「ディグディガ」元ネタ紹介:第20話
これは、漫画「ディグインザディガー」第20話公開に際して、原作の栄免建設と漫画の駒澤零(と、たまにゲスト)が淡々と元ネタ紹介をしていくコーナーです。
ゲスト:零部(零進法)
原作担当:栄免建設
◆ゴクラクレコード
神奈川県の白楽にあるレコード店。白楽駅周辺を歩いていると、ひときわ外観に派手なペイントが施された店があるのですぐ見つけられるだろう。
読者の反応には25年前に行ったというのもありなかなかに老舗。
漫画ではインディ・ロック方面をメインに取り上げたが、レゲエや民族音楽のレコードも多く、個人的にはこちらがなかなかに刺さった。ここ含めて全国でも数店舗しか置いていないような作品が置いてあったりもするので、レアな作品が欲しい方は是非足を運んでみてほしい。
今回も取材とは別に個人的に購入したレコードはUK DUBの名門、「On-U sound」のコンピレーションシリーズ「Pay It All Back Volume 7」。Jungle Congo nattyのUK ALL STARSのDUBや日本からはにせんねんもんだい、Dry&Heavyの元ヴォーカル・LIKKLE MAIなどが参加している。
※ゴクラクレコードのSNSはありません。
◆RUMI - 極楽都市
フィーチャリングにMSCの02、ビートにTHA BLUE HARBのトラックメイカーO.N.Oが参加したRUMIの楽曲。
RUMIは90年代、YOSHI、DJ BAKUとのユニット、「般若」を結成。その当時の楽曲がYou The Rock☆のHiphopラジオ、HIP HOP NIGHT FLIGHTにて紹介されるなど、若くからその才能を開花。
般若は短期間の活動で解散するが、YOSHIはのちにMCネームを般若に改名、妄走族での活躍やフリースタイルダンジョンの初代ラスボスとして高い人気を誇り、DJ BAKUはビートメイカー、ターンテーブリストとしての活動や、人気イベント「KAIKOO」の主催など共に日本語ラップの重要人物である。
2008年のMCバトル大会、UMBの東京予選の決勝では、RUMIと般若の対決が見られる。
その後ソロのMCとして活動。漢 a.k.a. GAMIなどが所属するMSCのメンバーとの交流や、DRY&HEAVYの秋本武士率いるTHE HEAVYMANNERSの楽曲への参加など幅広く活動。
本作ではMSCのメンバー02が参加。重々しいリリックを淡々とラップする
アーティストだが、本作でも歌出が「高台で高笑いしてるファミリー レンタカー内の練炭で焚き火」とエグいリリックが飛び出す。
トラックメイカーには北海道のHiphopグループ、THA BLUE HARBのビートメイカー、O.N.Oが参加。O.N.OはHiphopに捉われないヒートが特徴でTHA BLUE HARBの2002年発表の2nd「Sell Our Soul」でアブストラクトなブレイクビーツ、それ以降ではTechnoの影響を伺えるビート制作をしており、本作でもまさにO.N.O節ともいえる独自のビートになっている。
RUMIは本作収録の2ndアルバム、『HELL ME WHY??』ではGOTH-TRADなどをプロデューサーに迎え、当時の日本ではまだ珍しかったDubstepの楽曲を多く収録した作品を発表した。
◆Lil Texas
アメリカ・LA在住のトラックメイカー。
活動初期では、UKのベースミュージックのレーベル、<Donky Pitch>からリリース。このレーベルの色とも言えるメロディックなシンセサウンドと
ジャージークラブの影響を窺わせるBass Musicのプロデューサーであり、
2017年には来日し<TREKKIE TRAX>のイベント等に出演、同レーベルからもリリースしている。
ところが、2018年代あたりから「TEXCORE」と名付けたハードコアサウンド主体の活動を開始。TEXCOREは、ジャンル的にはUptempo Hardcoreに分類される。日本で人気が高いHardcoreジャンル・Happy Hardcoreの流れのUK HardcoreよりBPMが20近く早い、強烈なサウンドだ。
現在はこちらの活動で多くの大型フェスに出演しているので、TEXCOREのイメージの人の方が今現在は多いと思うが、初期から追っていた自分からするとかなり衝撃的なレベルの作風の変化だった。
2020年、オンラインで開催されたフェス「Secret Sky」ではトリを担当。日本からも長谷川白紙やkz (livetune) などが参加したため、僕のタイムラインでも多くの視聴者がいたのだが、イベントオーガナイザーであるPorter Robinsonの非常にエモーショナルなセットが終わった瞬間に、いきなりカウボーイハットを被った刺青だらけの男が、犬の鳴き声のような割れたキックをガンガンに鳴らし、最終的にBPM600まで上がるという強烈なセットを披露。流れていく感想が困惑と盛り上がりでいっぱいになっていた。
今回オチで描かせていただいた白楽の立ち飲み餃子店、「餃子M」の取材時のメニューに「テキサス餃子」というものがあり、見てすぐに頭に浮かんだのがLil Texasだったため登場させました。これがかなり美味しかった。
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ゲスト:零部(零進法)
◆水玉消防団 - 満天に赤い花びら
水玉消防団は1978年に結成された5人組のガールズバンド。
