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【連載小説】新説 桃太郎物語〜第十二章  (毎週月曜日更新)

雉と緑鬼は激しく戦いました。

緑鬼は両の手にある“目”の術により、数多く置かれた鏡の中を行き来しながら、腕に付けた鉤爪で攻撃を繰り出して来ます。鏡はざっと数えても百はあり、緑鬼がどこから出て来て、どこに消えていくのか見当をつけるのも難しい状況でした。

しかし、雉は半人半鳥の国で学んだ鳥の能力の一つでもある、視野の広さを遺憾なく発揮し、次々に緑鬼の攻撃を避け続けるのでした。

「…ほほう…。王女様は随分と鬼ごっこがお得意のようですね…。」

『…そうねっ、このくらいの間合いなら、いつまでたっても私は捕まえられないわよっ。』

「…そうですか…、それではこちらも本気を出すとしましょう…。」

緑鬼はそう呟くと、先ほどとは比べ物にならないくらいの速さで襲いかかってきました。雉はなんとかその攻撃を往なしていましたが、速さに加え鉤爪の重さも増している為、徐々に攻撃を受け始めてしまうのでした。一通りの攻撃を終え、鏡の中に入った緑鬼は雉にこう言いました。

「…王女様…。先ほどまでの余裕はなくなっているようですね…。…このままでは少々まずいのではないですか…?」

『…残念でしたっ。…私はまだまだ全然元気なんだからっ!!?!』

そう言った雉ですが、心の中ではこう思っていました。

『…正直、動きの速さも相当だけど…どこから出てきて、どこに行くのかわからない鏡は本当に厄介ね…。せめてどこから出てくるかさえわかれば攻撃のしようもあるんだけど…。』

雉は俯きながら、必死に考えを巡らせました。

「…強がっているのが見え見えですよ…。」

『…………。』

その様子を見ていた緑鬼はそう言ういましたが、雉は何かを考えているようでした。

「…どうしました…?…あまりの絶望感に…とうとう声も出なくなってしまいましたか…?」

その言葉を聞いた雉は、突然力強く顔を上げるのでした。

『…っ?!?緑鬼っ!覚悟しなさいっ!!こっちの反撃開始よっ!!!』

そう叫ぶと、全身の羽を刃に変えて一気に解き放ちました。

「…くっくっくっ…、…王女様…どちらを狙ってらっしゃるんですか…。…私はここにいますよ…。」

鏡の中で余裕の笑みをこぼした緑鬼は、雉に攻撃を仕掛けようと鏡から出ようとしました。

その時ですっ!


ガシャーン!ガシャーーン!!ガシャーーーーーーーン!!!!

部屋の至る所にある鏡が、次々に割れていく音がこだましましたっ!!

「…なっ…なにっ…?!?」

そして鏡から出た緑鬼が目の当たりにしたのは、攻撃態勢に入った雉でした。

次の瞬間

「…ぐわっ?!?!」

雉はすぐさま自慢の足爪で緑鬼に致命傷の一太刀を食らわせました。

「…ばっ…ばかな…。なっ…なぜっ…私の位置がっ……。」

その場に蹲る緑鬼。それを見下ろして雉は得意げに言うのでした。

『…答えは簡単…。一番の問題はあなたの身のこなしの速さじゃなくて、鏡の中に入ってしまうこと…。鏡の数が多ければ多いほどどこから出てくるかわからない…。でも逆に、鏡が一個しかなかったとしたら、どんなに動きが早くても待ち伏せするのは簡単だとは思わないっ??』

そうです!

雉は緑鬼のでてくる鏡を特定するために、一つの鏡を残してそのほかを全て壊すために羽の刃を放ったのです!!

「…かっ…考えましたねぇ…。まっ…まさか…私が…破れるとは…。。。」

緑鬼が絶命するのを確認すると雉は言いました。

『緑鬼っ。貴方思っていたより歯応えがなくて、私ちょっとがっかりしちゃった…。まだまだこれからが面白くなっ……っっっ……っ…っ…………?!?!?』

……

雉は突然…

自分の足に力が入らないことに気がつきます…

そして…

視線を下ろしたその先に…

脇腹に突き刺さる…

鋭い鉤爪を確認するのでした…。

…………………………………………………………………………………………………………………

雉が背後を振り返ると、そこには今、目の前で絶命しているはずの緑鬼が不敵な笑みを浮かべて、雉の脇腹に鉤爪を突き立てていました。

『…どっ…どうしてっ…。』

「…王女様…、王女様は私の事をまだまだ解ってらっしゃらないようですね…。」

緑鬼が鉤爪をゆっくりと抜くと、雉はその場に倒れてしまいました。そして、緑鬼にこう尋ねるのです。

『…どっ…、…どういう…ことっ…。』

「…そこに倒れているのは私の影武者です…。私の“手の目”は、術をかければ私と同じように鏡の中を行き来できる様にすることができるのですよ…。」

『…なっ…?!?!』

「気がつかなかったかもしれませんが、私はずっとこの部屋の天井から戦況を見つめて、私の影武者の動きに合わせて声だけ出していただけだったのです…。…戦いに夢中になって全体に気を配らなかったのはあなたの注意不足でしたね…。」

『…緑鬼っ…。…なっ…、なんて…卑怯者っ?!?!』

雉はそう言うと緑鬼の足にしがみつきました。

緑鬼はすぐにそれを払い除けると言いました。

「…卑怯者…??…あなたはこの戦いを何だと思っているのですか??…この戦いは“生きるか死ぬか…、おままごとととは訳が違います…。どんな手を使っても最後に立っていたものが勝者…。あまり戦をなめないでいただきたい…。」

