から1日5名ずつのご利用なので、月あたりほぼ1回しか利用できないという状況です。
当事者とそのご家族の理想を言えば、学校の近くに放デイがあって利用できるという姿です。でも、通える場所がないということ、それから私たちにとってはありがたいお話ですが「ここねさんとの縁をつないでいたい」というお声をいただいていること、この2つの結果、放デイのほうはそのような状況になっています。
特別支援学校の学区域の面から言いますと、一般的には放デイ1カ所に対して、おおよそ1校か2校が対象になるんです。一方、私たちは平日は4校を対象にしていて、足立区の東京都立花畑学園、江東区の東京都立墨東特別支援学校、城東特別支援学校、それから江戸川区の東京都立鹿本学園、この4つが対応しています。
ここから足立区や中央区に行くとなると、結構な距離と時間になります。行き帰りで2時間半ほどかかるケースもあります。お子さんにとっての負担は常々考慮しているのですが、それでも「ここねさんを利用したい」ということで1カ月に1回の楽しみとして利用してくださっている方も多くいらっしゃいます。
――日本としてのあるべき姿を考えれば、重症心身障がいがあるお子さんが通所できる児発や放デイがもっと増えることだと思いますが、難しい状況があると推察します。
齋藤:私たちの場合、3つの児発が経営のエンジンとして機能していたので、放デイを立ち上げることができました。
児発のような施設を東京都で運営する場合、都からの補助金が受けられます。ただ、重症心身障がいのお子さんを預かる施設として運営するには、専門職の人材を雇用して体制を整える必要があります。基準に対して必要な体制づくりとその人件費を考えると、正直、経営する側としてはハードルが高い部分があるのかなと思います。
オフライン・オンラインの両面からお子さんと家族を支える
――ここねさんが立ち上げたコミュニティスペースの「COCOLON BASE」や、2023年12月に始めたコミュニティサービスの「COCOLON」の位置づけについてうかがえますか?
齋藤:ご家族の方とお話をしていると、皆様はお子さんの通所を始めるまでに、たくさんのご経験を重ねてきたことがうかがえます。ここねへの通所が始まった段階というのは、お子さんに障がいがあるという現実に直面しつつ、病院でいろいろなことを整えて、さあお家に帰ってきた、という段階です。
つまり、それまでは医師や看護師の皆さんの支えがあったけれども、今後は家族でやらなきゃいけない。その不安感は、私たちの想像以上のものがあるはずです。
また、障がいがあるお子さんの子育てについては、必要な情報がネットや書籍だけでは補えません。特に、重症心身障がいのお子さんについての情報は少ない。その中でどうやって子育てしてったらいいんだろうと悩むのは、当然のことだと思うんです。
不安を抱えつつ、それでも何とか過ごしてやっと落ち着いてきて、社会にお子さんを連れ出したい、という段階になって初めて、私たちが児発で出会えるんです。
私たちがお子さんに初めてお目にかかる時は、ご両親は気持ちや生活、お子さんの体調も少し落ち着き始めている段階です。そのため、私たちは、お子さんの素敵なお話と、明るいご家族の様子をたくさん伺いながら通所の準備が始まります。けれども、ご両親はそこに至るまでにお辛い時期を過ごされてきたはずです。私としては、「大変な困っているときにもっとお子さんとご家族に寄り添えたらよかったのに」という思いが前からあったんです。
私たちの事業所はあくまで日中の支援です。ご両親が夜の時間や土日休日などでちょっと困った時、私たちは制度の中での業務になるので、動きづらいところもあります。そこで制度の枠とは別に何か支援ができないかなと常々考えていました。
そうしたら、篠崎の事業所で借りていた物件の隣の部屋が空いたので借りちゃおうっておさえて。それが2023年秋にオープンした「COCOLON BASE」です。例えばご家族が抱えている孤立感、孤独感、疎外感が少しでも軽減されるような情報共有ができる場所、あるいは何か困ったときに頼れる場所として運営できたらということで設けました。
こちらはセミナーなどで使っていないときは、レンタルスペースとして家族会などで使っていただけたらなと思っていて。ご家族のネットワークが作りやすい場所がないという問題に対応できるのではないかと。障害のあるお子さんのご家族同士でお茶をしよう、新年会しようとなったとき、お子さんがゴロンとできる場所がないとか、オムツ交換をする環境が整っていないといったことがよく課題になります。ここならそういう心配は無用です。全部環境整っているから使ってください、というような場所にしたいなと。
「COCOLON」はオフラインに加えたオンラインの場として位置づけています。全国の当事者ご家族の方たち、支援者、自治体の方、地域の方、地域に限らず誰でも参加できるような場として企画しました。
――オンラインサービスであるCOCOLONのユーザーは、どんな形でコミュニケーションがとれますか。
