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中国と米国の研究協力関係が衰退。

Nature Briefingは2024年07月22日に、Natureは2024年07月19日にジェマ・コンロイ(Gemma Conroy)は、中国と米国の研究協力は減少傾向にあり、これは誰にとっても悪いニュースである。国際共著論文の分析によると、パンデミック以降、地政学的緊張のため中国と他国との科学協力関係は衰退している。減少の大半は米国の研究者と共著した論文によるものである。

科学者らは、協力関係の縮小により、地球温暖化、パンデミック、食糧安全保障などの優先事項に関する研究が停滞すると指摘する。「世界規模の災害や不確実性の増加を考えると、人類は国家主義的な対立に時間を浪費する余裕はない。」と科学・イノベーション政策研究者のタン・リー(science and innovation policy researcher Tang Li)は言う。

しかし、その背景には中国の武漢での共同研究で、アンソニー・ファウチ(Anthony Fauci MD)が関係して米国の資金が大量に利用されたということが大きく影響していることだろう。

分析によると、パンデミック以降、中国と他国との科学協力は米国との提携関係の悪化により低下している。

科学者らは、中国と米国の間の政治的緊張とパンデミックが相まって、両国間の研究協力に影響を及ぼしていると警告してきた。しかし、この種の低下の証拠が研究データベースに蓄積されるには時間がかかる。

最新の証拠は、シュプリンガー・ネイチャーの中国チーム(Springer Nature’s team in China.)が実施した分析から得られたものだ。
ネイチャーのニュースチームは、出版社であるシュプリンガー・ネイチャーから編集上独立している。

著者らは、ロンドンに拠点を置く出版分析会社クラリベイト(Clarivate)が所有するツールであるInCitesを使用して、2013年から2023年の間に出版された国際共著論文を分析した。InCitesは、科学引用データベースWeb of Scienceに索引付けされた論文を利用している。

2022年には、中国と海外の研究者が共著した論文の総数が2013年以来初めて減少したことがわかった(「Research Powerhouse」を参照)。

中国と海外の研究者が共著した研究論文の割合は、さらに長い間減少している。ピークだった2018年には、InCitesデータベースの中国の論文のうち26.6%(約11万件)が海外の研究者と共著だった。2023年までに、中国の論文総数は同時期にほぼ倍増して75万9000件になったにもかかわらず、海外の研究者と共著した論文の割合は7.2%減少した。

国際共著論文の減少は主に、米国の研究者と共著した論文に占める中国のシェアの減少によるもので、2017年のピークから2023年の間に6.4%減少しており、分析対象となった国の中で最大の減少率となっている。この調査結果は2024年04月25日に北京で開かれた中関村フォーラムで発表された。

米中共同研究の減少は、ネイチャー誌が2022年に実施した分析結果と一致しており、エルゼビアのスコーパスデータベース(Elsevier’s Scopus database)に掲載されている研究論文で、米国と中国の両方に所属する研究者の数は、2019年から2021年の間に20%以上減少していることが判明した。

最新の分析では、過去6年間で米中論文のシェアが徐々に減少していることが示されているが、パンデミックによって下降傾向が悪化したと、オーストラリアのシドニー工科大学(University of Technology Sydney in Australia)で中国を専門とするイノベーション研究者のマリーナ・チャン(Marina Zhang, an innovation researcher who focuses on China)は述べている。

政治的緊張
マリーナ・チャンは、米国と中国の間で続いている地政学的緊張も研究の減少に拍車をかけていると語る。「これは研究者にとって特に心配なことだ」と言う。米国司法省が2018年に開始した、研究と産業におけるスパイ活動に対処するための物議を醸した中国イニシアチブは、2022年に終了した。

この取り締まりの結果、中国の協力者や研究機関とのつながりを理由に数人の科学者が逮捕され、中国系研究者の間で恐怖が高まった。それ以来、米国政府は研究のセキュリティ強化に重点を置いたさまざまな政策を採用してきた。そして2023年07月、中国政府は改訂版対スパイ法を施行し、スパイ行為の定義を広げた。

米国と中国の両方で外国の干渉と見なされるものに対する取り締まりが強化されたことで、研究者は共同研究に対してより慎重になっているとマリーナ・チャンは言う。制限的な政策と恐怖の雰囲気は、特定の国や分野から才能を遠ざけ、「頭脳流出と貴重な人的資本の喪失」につながる可能性があると彼女は言う。

この米中協力への「萎縮効果」はすでに影響力のある研究を妨げていると、中国・上海の復旦大学で科学とイノベーション政策を専門とする研究者タン・リー(Tang Li, a researcher who specializes in science and innovation policy at Fudan University in Shanghai, China)は言う。例えば、2024年の研究では、NIH(US National Institutes of Health/米国立衛生研究所)の外国干渉調査が研究者に与えた影響を調べたところ、この期間中、中国に協力者がいる米国の研究者は、他の国の科学パートナーと協力する同僚よりも生産性が低かったことがわかった1。

マリーナ・チャンは、米中間の協力関係が弱まると、気候変動、パンデミック、食糧安全保障などの地球規模の問題に取り組むために協力するのではなく、両国が別々に同じ種類の研究を進めるようになる可能性もあると言う。

内向きに
さらに心配なのは、両国が国際協力よりも国内の利益を優先するようになり、科学研究がより国家主義的な取り組みになる可能性があることだとマリーナ・チャンは言う。

中国の他の国々との協力も2020年以降減少しているが、米国との協力ほど顕著ではない。タン・リーは、米中協力の復活は、そのような科学的なパートナーシップが両国間の溝を埋めるのに役立つ可能性があるため、非常に重要だと語る。「世界規模の災害や不確実性の増加を考えると、人類は国家主義的な対立に時間を浪費する余裕はない」と彼女は言う。

ただし、世界で最大の死者を出した米国が、コロナのようなことが起こった以上、残念だが、かなり衰退することだろう。回復は時間がかかるし、不可能かもしれない。

doi: https://doi.org/10.1038/d41586-024-02046-9

https://www.nature.com/articles/d41586-024-02046-9
https://www.nature.com/articles/d41586-020-02015-y
https://www.nature.com/articles/d41586-022-01492-7
https://www.nature.com/articles/d41586-024-00380-6
https://www.nature.com/articles/d41586-022-00555-z
https://www.nature.com/articles/d41586-021-02603-6
https://www.nature.com/articles/d41586-021-02976-8
https://www.nature.com/articles/d41586-023-00543-x
https://www.nature.com/articles/d41586-024-00692-7

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