『…そっ…、そんなっ…。』

「鏡を割って、出てくるところを特定した作戦は見事でした…。本来ならあなたは私と戦っていないことに気が付きもしないまま死んでいただきたかったですからね。…くっくっくっ…。でも傑作でした…。あなたが影武者をうって、これみよがしに自慢げな顔をしていたときは…、本当…笑いを堪えるのに必死でしたよ…。」

雉は何も言えず悔しさで顔を歪めました。

「…さあそろそろおしゃべりは終わりにしましょう…。最後の一撃であなたを葬って差し上げます。…もうお分かりだとは思いますが、私は用心深い性格でしてね…。…まずはこうさせてもらいますっ!」

緑鬼はそう言うと、雉の目に砂をかけました。

『…うっっ?!?!』

「…これであなたの厄介な視界は塞がれました…。…ただ…、これだけでは不十分です…。さらにこうします…。」

緑鬼が“手の目”に力を込めると、部屋の中を照らしていた松明が全て消えて、漆黒の闇があたりを包むのでした。

「…これでよしと…。それではこれから闇に紛れて、あなたを処刑させていただきますね…。」

緑鬼は気配を消し、闇の中へと消えていきました。

…、

………、

………………。

…ぐさっ………!!

…最後の一太刀が突き刺さる音が響き渡りました…。

そして…

徐々に松明の火が灯っていき視界が開けてくると…

雉に抱きつく様に覆いかぶさる…

緑鬼の姿がそこには見えました…。

…………………………………………………………………………………………………………………

…、

………、

………………。

決戦の場には、物音一つしない静寂が支配していました。

そしてしばらくしてから、その静寂を破って声を上げたものがいました。

『………ちょっとっ?!?いつまで私に抱きついているのよっ!?!…まったくっ失礼しちゃうわねっ!!!』

それはなんと雉でしたっ!!

雉はそう言うと、緑鬼を跳ね除けました。

「…がっ…がはっ…!?!?!」

後ろに倒れた緑鬼の胸の真ん中には、羽の刃が深々と突き刺さっていました。

『…緑鬼さん…、緑鬼さんは私の事をまだまだ解ってらっしゃらないようですね…。』

「……どっ…どうしてっ…私の姿が…、しっ…、視界も潰し…、けっ…気配も消していたのに…。」

『…気配を消していた…?!?…緑鬼さん…自分の服の裾をよく見てご覧なさいっ。』

「………。…っ…?!?!…こっ…これはっ…?!?」

雉に言われた緑鬼が、自分の着物の裾を調べると、そこには小さな磁石が付いていました。

『渡り鳥がどうしてあんなにも長い距離を、毎年毎年道にも迷わずに往復できるか不思議に思ったことはないっ?…私たち鳥はね、磁気を感知する能力があるのよ…。言ってみれば、方位磁石を持っているのと同じ事、だから道に迷わない…。』

「…なっ…?!?!」


『さっき貴方に不意打ちを受けた後に足にしがみついたでしょ?その時にその磁石を仕込ませてもらったわ。貴方が用心深いのは痛いほど理解してるから、もしまた姿を消したりされたら厄介ですからね…。案の定貴方は私の視界を奪ってきたけど、その磁石のおかげで貴方の行動は手に取るようにわかったわっ!!貴方に悟られない為に必死だったけど…、私の演技も捨てたもんじゃなかったでしょうっ?!?』

「…きっ…貴様ぁ…。……ひっ、…卑劣な…真似をっ?!?!」

『…卑劣な真似…??…さっき貴方が言ったんじゃないっ?!“…この戦いは“生きるか死ぬか…、おままごととは訳が違います…。どんな手を使っても最後に立っていたものが勝者…。”…戦をなめていたのは緑鬼…貴方だったようねっ?!?!』

その時です、

「…くっ……。…ぁああっ…、、、…くわぁ……っっっ?!?!」

緑鬼は苦悶の表情を浮かべ、苦しみだしました。

『…そろそろ時間の様ね…。羽の刃は、確実に貴方の急所をとらえたわ…。』

「…ぐわぁ……っっっ…くわぁ……っっっ?!?!」

『…貴方は今まで相手を精神的にも肉体的にもギリギリまで追い詰めて殺戮を繰り返してきた…。…今まで貴方が殺してきた者達の苦しみはこんなものではなかったはず…。その全てを悔いて地獄に落ちなさいっ?!?!』

「…おっ…おのれぇ…、わっ…私が…、こっ…こんな…小娘なんぞにぃーーーっっっ?!?!」

緑鬼は怒りに満ちたまさに“鬼の形相”で絶命し、そのまま灰になりました。

『…この緑鬼の灰を振りかければ呪いも解けるはず…。…お父様、お母さま…そして国民のみんな…私やったよ…。』

雉は呪いを解くために緑鬼の灰を瓶に集めながら、心の中でそう呟くのでした。

『よしっ!傷も大した事ないっ!!まだまだ動けるっ!!!急いで行かなくっちゃ!!!!』

そう言うと雉は、もう一度気合を入れ直し、急ぎ洞穴の奥へとかけていきました。

こうして雉と緑鬼の因縁めいた壮絶な戦いは、今まさに幕を閉じたのでした。

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