齋藤:会員さん用の掲示板機能があります。ここで、会員さん同士で直接やり取りをしていただけます。また、オンラインのイベントは遠方の方々も参加できますし、内容によってはここねに来ていただいて一緒に参加して、ご家族同士で交流していただくこともできます。
勉強会は今後も特に力を入れたい内容の一つです。講師の方を招いて私たちも学び、その質を上げていくことも可能ですので。
この前は、相談支援員さんに来ていただいて、重症心身障がいのお子さんが使えるサービスというテーマで、インタビュー形式でお話を聞きつつ、オンラインで参加されている方からのご質問も交えて動画にして配信しました。また、訪問看護師さんに来ていただいた回では、そもそも訪看さんってどんなサービスを提供しているのかといったご質問も含めて、参加者の方々からの素朴な質問に丁寧に答えていただきました。
――先ほど、重症心身障害のお子さんの子育てについては、ネットや書籍でも情報を手に入れるのが難しいというお話がありました。COCOLONを通じて、一歩進んだ深い情報をご提供しようということですね。
齋藤:はい。「このような場があると非常に助かる」という声を頂いています。制度に関しては自治体や厚生労働省のネットで確認できますが、それぞれのご家庭の事情に合った内容を確認したいとか、もっと掘り下げた内容を知りたいといった場合には、なかなか難しい現状があります。
例えば「お風呂問題」は、どこのご家族でも話題になるテーマです。重症心身障がいのお子さんをお風呂に入れることは、ご家族にとっては大きなイベントなんです。家族だけではなかなか難しくて、おじいちゃんおばあちゃんやヘルパーさんに手伝ってもらわなければいけない場合もよくあります。成長して体が大きくなってくると、自宅のお風呂では難しいというケースもあります。成長に合わせてケアの方法をどんどん変えなければいけません。毎日悩みの種なんです。
そこで、「こういう入浴グッズあるよ」「うちではこうやったらうまくいった」といった実際の話が、会員さん同士でお話できたらいいなと。こうした実用的な話題を掲示板などでしていただきつつ、オンラインやオフラインのセミナーで専門家の方にお話を頂いたり、ディスカッションしたりすることで、さらに掘り下げていけます。
――ここねさんを利用しているご家族にとっては、リアルとバーチャルの組み合わせで有効に活用できそうですね。COCOLONは、関西など遠方に住んでいるご家族にも有用ですか?
齋藤:先般、関西で開催された「キッズフェスタ」というイベントに出展してきました。元々大阪は福祉が盛んな土地柄もあって、関西地域にお住まいのご家族がたくさん来られていて、お話もできました。
抱えている課題はやはり(都内のご家族と)一緒だったんです。大阪にもCOCOLONのような場があったらいいな、という話題も出まして、オンラインのほうは遠方の方でも参加できますとご紹介してきました。
――オンラインのCOCOLONの登録者数は、現在どのくらいですか。
齋藤:2024年1月現在で、約70名です。(2023年)12月の間は試験サービスとして無料提供していましたので、無料会員の方も含めての数字です。有料会員のほうも含めて、これから大きく育てていこうと思っています。
大人がデジリハで遊んだら、お子さんにも通じた――2024年1月には、「COCOLONデジリハ体験会」としてデジリハの体験会を「ここね篠崎」の会場で開催していただきました。ここねさんでデジリハを採用された経緯や、使ってみた感想などを伺えますか?
齋藤:私たちの事業所では、お子さんたちに対して医療的ケアやリハビリは必要だったとしてもそこばかりに重きを置くのではなく、「心豊かな成長を支援する」という考え方を大事にしています。
そのため、障がいのある・なしに関係なく、お子さんたちにはとにかく遊んでもらいます。私たちとしては、「障がいがあるからこの遊び方はできないね」といった決めつけはせず、「どうやったらこの子も遊べるのか?」と考えつつ、私たちも子どもの頃に経験したような遊び、季節を感じていただけるような遊びなどを、バリエーションを持たせて提供しています。
一方で、放デイのほうは小学生以上なので単なる遊びだけにはしていません。一般の小学校ではクラブ活動や習い事が始まります。そのため放デイでは、遊びはもちろん大事ですが何かに挑戦して学べるような時間を過ごしてほしいと考えました。そうした考えに基づいて理学療法士でもある宮代さんが見つけたのがデジリハでした。
宮代氏(以下敬称略):3年ほど前にデジリハを見つけまして、まずはテスト導入をしてみました。
デジタルツールは今はもうどこにも当たり前にあって、小学校でもiPadなどを使って授業するような時代です。デジリハを使えば、リハビリをもっと楽しくできるのではないかと考えました。また、デジタルツールの使い方を遊び感覚で学んでもらえるんじゃないかという考えもありました。
――理学療法士というご専門の観点からも、デジリハに可能性が感じられたということですね。齋藤さんは経営者としてデジリハをどうご覧になりましたか?
