【連載小説】新説 桃太郎物語〜第二十一章 (毎週月曜日更新)
【第二十一章 “瞋恚”の巻】
桃太郎一行は崩れゆく奇岩城の中を必死で駆け抜け、間一髪脱出に成功し外に出ました。
四人が振り返ると、轟音と共に無残にも崩れゆく漆黒の鬼の巣窟がそこにはありました。
『…やっと…、…やっと終わったな…。』
『…本当に長かったわね…。』
『…そうだな…。』
猿、雉、犬はそれぞれ呟きました。
それぞれが感傷に浸っていたその時、背後から大きな声が聞こえてきました。
「ぅおぉぉーいっ!?!お主らよくやったのぉーーー?!?」
そこには、手下の鬼達を一掃した服部半蔵率いる伊賀忍者軍団がいました。
『半蔵さんっ?!?』
猿は元気に答えました。
「皆さんっ?!?ご無事の様ですねっ?!?!」
半人半鳥の女王と兵士達も笑顔で手を振っています。
『女王様っ?!?!』
雉も笑顔で手を振り返しました。
「…お宝…がっぽりいただいたっ!!」
孤高の狼も満足そうです。
『…ふっ…。』
犬も照れた様に、はにかみました。
『…皆さんっ?!?皆さんもよくご無事でっ?!?!?』
桃太郎も皆に向かって大きな声で叫びました。
『…桃太郎っ?!犬っ!?雉っ?!?…さあっ?!早くみんなのところへ行こうぜっ?!?!』
猿がそう言うと、桃太郎が答えます。
『そうだなっ?!?!みんなっ行くぞっ?!??!』
桃太郎一行は、最高の笑顔で皆の元にかけて行きました。
その時ですっ!!
ドォォォォォォォォーーーーーーーーーーーンッ?!??!?!?
背後でものすごい爆発音と共に、あたり一面が物凄い砂煙に覆われました!!
『…なっ…なんだっ??』
猿が驚きと共に叫びました。
『…どっ…どうしたっていうのっ??』
雉も心配そうに叫びました。
『…っ??…??』
犬は警戒心を強めました。
砂煙が徐々に薄まり…
その場の視界が晴れてきました…
目を凝らして様子を伺う一行…
そこには…
『!!!!っ?!!』
どす黒い憎悪を身に纏い…
あの赤鬼をも遥に凌ぐ殺気を帯びた…
巨大な“鬼”が立っていました…。
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四人は息を飲み、その“鬼”を見つめていました。そんな中、猿が声を上げます。
『…やいやいっ?!?…おめぇーは一体何者だっ?!?』
すると、腹の底から響き渡ってくる様な低い声が、どこからともなく聞こえてきました。
「…ふっふっふっふっ…。…私が誰だか、本当にわからないのか…、…桃太郎。」
『…なんだと…、わりぃーけどお前みたいな気色悪いやつ、オイラ達は知ら……。』
猿がそう言っている途中で桃太郎がさえぎり、こう呟きました。
『…お前は…、…青鬼…?!?!?』
「…そうだ。…私は…青鬼だっ?!?!?」
『…あっ…青鬼だと…??』
『…青鬼…?オイラ達が知ってる青鬼と全然違うじゃねぇーかっ??』
『…なんで??青鬼は桃太郎が倒してきたんじゃないの??』
犬、猿、雉も驚きを隠せない表情で呟きます。
「…桃太郎…お前は私を倒した気でいたと思うが…実は生きていたのだ…。…三人の半人半動よ…、お前達もそれぞれ黄鬼、緑鬼、黒鬼を葬ったが、絶命した後、奴らはどうなった?」
『…灰になって消えた…。』
『…そう…灰になった…、呪いを解く為…緑鬼の灰を瓶に詰めた…。』
『…同じだ…。』
「…そう。我ら“鬼”は皆、絶命すると灰になる…。桃太郎は私が灰になったのをその目で確認したか?」
『……いや…、…確認していない…。』
「…私は、わざとお前に負けて、死んだふりをしていたと言う事だ。」
『…てっ、てめぇーは…。…なっ、なんでそんな手の込んだ事を…。』
「…私はなぁ…、この時をずっと待っていたんだ…。…あの赤鬼を始末してくれる者が現れるのをっ?!?!」
『!!!!っ?!!』
四人は驚き、青鬼の次の言葉を待ちました。
「…私はこの“鬼の軍団”の頂点に立ちたかった。しかし、赤鬼のあの圧倒的な力の前には手も足も出なかった…。加えて赤鬼は、それをお首にも出さずに、ただ純粋に“力”を求めて日々その技を磨き続けていた。私は鬼の軍団の二番手として、赤鬼が失脚する様にいろいろな手を考え実行してきたが、その圧倒的な“魅力”で、問題を解決しているという事すらも気がつかないまま、赤鬼は皆の心を奪っていった。私が頂点に立てば、もっと効率的に軍を率いれるというのにだ…。」
青鬼は続けます。
