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奇才天才怪電波

取り敢えず始めに下記の動画を観てくれ。細かい説明は後だ。


「……おい、俺の3分39秒を返せ」

とお思いになられた方もいらっしゃるかも知れないが、そう思われたならこれ以降の奇文は読まずとも結構である。本日は多かれ少なかれ上記の動画を観て何かしら心に引っかかるものや刺さるものがあったという方に対して訴えたいのである。

街角マチオ、奇才天才。

私は元々所謂「電波ソング」と呼ばれる音楽が割と好きだ。なお一口に「電波ソング」と言っても更にその中での系統があったりする故に一言でどのような音楽なのかを述べるのは難しいのだが、一先ずは簡潔に「意味不明かつ予測のつかない奇異な歌詞を用いた洗脳的な音楽」と説明しておく。

そして電波ソングの良いところは正しく「歌詞が意味不明(もしくはそもそも意味などない)」点である。そして電波ソングには電子的でBPMが早いものが多い。その為リスナーには「言っていることは支離滅裂・荒唐無稽すぎて全くわからないが、取り敢えず何だか明るくて楽しい音楽」に聴こえるのだ。電波ソングは難しい思考を放棄して楽しむことができる音楽なのである。

という説明を踏まえた上で改めて「ザ・ぷー」の『ナニコレ』について語りたいのだが、そもそも「ザ・ぷー」とは何者よ?と読者諸賢はお思いのことであろう。私もほんの少し前に彼等のことを知ったばかりなので詳しくはないのだが、公式サイトを見てみると(以下引用)

22世紀を揺るがす国際的怪電波ユニット。
メンバーは街角マチオ(ギター)街角マチコ(テルミン)川島さる太郎(さるのパペット)SONE太郎(プロデューサー)の4人組。
MUSIC、コント、演劇をMIXした独自のスタイルで観客を魅了する、シュールでスタイリッシュなLIVEは中毒者が続出している。

https://the-puh.com/

とのことである。「国際的怪電波ユニット」って何やねん。ちなみにWikipediaには1996年結成と書いてあるが、メンバーのマチコさんのブログには2007年結成である旨が書かれている。どういうこっちゃ。なお後者が正しいはずなのでWikipediaは信じるな。メンバーのうちプロデューサーのSONE太郎は表舞台には出てこないし、川島さる太郎はマチコさんが操るパペッ……いや、お猿さんなので、実質何らかの舞台に上がって活動しているのは街角マチオ・街角マチコの二人である。結成時は「ザ・プーチンズ」というユニット名であったが、2017年にとある団体からの政治的な圧力を受けて「ザ・ぷー」に改名したらしい。昨今の世界情勢を考えるとその時点で改名しておいて本当に良かったと思う。

そして今回冒頭で紹介した『ナニコレ』という曲が彼等の代表曲らしいのだが……これが物凄く考え尽くされた、構成力に富んだ一曲である。もし動画を再生したは良いけれど途中で観るのをやめてしまった方がいらっしゃるとしたらそれは非常に勿体ない。まあ、そもそも最初に「時間を返せと思った方は以下の文章を読まなくても良い」という旨の事を書いたので、ここまでの文章も読んでいないかも知れないが……

『ナニコレ』の始まりはこのような歌詞である。

ぐうぐうぴろぴろ チャイナチャイナ
ふわふわわたあめ サドンデスサドンデス
投げ銭釣り銭 ございません ジャマイカジャマイカ

ザ・ぷー『ナニコレ』

はい!出た!電子的な四つ打ちに乗せた意味不明な歌詞。先述した「電波ソング」の特徴をまさに押さえているではないか。そして恐らく賢明なリスナーはこの時点で「この歌は滅茶苦茶な事を言っているな」と察し、難しい思考を放棄するに違いない。そうしてぼーっと聴き進めてゆくと、不意に

あれ〜 きみ表情死んでるぞ
あれ〜 テンションあげてくぞ
すっぽん食べようぞ

ザ・ぷー『ナニコレ』

とツッコまれる。いや、そりゃこんな歌詞を聴かされたら表情も死ぬって。それはすっぽんを食べたところでどうにもならないのだよ。

とまあ、上記のような具合で前半は進んでゆくのだが……後半からザ・ぷーもとい作詞作曲者である街角マチオ氏の天才的な手腕が明らかになる。私はその展開に「してやられた!」という気分になった。何故かよくわからない謎の敗北感を覚えた。しかしその感覚は決して心地の悪いものではなく、私は実に清々しく打ちのめされた。以下がその展開である。

ああ 君のために歌いたくない歌 歌うよ ハッハー
全然歌いたくないよ こんな歌詞なんかイヤだよ
すっぽんすっぽんすっぽん とか絶対歌いたくなかったよ

ザ・ぷー『ナニコレ』

……おいっ!!歌いたくなかったんかいっ!!

