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ザキング 永遠の君主 21. 「四寅剣に刻まれた召命」

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時間が止まっている間に数えられる数が増えてきた。
スタンド照明だけ灯しておいた部屋の中を、ゴンは静かに横切った。
テーブルの片隅に置かれた2G携帯の上に、ゴンの長い影が落ちる。
キム・ギファンから得た2G携帯は相変わらず静かだった。
この携帯をキム・ギファンに与えたはずのイ・リムのことを、ゴンは思い出していた。


『 伯父上…!』


ある日、天尊庫の床に座って四寅剣を眺めていた幼いゴンに、リムは尋ねた。
四寅剣に刻まれたその文字の意味を知っているのか…と。
ゴンは答え、リムはゴンの答えられなかった部分を親切に教えてくれた。
その時、すでにリムの頭には幼い甥が眺めていたその剣で腹違いの弟を殺す計画があり、その顔には世界を手に入れてみせるという黒い影が、差していたのだろう…



ピピピピッ…ピピピピッ…



待ちに待ったベルが鳴った。
画面には発信者の番号すら表示されない。
通話ボタンを押し、ゴンは静かに携帯を耳元に当てた。


天は精を降ろし
地は霊を救う
日と月が形を成し
山川が生み出され
稲妻が走る
天地万象の根元を動かし
山川の邪悪を退け
玄妙な道理として斬り これを正せ


四寅剣に刻まれた文言、それは皇帝の召命だった。
あの日リムは尋ねた。
それで、太子はその召命を果たすつもりなのか?…と。
ゴンは噛み締めるように四寅剣の文言を繰り返した。


「 天地万象の根元を動かし…山川の邪悪を退け…玄妙な道理として斬り…これを正せ… 」


そう…
正すのだ…


「 この声を覚えているか…?私は、覚えている… 」


多くのことを堪えかみ砕いたゴンの声は低く、そして重かった。
自分の声だけでも戸惑うだろうと予想していた甥の予期せぬ反撃だった。
しばらく沈黙していたリムは、しかしすぐに平然と挨拶を返した。


ー ええ…甥っ子様、私です。ご壮健でしたか?

「 本当に…生きてたんだな。 」

ー ええ…生きてこの日を待ちわびていました。生涯待ったあの日を逃してから、別の人生で待ち続けていたのです。

「 もう少し待つがいい。私が必ず見つけ出してやる… 」

ー 初めて聞く皇帝らしいお言葉ですね。ええ…ぜひお越しください。 生者を死者としたのですから、死者も生き返らせて頂かなくては。その時の混乱が…今からとても楽しみです。


ゴンは拳を固く握った。
リムの狙いが、掴めるようで掴めなかった。

イ・リムが生きている。
近くにいる。
この大韓民国のどこかに···!

ゴンは歯を食いしばりリムに警告した。


「 もっと上手く隠れるべきだ。貴様は今大韓民国にいると…たった今私に気づかれたぞ。」


電話はすぐに切れた。
繰り返す電子音が長くゴンの耳に響いた。

これで確実になった。
時間が止まり、今イ・リムは大韓民国にいる。
次に時間が止まった時…奴は大韓帝国にいるだろう。





       ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





橋の明かりを受けた川の水が延々と流れ、濁った水の匂いが混ざり込んだ夜風が肌をかすめた。
この時期、冬でも数週間に一日程度はまだ暖かい日があった。
今日がまさにそんな日で、ゴンとテウルはこの漢江(ハンガン)で会うことになっていた。