齋藤:私は、自分の直感でこれはいいと思ったものは間違いないという信念がありまして(笑)。デジリハは斬新だと思いましたし、何よりも重症心身障がいがあるお子さんでも楽しめそうだと感じました。また当時は放デイを立ち上げるタイミングでもあり、お子さん向けの看板のようなものがあるといいなと。
デジタルツールは今の時代、お子さんたちには障がいがある・なしの関係なく、興味を引きつけやすいものです。これまで児発では、なるべく余分な経費がかからないよう工夫しながらプログラムを組んできました。デジリハの導入にはコストを投じる必要がありますが、使いこなせれば効果は大きいので検討してみようと。もしかしたら放デイだけでなく児発のお子さんたちにも行けるかもしれないし、より多くの方々にここねを知っていただくためのアイテムにもなりそうだと。そういった面ではプライスレスな価値があるのではないかと考えました。
――約3年間デジリハを活用されていますが、お子さんのご様子はいかがですか?
宮代:導入してから半年間ほどは、正直に言いますとミスったかなとも思いました。子どもたちの反応が良くなかったからです。今振り返ると、それは私たちがデジリハの特性をうまく理解できていなかったからだと思います。
デジリハは、アプリの中身と、お子さん一人ひとりに合わせた調整の仕方を考えていけば、本当にどんな子でも遊べます。導入を成功させたければ、まず私たち大人がデジリハとにかく遊ぶことですね。自分たちが遊び倒せると、アプリの特徴やセンサーの特性を知ることができますので。中途半端に知った状態でお子さんに使ってもらおうとしても、その良さを引き出せません。
今は、お子さんたちはみんなデジリハでよく遊んでいます。画面上でいろいろな動きがあるのが面白いんでしょうね。こうした演出は、やはりデジタルならではのメリットだと思います。
リハビリという観点で言いますと、障がいがあるお子さんは特定の物事に注意を向けるというスタートラインに立ちにくいことが多いんです。しかし、デジリハであれば、画面上で何かが動いていて、触ったら反応するので、スタートラインに立ちやすいんです。それに加えて、先ほども申し上げましたが一人ひとりに向けてカスタマイズできるところもポイントです。この子だったらどうやれば遊べるかを考えながら調整すると、お子さんはしっかり入り込んでくれます。
――デジリハを使うことによるリハビリ効果として、何か得られたものはありますか?
宮代:例えば、筋ジストロフィーのお子さんで、なかなか自分の体を動かしにくかった子たちがいます。壁にデジリハの画面を投影して他の子が遊んでいたら、面白がってカベに手を伸ばそうとするようになりました。筋力が弱いのでそのような動作は難しいんじゃないかと思っていたのですが、決してそんなことはなかった。私はそばで見ていて、本当に感動しましたね。
ただ、それをデジリハを使ったことによるリハビリ効果として評価するのは難しい面もあります。その理由は、もしかしたらその子は元々それができる能力を備えていたけれども、今までそれを発揮する気持ちになっていなかっただけ、という可能性もありますので。そういった事情はあるにしても、お子さんの意欲も含めて、様々な動作がデジリハによって引き出されているのは、注目に値すると思います。
もう一つ、あるお子さんのケースがすごく印象的でした。この子は座ることが難しく、一般には寝たきりといわれる子なのですが、手足がある程度は動かせて、目もすごく動くので、周りの人のことをよく見ています。この子が、目のセンサーを使ったデジリハのアプリですごく上手に遊んでくれるんです。
一方で、おしゃべりが得意で体もよく動かせるお子さんでも、目のセンサーを使ったアプリではうまく遊べなかったりします。つまり、デジリハを使うことで、私たちがお子さんのどこを見て、どう接していけばいいのかを発見する助けにもなっています。
――通所しているお子さんの特性をより深く知るための道具として、デジリハがうまく使えそうだということですね。
齋藤:デジリハを通して、お子さんがきれいなものや動いているものをキャッチしようとする動作をみると、お子さんそれぞれの意思表示を周りが認識できます。感動して私たちスタッフも泣いちゃうくらいなんです。本当にびっくりの連続です。
宮代:ご家族の方も本当にびっくりしていらっしゃいましたね。ご家族の方とのコミュニケーションが促されるという点でも、デジリハは有効な道具の一つだと思っています。
後半に続く