「…しかし私は考えた。赤鬼を失脚させられないのなら、あの圧倒的な“力”と“魅力”を逆に利用してやろうと…。元々赤鬼は世界征服など興味がなかったが、私が焚きつけて人間達や半人半動を襲わせた…。元々人間に並々ならない憎悪を抱いていた赤鬼を操るのはさほど難しいことではなかったがな…。黄鬼、緑鬼、黒鬼も、元々はそれぞれが殺戮をしたがっていた故、赤鬼の指示という理由を得ることによって、とてもよく働いてくれた…。」
『…じゃあ何か…。赤鬼も黄鬼、緑鬼、黒鬼もみんなお前が仕向けた事を知らずにやっていたということか??』
猿は青鬼に問いました。
「…そうだ。全ては私が裏で描いた絵どおりに事が運んだということだ…。」
『…信じられない…。仮にも同じ種族の仲間なのに…。』
雉は軽蔑の眼差しを向けました。
「…奴らは本当によく働いてくれた…。奴らの働きにより、我らは世界征服まであと一歩のところまできた…。そこで計画は次の段階に入ったという事だ…。」
『…次の段階…だと…??』
犬は青鬼に聞きました。
「…今の私の姿を見て何か気がつかぬか?…なぜここまでの力を私が得たのかを…。お前らは知っているか…、我ら鬼の種族は、同じ鬼の血を啜ることによって、その鬼の能力を我がものとすることができるのだっ?!?!?」
『…なっなにっ??』
桃太郎は驚愕しました。
「私はずっと憧れていた。あの赤鬼の圧倒的な“力”に。ただ残念ながら私では赤鬼を倒すことができない…。だから私の代わりに赤鬼を倒してくれるものを探していたのだ。お前らの戦いはずっと影で見させてもらった…。赤鬼をあそこまで追い詰めたのは桃太郎…、お前が初めてだった。途中お前が赤鬼に倒されそうになった時は慌てたが、私がお前に助け舟を出してやったことに気がついていたか?赤鬼があの汚らしい着物を大切にしていたのを知っていた私は、自らの術でわざと赤鬼の目に入る様に崖に向かって落としたのだ。もちろん赤鬼をお前が倒した後、奇岩城を爆破したのも私だ。そしてお前達が脱出をした後に、赤鬼が灰になる前にその血を啜り、ついでに黄鬼、緑鬼、黒鬼の戦さ場に赴き、そこら中に飛び散っていた奴らの血も啜り、四人の力を全て得たのだ。黄鬼の残虐性、緑鬼の分析力、黒鬼の慎重さ、そして何より、赤鬼のこの圧倒的な“力”をなっ!!!!」
『…ひでぇ…酷すぎて言葉がでねぇ…。』
『…こんなに最低なやつ…初めてだわ…。』
『…この外道がっ?!?!』
『……っ…。』
「…ふっ…なんとでも言え…。この世の中、自分の大義を貫き通すには、多少の犠牲はつきものなのだっ!!…さぁそろそろおしゃべりは終わりだ…。そろそろ決着をつける時だっ?!?」
青鬼はそう言うと、戦闘体制を取りました。
桃太郎一行は青鬼の攻撃に備え、身構えるのでした。
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「…なんじゃあの巨大な鬼は…。」
服部半蔵は呟きました。
「…あの強大な殺気…。半蔵さん…助けにいかなくては皆が危ないです。」
半人半鳥の女王が言いました。
「…そうじゃな。皆の者、これから助太刀に向か……。」
半蔵がそう言っている途中で大きな声で遮る声が響きました。
『来ちゃダメだっ?!?!』
桃太郎です。
『…あいつはやばすぎる…。無駄な犠牲が増えるだけだっ?!?!』
「…桃太郎…。」
半蔵と女王は悔しさをにじませながら唇をかみました。
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「…ほう。援軍を呼ばなくて大丈夫なのか?私は一向にかまわんが…。」
青鬼は余裕の笑みをこぼしました。
「…さて、それでは早速始めるとするか…。…誰から血祭りにあげようか…。…決めたぞ…。…お前からだっ?!?!」
青鬼がそう言った瞬間、いきなり破壊音が響きました。
『…猿っ?!??!』
桃太郎が気付いた時には、猿は青鬼の攻撃を受けて飛ばされて、岩に激突しました。
「…人の心配などしている場合ではないぞっ?!?!」
青鬼がそう言った瞬間、続けて二回、またしても破壊音が響きました。
『…犬っ?!?…雉っ?!?!?』
犬と雉も同様に赤鬼に攻撃され、一発で戦闘不能な状態になってしましました。
「…早速お前一人になってしまったな…、桃太郎…。」
『……くっ…。』
桃太郎は青鬼の攻撃に身構えていました。
「…桃太郎…。先程つかなかった私との決着…つけようではないか…。」
『!!!!っ?!!』
桃太郎がその声を聞いた時…
青鬼は桃太郎の背後から話しかけていました…
そして桃太郎が振り向いたその瞬間…
頬に強烈な痛みを感じると同時に…
意識が薄れていくのでした…。