燃料補助金、脱炭素に逆行し、世界で推計100兆円超。
日本経済新聞 電子版は2022年06月12日に、ガソリン・電気代を抑制する燃料補助金が世界で急増していると報告した。
気候変動問題に取り組むため各国のリーダーが削減で合意したはずが、新型コロナウイルス危機への対応や原油高で膨張し、年間で計100兆円を突破するとの推計があると報告した。巨額の補助金が常態化すれば、脱炭素の掛け声はかき消されかねないと伝えている。
ガソリン値上げなどの打撃から貧困層を救おうと、多くの国には価格に上限を設けるといった補助金制度がある。こうした補助金が市場をゆがませムダ使いを広げる副作用は大きいとの指摘を受け、主要国のリーダーは20カ国・地域首脳会議(G20サミット)などの場で削減をうたってきた。
ところが、新型コロナ危機を受けた未曽有の財政出動や、ロシアによるウクライナ侵攻を受けた燃料価格の高騰で、補助金は一気にふくらんだと伝えている。
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カナダのシンクタンクIISD(International Institute for Sustainable Development/持続可能な開発に関する国際研究所)のシニア・ディレクターのピーター・ウッダーズ(Peter Wooders is IISD's Senior Director)は、2021年におよそUS$5000億(約67兆円)あったとみられる世界の燃料補助金が、2022年に66%増の約US$8300億になると推計する。
IISDは原油価格が補助金におよぼす影響を分析した。
過去の相関からみて、1バレルUS$25の原油上昇は、APEC(Asia-Pacific Economic Cooperation/アジア太平洋経済協力会議)参加国の補助金を約33%引き上げる効果があった。原油価格は2021年12月はじめからおよそ1バレルUS$50上昇しているため、この水準が続けば、2022年の世界の補助金は前年より約66%膨らむと予想できる。
新型コロナ禍からの回復を環境対策に役立てるために割り当てられた先進国の「グリーン・リカバリー予算(Green Recovery Budget)」はOECD(Organization for Economic Cooperation and Development/経済協力開発機構)の試算でUS$1兆900億。燃料補助金はこの規模に迫り、脱炭素の流れに逆行している。
UNEP(国連環境計画/United Nations Environment Programme)のジョイ・キム(Joy Aeree Kim)によると、スウェーデンがガソリンやディーゼル減税を模索しているほか、英国、フランス、ドイツ、イタリア、スペインが電気料金の上昇に上限を導入した。日本政府はガソリン補助金の上限を引き上げた。
「今後も各国の補助金の額は増えていくだろう」と予測する。
産油国のサウジアラビアはガソリン価格の上限を設定した。
ナイジェリアやパキスタンは燃料補助金の廃止撤回や規模拡大で、IMF(International Monetary Fund/国際通貨基金)との対立が表面化した。パキスタンのカーン前首相(Former Prime Minister of Pakistan Imran Khan)はこの結果、議会による不信任案の可決につながった。
「はじめは財政赤字の問題だった燃料補助金が国際収支の問題に発展した」とパキスタンのシンクタンク持続的発展政策研究所のアビド・スレリ所長(Dr. Abid Qaiyum Suleri, director of the Institute for Sustainable Development Policy, a think tank in Pakistan)はいう。
燃料高は各国に「生活費の危機」をもたらしたが「ほとんどの補助金は貧困削減の目標につながっていない」とジョイ・キムはいう。途上国では所得の下位40%が受け取るガソリン補助金の利益はわずか7.4%で、上位40%が83.2%の利益を手にする。
現金支給など燃料価格と独立した支援によって弱者を助けるほうが「効果的で公平」と多くのエコノミストは指摘する。途上国の貧しい人たちの多くは自動車をもたず、電力へのアクセスもかぎられる。
つまり、格差拡大につながっている。
最大の問題は、補助金が化石燃料の本来のコストを見えなくすることだ。安すぎる電力料金が省エネの努力のじゃまをする。二酸化炭素(CO2)排出に値付けをする「カーボンプライシング(carbon pricing)」にも逆行する。
ロシアのウクライナ侵攻を支えているのは、ガスや石油の収入である。2022年05月末にEU(European Union/欧州連合)首脳会議は海上輸送のロシア産原油を買わないと決めた。
痛みは承知で、将来のエネルギー安全保障のための決断だった。ただ補助金で再生可能エネルギーへの移行が遅れれば、脱ロシア依存も妨げられかねない。
「環境や経済のために社会的な保護を犠牲にはできないが、短期的な社会や経済の利益のために将来の環境の安全を犠牲にすることもできない」とピーター・ウッダーズはいう。
インフレ圧力が強まるさなか、政治家にとって改革のハードルは高い。必要なのは改革の熱意に注ぐ燃料だろうか。
さらに、バッテリー問題などにより、EVなどの開発が遅れている。
つまり、高い視点からのロシア制裁ではなく、目の前のことを重視して、足並みがバラバラの状態のまま走り出したツケが返ってきた。
これは政治ではなく、ヒステリーである・・
感情だけで、指針を打ち出している。