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『新政の流儀』刊行記念トークショー書き起こし (後編)

4月17日に六本木蔦屋書店で開催された『The World of ARAMASA 新政の流儀』の刊行記念トークショーで話されていた話をシェアします。文章として読みやすいように、一部、私が意訳をした部分もあります。

前編はこちら。後編は今年の酒造りなどの話です。

今年の酒造りについて

馬淵 せっかくだから、本から外れた話もしていきたいと思います。今年の酒造りはどんな傾向があったんですか?

佐藤 今年の酒造り……。あれ?俺たちのXもあるんだっけ?

馬淵 我々は六本木のウォーターで。

(X-typeが壇上の二人に運ばれてくる)

佐藤 来るみたいだぞ。おー、きたきた。

馬淵 みなさまは既にお飲みになられて……。もう半分以上たっているから、飲み干している方もいますよね。

佐藤 去年までのXは扁平精米ではなかった。普通の精米で40ぐらいで、今年から扁平精米の45に変わった。いままでのX-typeって一番濃かったんだよね。RとSよりも。どろどろと溶けていって。その分、迫力があってよかったんだけど……。ただ正直、RとSのライン上に味がなかったので、統一感はちょっとないなと思っていたんです。

なので今回はみんな扁平精米にして、揃えた感じです。R,S,Xの順に透明度が上がっていくみたいなスタイルになったかな?と思います。これは1本目のXですね。これはけっこう頑丈ですよ。酒質も。生ひねとかもほとんど出てないし。ただこれ、瓶がね。じゃっかん光を通す瓶に入れてしまったんですよ。

馬淵 そうですよね。

佐藤 絶対に光を通さないよう袋に入れた。ダイレクトパスっていうおいしいところは箱に入ってるからいいだろうとも思ったんだけど、冷静に考えたら、箱からとって、そのまま冷蔵庫の中に置くことってあるわけじゃん。袋に戻さなかったりしたら、特に飲食店だと、その可能性が高いでしょ。

馬淵 そうですね。

佐藤 やっぱりこれは紫外線がちょっとでも通るから嫌だって思うようになった。それで紫外線を当てるような実験をやったところ、やっぱり味がよくなくなってる可能性があるとわかったので、急遽、透明がかったフロストって白じゃなくて、完全に塗装した真っ白のやつに変えることにしました。この1本目と2本目は透明のフロストに入っています。ただ途中から、瓶のデザインが変わっちゃうんです。

馬淵 それもまた、それでいいと思うんだけど……。

佐藤 知らないうちにこうデザイン変えてたりするので、申し訳ないなと、いつも思うんですけど、今回も途中でガラッと変わります。

馬淵 そういうデザインの話も、今回ここに書いてありますんで。

佐藤 そこをね。しっかりと書いていただいた。

馬淵 でも大変でしたよ。

佐藤 構成が大変そうですよね。

馬淵 その間、新政を飲むのやめようと思いましたよ。飲みましたけど。

No.6 X-typeのテイスティング

馬淵 今年から新政のお酒の裏にテイスティングコメントが載るようになったんですよね。ただ生酒にあたるNo.6にはいれない。味が変わっちゃうかもしれないからですよね?

佐藤 っていうか、生酒は変わるので。こうしている間にも変わっているので。

馬淵 なので、今日は飲んでいただいて生でテイスティングコメントをいただこうかと。

佐藤 香りは…ぼくは自分のところのお酒って、やや甘いにおいがすると思うんだけど、甘いにおいが主体的じゃなくて、ちょっと酸のにおいとか、柑橘系だったり、青りんご系だったり、酸のにおいが常にあって、ちょっと甘ったるい香りとバランスをとっているのが好きなんですよ。

けっこうカラメルっぽい、甘いにおいとかがドカンと出てくるようなお酒が、基本的に日本酒にはとても多いんです。そういう意味ではこれは香りからして、そうですよね、青りんごのような香り。あと6号酵母の香りって地味なので、果物系の香りだと、和の果物に寄ってきます。びわのにおいとか、そういうにおいがしますよね。あとナシだったら、洋ナシではなく和ナシのようなみずみずしい、まぁ、そういうものとかも。ちょっと柑橘っぽい酸味や青りんごを思わせるすっぱい……これいい感じですよね。

colorsの新作「Earth ~産土~」について

馬淵 No,6もそうなんですけど、皆さん今日お持ち帰りいただくのはEarth。これはcolorsの新作ですよね。新政の流儀、刊行記念別誂の限定酒。

佐藤 そうですね。これはいつ出るかわからないから、とりあえず直汲のほうは先行して飲んでもらったほうがいいのかな?本来いつ出るかわからないから。

馬淵 Earth本体のほうは?いわゆるEarthは?まだ発売は決まっていないと。

佐藤 発売は決まってない。うん。これは中取りじゃなくて直汲なんだよね。大多数の本体の発売はまだ決まってない。たぶん1年とか2年とかおいたほうがいい。

馬淵 僕は飲んでないから、なんで?としか言いようがないんですが。

佐藤 そうね。うーん。まぁ、このお米の特性もありますよ。陸羽132号というね。荒くって、けっこうワイルドなんですよ。亀の尾もそうなんだけど、開けたてっていうのは還元的で、けっこうカチカチっとした感じになるので、2,3年置くとちょうどいいのかな?っていう気がしますね。

