読者を否定しない“自虐ゼロ”のメイク本がヒット!「二度と出会えない著者」と編集者が語るワケ
コスメカウンター、行ってみたら意外と怖くなかった……
ーーまず、なぜこの本を作ろうと思ったのかを教えてください。
元々美容やメイクに全く興味がなかったのですが、産後、肌荒れがひどくなり、20年ぶりくらいにデパートのコスメカウンターに行ったのが最初のきっかけです。
その時に、美容部員さんに「肌荒れは乾燥のせいかもしれないですね」「最近のファンデーションはブラシで塗るといいんですよ」など、丁寧にいろんなことを教えてもらい、「押し売りされそう」「怖い」というイメージは自分の一方的な思い込みだったんだなと感動しました。
メイクに興味を持ったり、メイクをし始めたりするのは若いときだと思うんですが、私のようにアラフォーくらいになってしまうと、ゼロから学ぶ機会がないなと思ったんです。
それで、コスメカウンターの帰り道に『40歳メイク1年生(仮)』という本のタイトルを思いつきました(でもそこから初心者向けにメイクを教えてくれる著者の方を見つけられなくて、1〜2年くらい企画を寝かせていたんですが……)。
ーー「コスメカウンターが怖いマンガ家」の吉川景都さんと、「現役美容部員」のBAパンダさん、お二人のマンガはX(旧Twitter)上で凄いバズっていましたよね! そういう時って他の出版社からも声がかかると思うんですが、田中さんが担当編集になれた秘訣はありますか?
うーん、ご縁としか言いようがないですが。「田中さんのメール、長文でしたね(笑)」と吉川先生から言われたので、熱意が伝わったのかもしれません!
私は最初から明確に、「エッセイではなく実用書を作りたい」とご提案していました。読者が読後に得られるメリットは、マンガのストーリーの面白さに加えて「メイクを学び直せる」という点だと考えていたんです。
その点にお二人が共感してくれたことも、ご一緒できた1つの理由だと思います。
ーー読者の反応で特に印象的だったものがあれば教えてください。
読者を否定する言葉「ブス」「NGメイク」「脱おばさん」「老け見え」のような過度な自虐表現がなくていい、だから自分にも読めるという感想をよくいただきます!
読者が今やっていることを否定せず「もしよければやってみて」というスタンスの本を目指していたので、こうした感想をいただき本当に嬉しいです。
ーー「自虐しない」という点は、なにか著者のお二方のこだわりがあったんですか?
アラフォーであれば誰でも、過剰な表現に心が少し傷んだり、違和感をもった経験はあると思うんですよね。吉川先生も、読者としてそうしたチクチクした言葉に、傷ついてきたお一人だったんだと思います。
パンダさんのキャラクターにもそれは現れていて、彼女は「これはダメ」とか絶対に言わないんです。「やりたければやったらいいよ!」という否定しないスタンスも、読者のそういう感想を引き出したのかなと思います。
ちなみにこれは作られたキャラではなくて、パンダさんは本当にメイクする相手を否定しないんですよ。ご本人は「美容部員はみんなそうですよ。当然のことです」とおっしゃるんですが。
ーー失敗することと否定されることは、メイクを学び直したい人やこれから学びたい人にとって何よりもつらいですよね。企画を思いついてから、書籍にするまでにどこか変更した点はありますか?
本のタイトルを『40歳メイク1年生』から『なんとなくメイクが変なので友達の美容部員にコツを全部聞いてみた』に変えたのも、「年齢で人をわける」ことにだんだん違和感を持つようになったからでした。
パンダさんが、「自分にとって最初で最後の本になるかもしれないのに、年齢で人を分けるような表現を使うのは絶対に嫌だ」と仰ったのが決定打になって、よりよいタイトルを探すことになりました。
著者さんは、読者の代表でもあります。だから、「著者さんが心の底から嫌だ(違和感がある」と思うことは、おそらく読者も同じように感じると私は思っています。
メイクをするなら眉毛から
ーー読者代表という絶対的安心感を持っているお二人だからこそ、セミナーにも多くのファンが参加しているんですね! セミナー等を通じ、ファンの人たちと交流してみて、田中さん自身が嬉しかったエピソードはありますか?
「普段はほぼすっぴんです!」や「眉を手入れした経験がないです」という同志(私も会社ではよくすっぴんです!)、メイクに苦手意識がある読者の方々が、わざわざお金を払って会いに来てくれたことです。
セミナーは本よりも参加するハードルが高いと思っていたので、意外でしたが、とてもうれしいことでした。
ーー私はどちらかというと「メイクを始める前に読みたかったな」と切実に思いました(笑)。編集者視点で、『ここだけは絶対読んでほしい』というおすすめポイントやページを教えてください。
第1章の「眉毛がなんとなく変」です!
美容本って、普通は「ベースメイク」や「スキンケア」から始まっているものが多いんです。でも企画した時期がマスクをしているコロナ禍だったこともあり、パンダさんが仰ってくれた「手っ取り早く変化が分かりやすい」という眉毛を最初に持ってきました。
同時に、私がパンダさんから教えてもらって、目からウロコ順に並べたらたまたま眉毛が1章になったんです。あと実は、X上でバズったから1章に持ってきたというのもあります(笑)。
二度と出会えない2人
ーー吉川先生とパンダさんの関係性って、ネット上でもつい読み入ってしまう魅力がありますよね! 30年来の友人という関係性も、多くの人を惹きつけたポイントのような気がします。そんなお二人は、担当編集の田中さんから見てどんな人たちですか?
二度と出会えない、希少性のある著者さんだと感じています。
メイクが上手な美容部員さんはいるかもしれませんし、コスメカウンターが怖いマンガ家さんもいるかもしれません。でも、2人が本当の幼なじみで、教える役と聞き役のコンビとして本音で話しているからこそ、この本の魅力が生まれたと考えています。
編集者が企画して、「人工的に」作った設定のマンガであれば、絶対にここまで売れていません。
ーーお二人、それぞれのキャラも立っていますよね!
吉川先生は「この本に何が必要か」の感性が、誰よりも凄い人だと思います。私が企画を進めていく際に、本の軸がブレそうになったことがあって「原稿のワンポイントとして、写真を入れたらどうか?」と持ちかけたんです。そのときは「メイクのテクニックを詳細に紹介するのなら、YouTubeにはかなわない。それより、私たちのウリである面白さを前面に押し出した方がいいと思います」と言ってくださって……。この本が読者に何を求められているのかが、吉川先生には最初から分かっていた。それが、マンガ全体ににじみ出ているなと感じています。
パンダさんの魅力は、美容部員さんらしからぬ(?)独特のワードセンスですね。「いつも心にガイコツを」「世界のすべてを見下す顔で」などの格言は、この本にしかない魅力です!
この先も面白い書籍の情報を定期的に発信しますので、ダイヤモンド社書籍編集局の公式noteをぜひフォローしてください!