選ばれる都道府県(西日本)
東京をはじめとした都市への移動が活発化しています。
総務省が1月30日に2022年の住民基本台帳人口移動報告を発表しました。日経新聞でも大きく取り上げられていましたが、東京都への転入者が転出者を上回る転入超過の数は30,823人と、2021年と比べて7倍以上になっています。
参考:人口、東京集中が再加速 昨年3.8万人転入超: 日本経済新聞 (nikkei.com)
東京だけでなく、その周辺の3県(埼玉、神奈川、千葉)の人口も大きく増えており、全国的には人口が減少局面にある中でも、東京圏の一都三県で77,069人の転入超過となっています。
近年は、場所を選ばない働き方が着目され、本社は東京にあるけれども、郊外の自宅で仕事をするスタイルも珍しくはなくなっています。
しかし、コロナの影響が少なくなってきて、出社機会を増やす企業もあり、人も仕事も集まる東京へ、若年層を中心に、人が回帰してきているように思います。
魅力的な地に人が集まるのは自然なことです。移動の自由があるため、誰かをその地に止めおくことはできません。しかし、一人の地方公務員として、自分の自治体の人口が減ってしまうことは、大きな課題であると感じます。
人がいなくなれば、仕事がなくなり
仕事がなくなれば、産業がなくなり
産業がなくなれば、税収がなくなり
税収がなくなれば、住民サービスがなくなり
住民サービスがなくなれば、人がいなくなります。
人がいなくなることは、特に地方自治体にとって、死活問題となります。
コロナ禍による在宅勤務の浸透があった中でも、東京を中心に人が回帰していく現状を見ると、今後も、東京に人が集まっていくことは変わらないでしょう。
しかし、その中でも、東京圏以外に人が集まっている都道府県があります。
西日本では3府県が、昨年転入超過を果たしました。今回は、東京から離れた環境にある中で、どうやって3府県が、選ばれる自治体となったのか考えていきたいと思います。
1 選ばれる自治体①(滋賀県)
滋賀県は1,555人の転入超過です。滋賀県の人口は約141万人なので、その0.1%となっています。2021年も1,034人の増加となっており、これで5年連続の増加となっているようです。
滋賀県は、人口は47都道府県中で26番目で、ちょうど真ん中に位置しています。人が人を呼ぶということではない理由で、滋賀県は選ばれているようです。
滋賀県の特徴は、年少人口割合(15歳未満の総人口に占める割合)が高いことです。沖縄県に次いで、全国第二位(13.4%)となっています。
沖縄県は、頭一つ抜けて、他の都道府県と比較して合計特殊出生率が高いことから、1位になるのは分かります。滋賀県の合計特殊出生率は平均以上ではあるものの他の都道府県に大きく差を開けているわけではありません。
生まれてくる子の数に大きな差がないことから、滋賀県は、他の都道府県よりも、若い世代が定住しているまたは、移住してくると推測できます。
その一つの理由として考えられるのが、不動産価格が高くないわりに、京都や大阪などの関西の都市へのアクセスが良いことが挙げられます。
近畿圏の中で、新築マンションの平均価格や平方メートル当たりの単価は安いにもかかわらず、県庁所在地の大津駅から大阪駅までの所要時間は約1時間であり、京都駅に至っては、わずか10分ほどです。
参考:不動産経済研究所、22年12月の近畿圏の新築分譲マンション市場動向を発表: 日本経済新聞 (nikkei.com)
そのため、滋賀県に居を構えて、大阪の会社に働くことも可能ですし、成長した子どもが、関関同立や京都大学をはじめとした関西の有名大学にも、自宅から通学することも可能です。
行政としても、結婚から妊娠・出産、子育てまでの情報を集約したポータルサイトを作成し、若年層や子育て世帯が安心して定住できるようなPRも進めています。
参考:ホーム|滋賀でもっと家族になろう!ハグナビしが (hugnavi.net)
加えて、滋賀県は全国有数の工業県であり、県内総生産に占める第2次産業の割合は48.0%で全国1位、さらに、県内総生産に占める製造業の割合も43.6%で全国1位です。県内の産業も盛んで、経済に活気があることも伺えます。
主要な駅への交通アクセスが良く、住宅購入のための負担が比較的少ない。また、自宅から大学への進学も考えられるため、定住のイメージがしやすくて、県内の産業も盛んである。こういったところに、転入する人は魅力を感じたのかもしれません。
2 選ばれる自治体②(大阪府)
大阪府は、6,539人の転入超過であり、こちらも昨年を上回っています。特に、大阪市は9103人の転入超過で、東京23区とさいたま市に次ぐ全国3位の流入数を誇っています。
江戸時代から天下の台所と呼ばれ、商業も栄え、関東の中心が東京ならば、関西の中心は大阪と思われるほど、経済の中心地であり、仕事も人も集まる場所です。