馬淵 2,3年置いて、そうすると環境が違うわけですよね。温度帯も違えば、どれだけ振動を与えたかも違うでしょうし、残念ながら、その間に……。ということはお隣にいる方と2,3年後かにあけたら、若干違う味になっているかもしれないですよね?

佐藤 まったく同じではないけど、でも、どういう状態でもピークアウトはしないっていうのを考えて2,3年って言ってるから。まぁ、大丈夫だとは思うんですけど。

馬淵 大丈夫ですよ。

佐藤 ただね。各家庭で持ってるの大変なんで、2年3年っていうのは理想論です。それぐらいは持つので……。

馬淵 今日ここに来ている方々は、それくらい大丈夫な方々ですよ。

佐藤 本当にそれくらいは持っていても損はしない。それぐらいの感じでいいです。

馬淵 いや、いいんですよ。別に今日あけていただいても。それはその方の自由なんで。

佐藤 それは、確かにそうだよね。ただちょっと寝かしたほうがいいかな?ってそういう、はい。

馬淵 っていうのが蔵元談っていう。お手元にいったら何しても構わないわけですから。

佐藤 でもこれ、ラベルにも「現状はあまり冷やさず常温帯域で楽しむか、数年単位の長期熟成を施してまろやかに仕立てるのがおすすめ」って書いてある。長いね、ちょっと荒いって。荒いっていうのはポジティブな言いかただけど。

馬淵 荒い酒っていうことですね。

佐藤 最初は荒い酒でも、おいしいんですけど、米の特性というのがそういう、雄町とかどろどろ溶けるのはすぐ飲んだほうがいいんだよ。でもこれ(陸羽132号)は、何をやっても溶けないから、もう、溶かそう溶かそうって思うんだけど、あまり無理にやると、苦みとかが出るから、この辺で切り上げなきゃっていうのがある。それで、このしぼりたてはちょっと荒いかな。でもそれって品質が長い証拠だと思うから。

あとアースって新しいブランド作るからって、もう一つ特殊技術を入れたの。今年から。しぼったやつをもう一回、二次発酵にかけた。もっと耐久性を増すために。一回絞るじゃない。一回絞ると僕のところはアルコール低いから酵母の死滅率がゼロなのよ。だから基本的に死んでないわけ。

ひねるっていうのは酵母の死骸のせいで味が変になるわけ。酵母は大体15%以下では死なないので、大体13.5~13.7くらいで絞っていると、酵母の死滅率ゼロなのね。その代わりに酒が採れないとか、悲劇的なことがいっぱいあるんだけど……。

それで火入れをすると、酒の中の成分が急速に酸化する。生と火入れだと、火入れのほうがその分ダンッと味が進むんだよね。それ以降はすすまないけど。この火入れで出た熟成のようなものをとろうと思った。

こういうものって酵母が食べちゃうから、火入れした酒をもう一回、発酵させる。スパークリングじゃないから、スパークリングになるレベルまでは発酵させない。大体2カ月くらいで、アルコールが0.1%出るか、出ないくらいの微弱な発酵をさせる。そうすると、火入れのときに出た熱ダメージによる成分を全部酵母が食べてくれる。

それからもう一度絞ると、また最後に酵母が取れちゃう。そうすると火入れだけど、火入れによって受けた熱ダメージの成分がなくて、かつ生きてる酵母がまだいるから、どことなく生っぽい感じもでる。という、新しい米なのに色々とやりすぎた。ちょっとそういう意味では。

馬淵 チャレンジなお酒っていうことですね。

佐藤 ただ2回目の発酵のときに、けっこう甘さを食われて、ちょっとね、辛口っぽいかな?っていうところが、少し嫌だった。ただその分、寿命が長いと思います。ほんと珍しいんですよ。この後で、このレザレクションっていう手法はあまりに大変だからほとんどできてないんですよ。

馬淵 そういう意味でも珍しい。

佐藤 珍しい手法のお酒ですね。

馬淵 もっと話をしたいんですけど、時間がなくなってしまいました。30分という短い時間でしたが、祐輔さんありがとうございました。

(終)

試飲で提供されたNo.6 X-typeとcolorsの新作Earthの話が聞けてとても濃密な30分でした。個人的に昨年まではNo.6だとRやSの方が好きだったんですが、今年は飲み比べたところ、圧倒的にX-typeが好きです。まぁ、No.6はなかなか手に入らないんですけどね。

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