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もうこんなところまで来たのね Billie Eilish「HIT ME HARD AND SOFT」はビリーの新たな到達点

今年の前半に大好きになったアルバムについて。続いては

Billie Eilish「HIT ME HARD AND SOFT」

デビューアルバム「WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?」で大注目を浴びたのは2019年。もう5年も前になるんですね。それから5年、「happy ever after」という素敵なアルバムを経て、今年の5月にリリースされたのが今作。

今回は事前のシングルは一切無し。4月に行われたCoachellaでのリスニングイベントはあったものの、情報もほとんどない中でリリースされた今作。
今年同じようにシングル無しの方式でリリースされたのが、テイラー・スウィフトの新作でした。

「10代の天才少女」としての印象が強かった彼女も今は22歳。

「WHEN WE ALL~」は10代だった彼女のダークな面を集めたような作品で、曲そのものも彼女の表現もあまりに才能が溢れすぎていて、世間の熱狂に当然のように乗っかって、私も大いに楽しませてもらっていました。と同時に、

「この熱狂が続いたら本人もファンも大変かも。」という心配もちょっとあって。とんでもない人気だったので。そこを

この2ndではいい意味で脱却してくれたような印象があって、ホッとした感覚が私にはありました。ちょっと地味めにも聴こえるというか、それは敢えてだったのかな、と。そのあたりは、この作品リリース時のレビューに書いています。このアルバムも大好きで、この作品で「間違いない子だな」という印象だったんですけど。

そこから、あの映画「Barbie」の最高の主題歌曲

「What was I made before」もあって、この曲がめっちゃめちゃいい曲だったので、新しいアルバムをとても楽しみにしていました♪

この「HIT ME HARD AND SOFT」を最初に全体を通して聴いた感想は

「え!?もうこんなところまで来た!?」

って感じでした。なんていうか、いろいろ飛躍が凄くて。

とりあえず、まず私が言いたいのは

フィニアスが天才度を増している

もちろんビリーも物凄すぎて、その話もあとでたくさんしようと思うのですが、もう一聴してまず浮かんだワードがこれなのです。

彼についてはもう私がビリーの曲にハマった時から心酔しきっちゃってるので、聴き方が偏ってるかもしれないですけど(笑)。

今回驚いたのが、最初にリリースされたEPから1st、2ndまでちょっと引きずっていた音の尖ったところや重低音を抑えて、音数が少なくなっているように聴こえるところです。もともと音数が多くない印象ではあったんですけど。

2ndまででも感じられたところはあったのですが、まだまだベース音で遊ぶようなところもあったりして、ビリーの曲は全体的に低音の使い方の協調が強かった印象だったんですけど。
この新作では「低音を随分抑えてきたな」と。それによって分かりやすいダークさも抑えられてるんですけど、面白いのが

音の軽さで重さや深さを表現している

「え?何言ってんの?大丈夫?」って思われる方もいるかも知れないんですけど(笑)。矛盾しているんですけどね。
このアルバムはシンプルなアレンジが増えたと共に、音が今までの作品より軽いのに、音の鮮明感と深さは増してるようで、1音1音の比重が高くて重い感じがして。
特にアルバムの前半は、今までの曲に比べてビリーの曲では新鮮なほどの軽さが印象的でした。


個人的にめっちゃ嬉しかったのが

この「Lunch」って曲の

ギターの使い方!!

個人的にすっごいカッコいいんですよね!今までのビリーの曲で「ギターがカッコいい」と思ったことはあんまり無かったしその要素は求めていなかったのですが、いざ投入されると

めっちゃいいの!!

この曲、今回フィニアスがギターの演奏をめちゃくちゃ楽しんでいるのが伝わりました。一時期のthe Strokesとかみたいな00sインディロック系の曲みたいな感じで、私の大好物系なので、この曲が大大大好きなんですけど!!