ゴンを見送る木曜日でもあり、テウルは憂鬱になる気持ちを押し込めながら、用意した食事とお酒をテーブルの上に並べた。

急に肩に重みを感じて後ろを振り向くと、ゴンだった。
自分のコートをテウルの肩にかけながら、ゴンは明るい笑顔でテウルの隣に座った。


「 よく迷わず来れたね。ここデートコースなんだけど…向こうでもよく来てたんでしょ?」


ゴンの顔を見ると、うれしい気持ちと残念な気持ちが交差する。
テウルはわざと嫌味を言った。


「 来ないわけがない。 」

「 だと思った。誰と来たの!?」

「 国土部長官、次官、書記官、ソウル市長、課長、それから…

「 さ、食べるよ!…大韓民国の恋人たちはこうやって水辺でデートするの。…ケンカしたら落とせるように。 」


驚いて振り返ったゴンを見て、テウルはニヤリと笑った。


「 …ああ、風情があって素敵だ。酒、星、水、チキン…嫉妬まで。これ以上なく完璧だ。 」


風に吹かれながらテウルを見るゴンの目は限りなく優しかった。
優しい男性と一緒に過ごす時間は、あまりにも早く感じられた。
テウルは目の前のゴンがもう恋しかった。
沈む心をなんとか落ち着かせながら、テウルはチキンの箱を広げた。


「 いっぱい食べて、気をつけて行ってきてね。毎週金曜日は国政報告の日でしょ?…今日は木曜日だから。」

「 覚えてたのか。」

「 …まったく、自分がどれだけ酷い彼氏か分かってる?」


寂しさで思わずゴンを叱ったテウルは急いで話題をそらした。


「 捜査情報流出罪を覚悟で渡す。多分この問題の答えはそっちにあるようだから。こっちでは死亡してる。」


いきなりテウルが突き出した書類に、ゴンはゆっくり目を通した。
殺害されたイ・サンド事件に関する捜査資料だった。
テウルがゴンに初めて会った日から始まった事件でもあった。
大韓帝国ニュースが留守番電話サービスに録音された2G携帯がイ・サンドの金物店で発見され、二人の共同捜査が始まった。

書類を見ていたゴンの目が大きくなった。
これ以上長く悩む必要はなさそうだった。
知っている顔だった。


「 すでに答えを知っている問題だ。この者とはすでに会っている。」

「 イ・サンドに会ったの…!?イ・サンドが、向こうで生きてるの? 」


馬具職人であるイ・グヨン名人の息子…
乗馬場で見たことのある顔だった。
家業を継ぐ気がないと言っていたが、最近になって心を決めたという。
一通り書類に目を通したゴンはすぐにそれをテーブルに置いた。


「 これは私に任せてくれ。私からも一つ…ヨンをこの世界に置いて、代わりにウンソプ君を連れて行くことにした。」

「 どういうこと…? 」

「 イ・リムが今、大韓民国にいる。」

「 なのに向こうへ行くの…!?イ・リムがここにいるのに? 」

「 行かないと。行って、要所を守り待ち伏せる。奴は必ず私の世界で捕らえなければならないんだ。」


大韓帝国ではリムは逆賊だが、大韓民国ではすでに死んだ人間だった。
警察官のテウルが彼を捕らえたとしても、罰することはできないだろう。
テウルの表情が引きつった。


「 だからヨンを置いて行く…最悪に備えて。この世界で奴を射殺できるのはヨンだけだ。」

「 これは…人の命に関わる問題だったんだ。」


謀反…逆賊…
テウルからは到底近づけなかった単語が、どんどんテウルに近づいていた。
固く握られたテウルの手を、ゴンは大きな手でそっと包み込んだ。


「 君の世界に迷惑をかけて本当にすまない… 」


テウルの心臓の鼓動は早まっていた。
思ったよりも危険な位置に立っていた。
テウルはゴンを抱きしめた。


「 大丈夫なふりしたいのに…大丈夫じゃない。 すぐ戻ってくるよね…? 」

「 急いで戻る。漢南洞から梨泰院に行くように…すぐ戻ってくるよ。」


自分の腕の中に身を寄せる弱ったテウルの姿が、ゴンの心を締め付けた。
足元の階段が崩れ落ちるかのように、心臓が痛んだ。
それなのに、ただテウルを強く抱きしめ返すことしかゴンには出来なかった。