行政としても、副首都ビジョンを掲げ、中長期的な視点から、『東西二極の一極、さらに、複数の都市が日本の成長をけん引する新たな国の形』を先導し、2050年代には、東京一極集中・中央集権から、拠点分散・分権型の国へ転換することを目標としています。
2050年代のGDPの国内シェア 約12%、経済規模を約80兆円とするような数値目標も入れて、東京集中を打破するための具体的な方向性を掲げています。
参考:大阪、脱・東京集中を先導: 日本経済新聞 (nikkei.com)
東日本で転入超過が増えている都道府県を含めても、大阪ほど、どうやったら東京に負けずに、人を呼び込めるかを考えている都道府県はないように思われます。東京に戦いを挑んでいるように思われる都道府県は大阪府だけです。
その理由が、歴史的なものなのか政治的なものなのかは分かりませんが、競争があることは日本にとっても良いことです。
大阪府はあらゆる手段で自分の地域を盛り上げようとしています。2025年の日本国際博覧会(大阪・関西万博)が成功裏に終われば、国際的な注目が大阪に集まるでしょう。そもそも万博を開催するために、人や仕事が大阪に集まり、活気が生まれます。
賛否両論ありますが、夢州に設置する予定の大阪IRもその一つです。IRは統合型リゾートと呼ばれ、国際会議場や展示場、ホテル、ショッピングモール、カジノなどで構成される一群の施設を指します。
IRは観光や地域経済の振興への効果はもちろんですが、単純に「何だか面白そう」と周りに思ってもらう効果が一番あるように思います。新しいことにチャレンジしている地域は活気があります。活気があるところに若い世代は集まります。
仕事がある、経済規模が大きいといった理由だけではなく、万博やIRといった祭りのような華やかさ、派手さを伴った取り組みによって、人を引き付けているように思えます。同じ行政職員として、その努力やチャレンジは感嘆するものです。
3 選ばれる自治体③(福岡県)
最後は、関西以外で唯一、西日本で転入超過となった福岡県です。2022年は4,869人の転入超過であり、数としては昨年よりは減少しましたが、人口約511万人のおよそ0.1%と、滋賀県とほぼ同じ割合で増加しています。
関西圏ではない、九州唯一の人口増加であるため、上記の大阪や滋賀とは異なる理由で選ばれて、転入超過となったように思われます。
九州はトレンドになっている地域です。半導体受託製造の世界最大手であるTSMCの誘致、ソニーによる新工場建設の検討、アップル ティム・クックCEO来訪と、産業に関する明るい話題に事欠きません。
経済安全保障やアジア各国の人件費の高騰から、製造業の日本回帰が本格化しており、アジアにも地理的に近い九州は、非常に優位な立場にいると言えます。
国も、九州経済産業局を中心に、シリコンアイランド九州の復活に向けてとして、コンソーシアムを立ち上げ、半導体産業の基盤強化を進めています。
その中でも、福岡県は、半導体製造企業立地状況や半導体関連の教育機関・公的支援機関の一覧を見ても、数多くの期間を発出しており、勢いにのる九州の中でも目立つ存在です。
もともと、九州は、日産自動車九州(株)、トヨタ自動車九州(株)、ダイハツ九州(株)、日産車体九州(株)の4つの自動車メーカーが立地し、年間154万台の生産台数を誇ります。
この数は、日本の生産台数のおよそ2割を占めており、九州は世界有数の自動車産業の生産拠点です。
このため、自動車関連企業が多く存在していますが、その九州内の自動車関連企業のうち約50%が福岡県に立地しています。
その理由は、輸出のための港が整備されていること、交通インフラが整っていること、産業の集積に伴い、県内大学も専門コース等を開設など、教育環境も充実していることが挙げられます。
参考:北部九州自動車産業アジア先進拠点プロジェクト | 産業プロジェクト | 福岡県企業立地情報 (fukuoka.lg.jp)
もちろんTSMCが誘致を検討しているのは熊本県であり、今後、他の県が注目を浴びる可能性も高いと思いますが、今現在、福岡県は産業集積が非常に進んでいると言えます。
魅力的な産業が盛んになれば、仕事を求めて人が集まります。安定した仕事があれば、そこに居を構えて、新たな家族が作られるでしょう。
福岡県は、もともとあった自動車産業の拠点という下地に加えて、半導体産業の注目地域となったこともあり、今後も人口の流入が続いていくように思えます。
4 まとめ
転入超過が進む都道府県である今回記載した滋賀県、大阪府、福岡県は、どこも魅力的な地域です。自分自身も、子育て世代の一人として、どの府県も住みたいと思わせるものでした。
加えて、全国的な人口減少が続く中、地域それぞれの方法で、人を呼び込むために試行錯誤していることが伺えて、同じ行政職員として非常に学びがあります。自分の自治体でも生かせるところはないかと考えたいと思いました。
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