#14 夜を歩く
決定的な言葉を避け続けている。
向かい合ったあなたを、傷つける言葉を私はいくつももっている。
あなたの傷つけ方を知っている。
だけどその言葉を私は絶対に選ばない。
喉元まででかけても、
心がぐちゃぐちゃに荒れ狂っても、
絶対にその言葉を選ばない。
あなたが簡単にその言葉を選んで、私に投げつけてきたとしても。
私は絶対に選ばない。
傷つけてしまった罪悪感に苛まれたくないから。
言葉が口をついて外側に出てしまったら、
もうなかったことには出来ない。
その取り返しのつかなさを、私はいつも天秤にかける。
〝人を傷つけてはいけない〟
そんな道徳的なものに則ってるわけじゃない、
ただ怖いだけなんだよ。
それをたまに〝優しさ〟といってくれる人がいる。その度に本質的には違うんだと、勝手に言い訳したいような気持ちになるんだ。
傷つけるのを我慢する、
変な言葉だけどこの些細な行為を積み上げていると、たまに息ができなくなるんだ。
身体に酸素が行き渡らない感覚、
頭の中で踏切の警告音が鳴る。
***
だから私は、夜を歩くのかもしれない。
濁った身体の酸素を入れ換えて、
循環させるために。
海と風が遊んでくれる深夜に、自分の心を取り戻すために。
当たり前や暗黙のルールに殺されそうになる。
自分が大切に抱えているものを、信じているものを簡単に一笑しないで。
心を構成するもの
支えられているものを
簡単に汚さないで。
夜は優しい。
夜と同じ温度になって、
月を通して同じ歌をうたう。
同じようにこの夜を、
見上げているあなたと一緒に。
夜を歩く。
いつか、この願いが叶う日まで。