海が私を満たしてくれる。

自由。平穏。達成感。静寂。解放感。

海の力は絶大である。

精神を病んだらとりあえず海に行くことにしている。

鎌倉駅の近く、由比ガ浜の海に、

ビキニの上からワンピースを着て、

リュックにレジャーシートやタオル、着替えを

詰めて、一人で行ったことがある。

20歳（はたち）の時だったと思う。

友達にドタキャンされたから、一人で行った。

20歳（はたち）位の頃、私の精神はズタボロになり、

疲れていて、人生に対しても、人に対しても、

もう何も期待していなかった。

人の目ばかり気にして、自分が自分でいて幸せと

感じることが一体どんなことかを忘れていた。

電車で2時間。鎌倉駅に着き、歩いた。

ライフセーバーの背の高い椅子の足元の辺りに

荷物を置いて、服を脱いで、海の中に入った。

周りはナンパだの、カップルだの、うるさくて、

私は1人で静かになれるように、少し深いところまで

行った。

みんなから逃げてきた。1人になった。

広く続く海、仰向けで浮かぶとまぶしすぎる空がある。

この広い中に、小さなちいさな、私。

少し波が高くなったら飲み込まれてしまうほど

私の存在はよわい。

だから解放された。

私の考えて悩んでいることなんて、

今見えている世界を目の前にして考えるほど

大したことではない。

自由になった。

心が穏やかで、海が体を包んでくれて、

ただその上に小さな私の体を預けた。

気持ちよかった。この感覚を一生忘れたくない

と思った。

それ以来、私は事あるごとに海へ行く。

どんな時間でも。

海に入れない時期にも。

私の帰る場所になった。

あの言葉にできない満たされた感覚を、

全てから解放されて自由になったあの日を

思い出すために私は海へ行く。