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南会津でウェルネスツーリズムを構築する

ポイント

  • 都市圏からのアクセスが良くない地域だからこそ残った暮らしの価値をウェルネスとして磨き上げ

  • 地域のことをよく知る事業者と都市圏に繋がりを持つ事業者が組むことで、外からの目線を取り入れられる座組を構築

  • ウェルネスツーリズムの第一人者である専門家を巻き込み、地域資源の価値や磨き上げの方向性を見出す



要約

地域の自然環境や文化遺産を活かし、訪問者に癒しと安らぎを提供するウェルネスプログラムを開発。特に、昔ながらの生活や自然との調和を体験できるプログラムを開発することで地域の「何にもない」という視点を価値に転換。ウェルネスの領域を切り口にした活性に取り組んだ。

概要

  •  エリア 福島県南会津町

  • ビジョン 南会津の観光・滞在資源を掘り起こし新たな価値を創る

  • ミッション 森林空間・里山文化を活かした滞在体験造成

  • 連携先 合同会社SCOP、株式会社BioBeat


背景

「何もない」と言われる田舎。じゃあ、何もない空間と体験の価値を見出そう。

①南会津とは

「南会津」というワードを聞いたことがある人はどれくらいいるだろうか。「会津」という単語や地名なら歴史の授業で聞いたことがあったり、修学旅行で訪れたという人もそれなりにいるかと思う。そのような人にすれば会津の南側にあるのだろうと想像もされるだろう。この想像の通り「南会津」は会津の南方に位置し、南会津地方という4町村からなるエリア、その4町村の一つに南会津町という自治体が今ではこの名を冠している。
南会津町は総面積886.47平方キロメートルで、福島県内では2番目に広い面積を持ち、この面積は東京23区より広い。しかし、そのうちの約92%は森林であるという、とてつもない山の中のわずか8%に集落が点在している地域である。

②遠くて不便、そのおかげで残された里と山の暮らし

そんな南会津町は都心からのアクセスも便利とは言い難い。最寄りとなる新幹線駅は新白河駅か那須塩原駅。そこまでは車で約1時間半、うねりにうねった峠道を越えていかなければならない。高速道路も同様に峠を乗り越えなければインターには辿り着けない。浅草から会津田島駅という地場の駅まで直通運転している東武鉄道の特急「リバティ」もあるが、到着までは約3時間半ほどかかる。
街中にはイオンやジャスコのようないわゆる商業施設も無い。
目に入るのは山・森・川。
都市的な生活を送ろうと考えればどう頑張っても「不便」と言わざるを得ない場所だ。しかし、そのおかげでこの地域には都市において利便性とトレードオフされ消え去ってしまった自然、生態系、生活文化といった経済に依らない価値を持つモノが残された。この環境は都市生活をベースとして見ると、便利なもの・オシャレなものは「何もない」。だが、それが逆に目まぐるしいスピードで変わりゆく都市化からこの地で育まれた日本らしさの残る生活様式や生きるための生活の知恵、共生できる自然を残すことにつながったのだと思う。

③ここにあるものが、今必要なもの

2015年を皮切りに世界が達成を目指すSDGs。コロナ禍を経て一層変わった生活様式とグリーンへの意識。如何に人類が生きものとしてこの地球上での暮らしを消費型のものから持続可能な形に転換するか。そして一人ひとりがウェルビーイングを高め、豊かに、幸福に暮らしていけるか。
こういった大きな問いが常に付きまとう時代の中で、全てを利便性や効率を中心にデザインし作り上げるのでなく、一見不便に見えようと自然の大きな仕組みとゆるやかな時間の流れに逆らわずに共生する知恵や生活が持つ本質にこそ焦点を当てなければいけない。そう考え、本質的に伝えなければいけない価値の届け方を模索し始めた。


アクション

南会津の里山暮らし、そのウェルネスを見出す

①静寂の中に息づく生命のリズム

南会津の里山での暮らしは、都会の喧騒から離れた場所で自然と一体となる体験や、身近にその自然が持つリズムを体感することができる。朝は鳥のさえずりが聞こえ、昼の晴れた夏空には大きな入道雲が浮かびゆっくりと流れていく。一日を通して聞こえる様々な虫の鳴き声と、夕暮れ時に響き渡るひぐらしの声には哀愁が漂う。夜は満天の星空が広がり、少し肌寒いくらいの空気の中田んぼからはカエルの大合唱が聞こえる。里山での生活は、四季折々の美しさを感じながら、日常の中で自然の息吹を感じ取ることができる。ひとだけでなく多くの生き物が同じ自然の中で暮らしていることが当たり前のように感じることができ、その静寂と調和の中に心を向けられる余裕が自ずと生まれてくる。

②里山が教える「ゆっくり」の価値

南会津の里山暮らしは、スローライフの真髄を体感する絶好の場である。かつては江戸から会津までの街道筋だった宿場町と伊南川・只見川の流域に越後からの流れをくむ農村。それぞれに息づく文化があり、そのどれもが都会の速いペースに慣れた人々にとって、ゆっくりと流れる時間の感覚を取り戻すことができる。その取り戻し方はただ歩くだけでも、むら湯につかるだけでも、ちょっと芋掘りをするでもいい。里山での生活の中から、自然との共生を感じて、物事の本質的な価値を再発見することができる。一つ一つの体験や感覚が、「今、ここにいる」という実感を与え、ウェルビーイングを高めるアクション=ウェルネスに通じていると考えた。

③里山ウェルネスツーリズムのモニターツアー

これらの流れを踏まえ、地域を見直すことで見出した暮らしの魅力と価値を実際に体験してもらう機会を持つことにした。夏にモニターツアーを企画し、首都圏在住者を対象に実施した。モニターツアーでは、里山のゆっくりとした時間と自然を体験してもらうこと、そして地域に住まう人との良い交流を持つことを意識しプログラムを設計した。実施したプログラムは下記の通りである。

  • ワラーチづくり体験

  • 街道散策

  • 川辺でのマインドフルネス

  • むら湯巡り

  • 星空鑑賞

  • 野菜収穫

基本的にどれも住まう人にとっては日常的な体験であるが、都会から訪れる人にとっては滅多にすることがなく、かつ暮らしのリズムやライフスタイルの見直しにつながる、価値ある体験を提供できたと評価している。


成果

ウェルネスプログラムの造成とモニターツアー、そしてリトリートへ

①ウェルネスプログラムの造成とモニターツアー


「歩く」を感じるためのワラーチ作り
ワラーチで街道を歩く
川に浸かり自然を五感で感じる体験①


川に浸かり自然を五感で感じる体験②
地域の方の野菜収穫を手伝う体験

②リトリートプランの造成へ向けた取り組みのステップアップ




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