後半になってマチオ氏は急に「こんな歌詞なんかイヤ」「絶対歌いたくなかった」等と言い始める。ということはつまり、彼は前半の歌詞が奇妙奇天烈で歌うにはやや恥ずかしいものであるということをずっと認識はしていたのである。

そしてこちらは特に頼んだ覚えもないのに、彼は我々の為に恥ずかしい歌を歌い続けていたのだ。何故だ、一体何の為に……?その答えはこうだ。

でもね 見てごらん 恥を 恥を捨てることで
人は 人は楽になれるのさ
でもね わかるだろ? 簡単なことだろ?
恥を捨てることで人は前を向けるのさ
(中略)
誰からどう見られてるかなんて気にするな

ザ・ぷー『ナニコレ』

ここで気付いた。この曲は前半こそ電波ソングの体裁を取っているが、全体を見ると「恥を捨てろ、他人の目を気にするな」という想いが込められた壮大なメッセージソングであったのだ。

生きたいように生きろ
感じたいように感じろ
泣きたいように泣け
言いたいことを言え
悪いことはするな
法の範囲で楽しめ
僕だけは君の味方さ

ザ・ぷー『ナニコレ』

いや後半、滅茶苦茶良いこと言ってるじゃん……!この曲は前半で電波ソングの特性を活かしてリスナーの脳と表情筋を殺し、後半でその隙を狙って不意に熱い言葉をぶつけてくるという巧妙な構成となっていたのだ。公式サイト曰くザ・ぷーはライブの際にコントや演劇も交えて観客を魅了するユニットらしいが、この一曲だけでもエンターテイメントにおける構成力の凄まじさを感じる。

そして『ナニコレ』を作り上げた街角マチオ氏はとんでもない奇才だと心から思う。とあるライブのMCの動画で彼は「この曲は僕が脱法ドラッグをやりながら作った曲です」と冗談を交えて語っていたが、こういった発想の持ち主には一生勝てっこない(そもそも戦うつもりも無いと言えば無いが)。しかし圧倒的な天才が書く作品に打ちのめされるというのは先述の通り悪いものではなく、寧ろ『ナニコレ』のサビの如く「気持ちいー!」という感覚でいっぱいである。それは恐らく性根がドMだからなのかも知れないが……ちなみに、このように脳が揺さぶられるのは漫才コンビ・キュウの単独ライブ『猫の噛む林檎は熟能く拭く』の映像を観て以来である。これもとても凄まじいライブだから是非観て欲しい。

なお、私がザ・ぷーを知ったきっかけは前回の記事で大ファンであることを公言した吉澤嘉代子ちゃんである。嘉代子ちゃんはザ・ぷーのファンであり、かねてから彼等と親交がある。先日参加した嘉代子ちゃんの七夕屋形船ショーの司会・演出も街角マチオ氏が務めていた。ちなみにマチオ氏は実際に拝見するとかなりの長身かつイケボのイケメンである。嘉代子ちゃんの紹介曰く背丈が190cmもあるらしい。尚且つこれも嘉代子ちゃんがボソッと溢していたのだが、どうやらかなりの高学歴の持ち主でもあるらしい。

私は嘉代子ちゃん以外の歌手だとこれまたイケメンである中田裕二も好きなのだが、裕二氏は紡ぎ出す歌詞も振る舞いもまさにダンディズムの塊であり、己がイケメンであることをきちんと全うしている。しかしながらザ・ぷーのマチオ氏は高身長・高学歴(らしい)というハイスペックを持ちながらにして緑のタンクトップと異様に短い赤色のパンツ、ヘアバンド着用という出で立ちで渋谷のセンター街やスクランブル交差点で踊り狂っているのだからイケメンの無駄遣いも甚だしい(これは最大限の褒め言葉)。

兎にも角にも、物凄い奇才を見つけてしまったように思う。いつか絶対にザ・ぷーのライブを生で体感したい。絶対に。なお今回紹介した『ナニコレ』は彼等の代表曲とのことだが、聴く限りではテルミンが使われていないような気がする。代表曲なのに。ザ・ぷーの魅力はマチオ氏の変態性(褒め言葉)もさることながら、相方である街角マチコさんが奏でるテルミンの音にも溢れている。テルミンはロシア発祥の世界最古の電子楽器で、箱に取り付けられた二本のアンテナに手をかざして音を出す(音程・音量の調節をする)という不思議な奏法で演奏される。マチコさんのテルミンが活躍する楽曲も多数あるのでそちらも是非聴いて頂きたい。


という訳で今回は最近出会った不可思議な音楽についての話題をお送りした。果たしてここまで読んでくださった方はいらっしゃるのだろうか……?最初にこの記事を書こうと思い立った時点では何から書き始めたら良いのか皆目見当が付かず苦戦したのだが、何とか述べたいことは全て書き記せたので気分は晴れ晴れしている。まさしく、きーもちぃいーーーっっ!!!!(大絶叫)

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