今はただ、大韓帝国で無事にイ・リムが捕まることを願うだけだ。





       ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



近衛隊副隊長のホピルと少数の近衛隊員たちは、素早く馬を走らせた。
木曜日の夜に竹林で待機せよというゴンの命令が、ノ尚宮を通じて伝えられていたからだ。
近衛隊が到着したとき、竹林にはゴンとウンソプが縛られた男を連れて立っていた。
男は大韓民国でゴンが捕らえたキム・ギファンだった。


「 陛下!隊長!!」


ホピルが急いでゴンとウンソプに頭を下げた。
ウンソプにとって、次元の扉の中で体験した出来事は夢のようだった。
目の前にいる頭を下げた近衛隊の謹厳な姿にも戸惑うばかりだった。
ここに来る前にヨンに言われた言葉を思い出した。


ー 行ってすぐ防弾チョッキを着ろ。お前を守るためではなく、陛下を守るためにだ。全身で命を捧げろ。分かったな…!?


本当に”陛下”だった…ゴンは。
そして、自分はゴンを守るべき近衛隊長になっていた。
ゴンは全く別人のように厳かな声で近衛隊に命じた。


「 謀反に加担した者だ。この者を宮の地下深くへ監禁せよ。この件に関しては、いかなる記録も口外もしてはならぬ。」

「 はい、陛下!」


ゴンは冷たい眼差しでもがくキム・ギファンを見下ろした。


「 お前の主人はお前に”死”を命じたが、私は”生”を命じる。私の足下、私の宮の地下で、死んだ方がマシだと思える”生”を… 」


猿轡をくわえたままでも、キム・ギファンはゴンへの敵意を隠すことはなかった。
ゴンは憎悪の目を向けるキム・ギファンに言葉を続けた。


「 これで終わりだと思うな…貴様らの終わりはまだ始まってもいない。 これが、理にかなった正しい道だ。」


氷のような声だった。
ゴンはホピルを呼び止めた。


「 ソク副隊長、今から言うことは全て極秘任務だ。」

「 はい、陛下!!」

「 まず、竹林に警備を敷く。今日から、私の指示がある時までずっとだ。 現れた者は誰であろうと逮捕せよ。特に70代の男だ。次に、私の過去一年分の外部行事の防犯映像をすべて持ってきてくれ。なるべく早くだ。」


黙ってゴンの命令を聞いていたホピルが静かに口を開いた。


「 ……恐れ入りますが陛下、私に命を下すのですか?隊長ではなく…?」

「 あ…ヨンにはもっと重要な任務を任せてある。」


ここでチョ・ヨンの役割を果たすために髪まで切ってきたウンソプは、普段のヨンの姿を必死に思い浮かべながら立っていた。
どこかぎこちないが、それなりには凛々しい姿勢だった。

違和感を覚えたホピルだったが、彼は上命下服が習慣化した人だった。
これといった疑問は持たず、ホピルは命に従った。
ゴンはウンソプにも忘れずに指示を下した。


「 ヨン、お前は自分のノートパソコンを持って来い。」

「 …ハイッ!!!!陛下!!!!」


その足ですぐに宮殿へ向かったゴンは、イ・サンドを確認した。
予想通り、大韓民国のイ・サンドの死亡推定日と、大韓帝国のイ・サンドが宮殿に入った日付が同じだった。
賭博の借金に苦しむ大韓民国での生活を捨てて、大韓帝国での新たな生活を得たのだろう。
そしてイ・グヨン名人の本当の息子は、大韓民国で変死体で発見された…

我慢してきた怒りが込み上げた。
二つの世界の均衡を破り、他人の生活を奪った者があまりにも多かった。
たかがイ・リムの欲望のために…

ゴンは直ちにイ・サンドを自宅に監禁するよう命じ、外部との連絡や接触、宮殿への出入りも禁じた。


どこまで…どこまでリムの手が届いているのか。

考えるゴンの肩は重かった。
        




ザキング 永遠の君主
   21.「四寅剣に刻まれた召命」

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