言わなくて正解だったのか、言った方が良かったのか。
数日間、とある都市にあるビジネスホテルにお世話になった。築浅の綺麗なホテルで、お値段の割にサービスも良さそう。
ところがうっかり喫煙室を予約してしまっていた。
「まぁ。いい。若干なら耐えられる。」と、そのときは思った。
部屋に入ると想像以上の煙草の臭気。前の人の臭いだろう。
置いてあった消臭剤をこまめに散布しつつ、「まぁ。辛抱強く消えるのを待つしかない。」と、また思った。
ふと部屋のエアコンが眼にとまる。各部屋にエアコンが取り付けてあるタイプのホテルらしい。
もしも小さな宿なら、自分はまずフィルターのチェックをしてしまう。汚れが限界を超えていると酷いアレルギー症状が出てしまうのだから仕方がない。
「まぁ。こんな掃除の行き届いたホテルなら、そんな心配は無用だろうが。」と、さらに思った。
しかし2日目に同室の者とともに発症しだしたアレルギー性鼻炎がさらに1日経ても治まらず、自分はとうとう結膜炎になってしまう。何より、すぐに消えると思っていた煙草の臭いもずっと強いままで、耐えるのに限界がきていた。「これは。」と思ってようやくエアコンのフィルターを点検してみると、取り付けてから一度も掃除をしていないであろう衝撃的なフィルターを見ることとなった。見事に積もった埃が煙草の臭いを含ませて、かつそれが室内を循環していたのだろう。
煙草の臭いがなければ気がつかなかったので、身の安全を考えるならば今回は喫煙室を予約していて正解だった。何が幸いするか世の中は分からない。
フィルターの掃除をしたその日、部屋の臭気は我慢できる程度まで減少し、アレルギーの症状も無事に治まったのである。
値段で選んだホテルに一流ホテルのようなサービスは求めていないし、そこそこ清潔で安心して眠ることができるのならばそれでいいのだ。できることは自分でやらせて頂くつもり。
ただアレルギー持ちの自分の軟弱さにも、迂闊に迂闊を重ねておよそ数日間を無駄にしてしまう(その位しんどかった)自身にも腹立たしさは残る。
加えて想定外のジレンマが心に湧き上がってきた。
努力しているスタッフを虐めるような耳の痛いことを言わなくて正解だったのか、経営者の身になって“貴重な意見”を言った方が良かったのか。
結膜炎の市販薬を点眼しながら、微妙に哲学的になる初夏の一日、私はnoteにことのてん末をしたためる。
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