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「キネマの神様」に愛を込めて

34歳。甲状腺がんの手術を受けた。

ことの詳細は改めて、言葉にしてみたいと思う。

今日伝えたいこと。それは、術後私を癒してくれたのは原田マハさん著作のキネマの神様だったという話だ。

少し体力の戻ってきた術後翌日のベッドの上、体を起こして単行本を開いた。
私はもともと読書に時間がかかるのだけれど、
マハさんが書かれている作品はどれも凄い速さで読み終えてしまう。
今回も、3日。片桐はいりさんが書かれている解説も含めた331ページをたったの3日で読み終えてしまった。睡眠時間を削った訳でもなく、お日様の出ている範疇で。それだけページをめくる指を止められなくなるのだ。

マハさんの綴られる言葉に感想を述べること事態とても烏滸がましく思えるが、言うなればそれは心血が込められた言葉にこちらの心拍も呼応して時には笑い、時には嗚咽を堪え全身の細胞が震えるような体験が待っている。

今回読んだ「キネマの神様」もそうだった。
主人公は情熱を傾けられる仕事を持っているキャリアウーマン。
その女性が、ひょんなことを機に仕事を辞めざるを得なくなり、喪失の中で家族と向き合い葛藤する。
家族の台風の目である父親―ギャンブルが大好きで、家庭を顧みない。けれど映画に対する愛情は人一倍でこのお父さんが繰り出す映画への想いが奇跡を紡いでいくのだけれど―がカギとなりながら出逢うべきものが巡りに巡り合い宿命とも言える出会いを果たしていく畝りは、心の中に感動の津波を呼び起こしていく。


ベッドの上で度々、声が漏れぬよう堪えながら心臓をドキドキさせて読み切った時間は、入院によってもたらされた無添加な状態の心身にさらなる瑞々しさを与えてくれた。(日ごろスマホを中心とした生活で、必要のない情報までも脳内に蓄積しまくっていたことに気が付かされていた)

そういえば私も、小さい頃から映画好きの母親と一緒に沢山の映画に触れ、「映画は役者さんの声で聴く」をモットーにしていた母の影響からか幼いながらに字幕で洋画を見ている少女だった。
もちろん幼少期から映画館という空間が大好きだし、大人になってからは鑑賞した映画のチケットをノートに貼ってコレクションしている。
友達と見たもののけ姫で衝撃を受けた記憶や、家族で行ったタイタニックは小6だった私にとって恐ろしく気まづい時間だったこと、夫との初デートはチョコレートドーナツを観覧してこれでもかというほど涙を流し上映後、腫れた目でお茶をしたことなど言葉に並べられないくらい映画館には沢山の思い出が詰まっている。

短い入院を終えて、無事退院の日がやってきた。
夫の車で実家へ向かいしばらくの間静養する。
コロナ下の影響で母は映画館から遠ざかってしまっているけれどその代わり図書館で何冊かの本を借りて読書生活を送っている。

ふと目をやると、「ジヴェルニーの食卓」/原田マハ著

キネマの神様を読んでいたことなど一言も伝えていなかったけれど
偶然にもマハさんの本が待ってくれていた…と勝手に心をトキメかせた。
それは映画館という場所ではないけれど、まるでキネマの神様が病室から実家まで見届けてくれたような気持ちに包み込まれた。

幸い甲状腺のがんは50歳以下であればほとんど悪さをしないことが多いそうで、術後の抗がん剤治療なども必要ない。
切除してしまえば縁が切れると主治医から宣言されていた。

なんだか新しい私になった気がする。
まっさらな気持ちでジヴェルニーの食卓のページを開いた。


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