第21回デジタル進化生物セミナー
第21回デジタル進化生物セミナーを開催します
3月24日(木)15:00-
佐藤駿博士(総研大・学振PD)
「カワスズメ科魚類における「利他性」の統合的理解への挑戦」
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2022年3月24日木曜日15:00-(日本時間)
佐藤駿博士(総合研究大学院大学 日本学術振興会特別研究員)
「カワスズメ科魚類における「利他性」の統合的理解への挑戦」
要旨
本公演では、演者のカワスズメ科魚類のもつ「利他性」に対する2つの異なったアプローチによる研究を紹介する。第一に、タンガニイカ湖産カワスズメ科魚類における協同繁殖の進化に対する系統種間比較法を用いた研究を紹介する。協同繁殖とは、ヘルパーと呼ばれる繁殖者ではない個体が子育てに参加する社会システムのことである。魚類において協同繁殖が報告されているのは、タンガニイカ湖に生息する限定された一族(ランプロロギニ族)だけである。そこで、ランプロロギニ族内において協同繁殖がどのような生態的要因によって促進されたか、その進化によって生活史形質にどのような影響があるかを、73種類のカワスズメ科を対象に種間比較法を用いて解析した。これらの結果を受けて、動物の社会が複雑で「利他的」に変容する原因とその帰結について議論する。第二に、カワスズメ科魚類の一種であるコンビクトシクリッドに対しておこなわれた向社会的選択課題(PCT)の結果について紹介する。この実験系では、実験個体に自分と実験パートナーの両者が報酬を受け取れる選択肢(= 向社会的選択肢)と自分だけが報酬を受け取れる選択肢(= 反社会的選択肢)を提示し、実験個体がどちらを選ぶかを調べる。実験の結果、コンビクトシクリッドのオス個体は、実験パートナーが繁殖メスであるとき、積極的に向社会的選択肢を選ぶことが明らかになった。また、彼らのPCTにおける選択には、実験パートナーとの関係性や社会的状況が重要な要因であることがわかった。これらの結果を受けて魚類のもつ「利他性」と我々霊長類の「利他性」の類似性について議論する。
また、これら二つの研究は、それぞれ進化生態学・比較認知科学といった異なる研究分野の視点に基づいて行われたものである。最後にこれら二つの研究分野を繋げ、動物の「利他性」や「協力」を統合的に理解するための演者の考える今後の研究展望についても紹介したい。
参考文献
Satoh et al. (2021) Prosocial and antisocial choices in a monogamous cichlid with biparental care. Nature Communications. 12:1775