可愛らしいバンド名と相反して、尖った音楽やビジュアルが特徴的。ボーカルの一人の天鼓氏はヴォイス・パフォーマンスの祖とされる人物で、バンドではベース兼ボーカルのカムラ氏らとそれらを駆使した独特のポストパンクを確立させた。結成当初メンバーは楽器未経験だったものの、P-MODELや有頂天、じゃがたら等のバンドと度々共演していた。
『満天に赤い花びら』は1985年に発表した2ndアルバムで、天鼓氏自身のレーベルである筋肉美女レコードからリリースされた。カンタベリーの過激派ことヘンリーカウのフレッド・フリスがディレクター兼ミックスを務めている。
◆クラゲイルレコード
「クラゲイルレコード」とは、1976年に開店した横浜のロック喫茶・夢音のレーベル。夢音で行われたライブ録音テープのCDR集がCRD2001〜2101までの100タイトル存在する。取扱店舗はゴクラクレコードのほかに新宿の模索舎や三軒茶屋のレコードショップFUJIYAMAなど、そんなに多くはない。
CDR集には天鼓氏とカムラ氏によるヴォイスデュオのハネムーンズや、80年代前半のポストパンク・ニューウェーブシーンの中心となったバンドが集合した伝説のオムニバス、REBEL STREETに参加している吉野大作&プロスティチュートやNON BaNdのライブ音源などがある。
漫画中、深堀がお店の人から貰ったクラゲイルの資料にはCDR集のジャケットが全て載っている。ジャケットは夢音店主の家原耕平氏の趣味でトイレットペーパーの包み紙をコピーしたものが大半となっている。
因みにこれらのCDR集を初めて見て衝撃を受けた私は、A-Musikのライブ音源を衝動買いした。
夢音は元々プログレッシブロック専門のロック喫茶で、ライブハウスのようにバンドが演奏する場所ではなかったものの、80年代に近づくにつれてパンクやニューウェーブ、実験系音楽を好む人達が集まり始め、その中の人達が自然とバンドを組み始めてライブをやるようになったそうだ。
この中でも一際目立ったインパクトを放っているのが、エクスペリメンタル系バンドの陰猟腐厭だ。今回漫画内では取り上げられていないが、彼らのソノシート「妥協せず」はクラゲイル初のリリース作品であり、レーベル内で重要な立ち位置にいるバンドとも言っても過言ではない。
「妥協せず」はTony Conrad & FaustのOutside the Dream Syndicateにインスパイアされた曲で、神奈川大学でのライブ中に突然学生運動家が乱入しアジ演説をし始め、更にPAが声にエフェクトを掛けて演説を阻止しようとするという何ともカオスな状況がソノシートにそのまま収録されている。
また彼らは関係者を集め、童謡のうさぎとかめをユニゾンで繰り返し歌い続ける「ペンギンカメ・オーケストラ」という謎のバンドを結成したことでも知られている。ライブは一度しか行われていない。
零進法 近日中のライブ
11/27 14:50~15:05 DHU学園祭 2022 @駿河台ホール (配信あり)
※時間が10分前後する可能性があります
最新EP「0進法」released by KAOMOZI
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漫画担当:駒澤零
「白楽に面白いレコ屋があるぞ」という話を零部くんから聞いたのはいつのことだったか。ちょうど私のレーベル<KAOMOZI>からEPをリリースするタイミングで取材ができそうだったので、今回ゲストをお願いする形に。
様々な要素がありすぎて漫画内でうまく表現しきれなかったのが残念ですが、怒涛のナゴム在庫祭からThundercatの金きらきんのレコードまで、あたしは全然詳しくないけどダブや民族音楽も充実、という敷地の割に濃いレコード屋、ゴクラクレコード。聞けばけっこう老舗らしいですね…。
◆六角橋商店街
横浜市神奈川区六角橋1丁目区域にある、長さ300mほどの商店街。
公式によれば、東急東横線白楽駅沿いのいわゆる「旧綱島街道」沿いの道と、並行するアーケード「ふれあい通り」にある約170店舗のことを指すらしい。生鮮食品から飲食店、雑貨まで、幅広い業種のお店が並んでいる。
漫画内にも描かれている商店街入口のアーチが特徴的で、白楽の観光マップなどにも描かれている。
◆コンクリーツ - J-TOWN STYLE
コンクリーツは清水寛率いる、1980年結成のニュー・ウェイブ・バンド。
ドドンパ(1960年代に日本で流行した特有のリズム・パターン。4拍子の2拍目に極端に大きなアクセントが付き、ジャズと同様に1拍の前半が長く後半が短いシャッフルで演奏されるスタイル)、レゲエを基調に、パンクをミックスしたパーティサウンドが特徴。
本アルバムは1984年、ボーカルのShim-con-kang(清水寛)失踪前にリリースされたもの。86年の失踪後はギターのNao-Kenが新たにボーカルとなり「新コンクリーツ」として『MISS FORTUNE』(1989)などをリリースするが、1993年にShim-con-kangが復帰。
上記のように、戸川純、平沢進もファンを公言している(ヒラサワは上記ライブ動画で参加している)。現在、色々編集盤やベスト盤が出ているため、今なら結構音源探しやすいかも。
ちなみにセリフにもしているがマジでケラさん関連多かった。中野のメカノ行くと大体有頂天のCDめっちゃあったりVHSとかも豊富だけど、レコードでこの量のナゴム周りを見たのは初めてで眩暈がしてた。
今回のプレイリストはこちら。
以上、ディグディガ20話の元ネタ紹介でした。ありがとうございました!