かと思えば、次の「Chihiro」はアンビエントさも窺わせるような、今までのビリーの世界観に近いけど音の洗練度は一気に引き上げてきてて、独特の浮遊感が面白い曲に仕上がっています。

今まで一番聴いたことがないような感触だったのは「Birds of a feather」。ここまでポップで人懐っこいようなメロディの曲は珍しいですね。初めてじゃないかな?なんかちょっとMax Martinが売れ筋アーティストに書いた曲みたいで。「ちょっと前の売れ筋ポップ感もありつつ、インディっぽくセンス良くまとめてみました」みたいな。最初聴いた時にすっごい意外でした。いい曲で、今チャートで一番良いのはこの曲です。

後半になるとだんだん曲に重量感が出てくると同時に、実験的というか面白い展開の曲も聴こえてきます。5曲目の「Wildflower」と6曲目「The greatest」はアコースティックギターと後半のドラマチックなアレンジで聴かせるバラード。

7曲目「L'AMOUR DE MA VIE」も大人しく軽めな歌いだしから入るミディアムテンポな曲で「3曲同じ感じ?」と思いきや、この曲は途中からエレクトロ展開を聴かせ始めて、ビリーの声も思いっきり加工されていきます。前のアルバムで2~3曲かけていた感じを1曲でやっちゃったみたいな。そして「こんなテンポの速い曲って今まであったかな?」と。

ラストの曲「Blue」も前半にあった「Lunch」の雰囲気を引きずったようなロックテイストを感じる曲で、この曲はフィニアス得意のベースも聴かせながら、中盤にバックの音を変えてハープのような音色と深く潜るようなビリーの歌を響かせる展開に変わって、またそこからアンビエントとストリングスの展開に変わるという5分を超えた曲となっています。この曲が一番アルバムのジャケ写にピッタリで、アルバム全体を〆るのにピッタリな曲でした。

今回のアルバムを聴いて思ったのが、それまでの曲に比べて「随分と音をそぎ落としてきたな」と。「誰が聴いても同じ印象の曲」というより、どういう状況で聴いているかだけでも印象が変わるような繊細な曲達が多いような。例えば、人ごみの雑踏の中で流れているような時と、誰もいない部屋でヘッドフォンで聴くような時と、かなり音の印象が変わりそうだな、と。繊細な音作りでの表現を目指したような印象でした。

そんななかで、「Lunch」みたいなロックテイストある曲がシングルのような曲に選ばれて嬉しいです♪私の好みドンピシャなので!!(笑)

10代後半から20代前半って成長のスピードも速いけど、音作りについても他のアーティストなら数年か下手したら10年以上くらいはかかるんじゃないかというような変化を、たった数年でしちゃったような印象で、おったまげたみたいな感じでした。

フィニアスはこんなに音作りが上手い人なので、恐らくビリーの人気が出てから今までいろんなアーティストが声をかけたはずで、ちょっと他のアーティストの曲も手掛けたりしてた時期もあったけど。
でもそれをすぐやめて、それまでのようにビリーと自分のソロに集中するように。それがいい効果を生んでいるのではないか、と思います。

たぶんないと思うけど!!万が一、ビリーがフィニアス以外のPDと音楽を作ったとして、ここまで良い曲達になるだろうか?いつも彼女の新作を聴くたびに思います。

歌詞の内容については、私は敢えてそこまで掘り下げずにいたいと思っていて、「シンプルに曲の良さを楽しみたいな。」と。ビリー自身もアルバム全体から、より正直により直感的に歌や歌詞を楽しんでいるんじゃないかな、と思いました。以前は10代後半の鬱屈したような表現から、今作は一人の女性としての成長がとてもあって、「大人になったな~」と。

それと共に、このアルバムは1stの頃の瞬間風速みたいな勢いや熱狂はないかもしれないけど、「すべての曲がいとおしくてたまらない」というように、ずーっと愛される名盤になるんじゃないかな、と思いました。
ファンも大人になって、ただただ彼女を無我夢中に追いかけるだけじゃなくて、自分なりの愛し方を模索しているのかな、と。
ビリー側ファン側も同時に。いつもファンに対して正直でいようとするビリーだからそれができるのかな、と思いました。

この作品を聴いて「ああ、私が10代後半から20代前半の時に、この作品に出会いたかったな~」と思いました。その頃特有の感受性が鋭くて、凄く楽しい時期だけど、でもその年頃ならではの重圧や辛さがあった時に。もちろん今の私の感覚で聴いてもめっちゃめちゃ楽しめるし大好きだけど。
同じ年頃の、例えばオリヴィア・ロドリゴもだーい好きですが、彼女の作品にはそういう感覚にはならないのに。不思議ですね。

って書いてから、前作のレビューを読み直したら全く同じこと書いてて笑いました(笑)。

とはいえ、蛇足ですが「もうちょっと失敗したりしてみてもいいんだよ」ともちょっとだけ思っちゃいます。若い時にしかできない失敗もあるから。
40代からのオカン目線からのメッセージです(笑)。

気になった方は、ぜひ聴いてみてください♪

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