安野貴博氏、岡瑞起氏が登壇。「近未来教育フォーラム2024」アフターレポート。
2024年11月30日、デジタルハリウッドは「近未来教育フォーラム2024」を開催しました。
今年のテーマは「The Great Transition～ポストAIは来ない～」です。ChatGPTの登場を機に、我々の生活へますます溶け込んできているAI（人工知能）による影響は、どこまで広がり続けるのか。本フォーラムのイベントタイトルを毎年設定してきたデジタルハリウッド創立者・杉山知之の答えは、「ポストAIは来ない＝どこまでも広がり続ける」でした。
今回は、AIによって2024年東京都知事選のハックを試みた安野貴博氏、筑波大学で人工生命を研究する岡瑞起氏をお招きし、プレゼンテーションとトークセッションを実施しました。
このnoteでは当日のダイジェストと、登壇者のアフタートークをお届けします。本フォーラムにご参加できなかった方は、「近未来教育フォーラム2024」公式Webサイトのイベントレポートもあわせてご覧ください。
写真で振り返る「近未来教育フォーラム2024」
今回の近未来教育フォーラムは、この三部構成でした。
【第一部】安野 貴博氏のプレゼンテーション
【第二部】岡瑞 起氏のプレゼンテーション
【第三部】安野 貴博氏×岡瑞 起氏×藤井 直敬教授によるトークセッション
第一部では、安野氏が15万票を得票した東京都知事選の裏側を公開。都民の意見を聴く、磨く、伝えるというサイクルをAIによって回し続け、さまざまな人と東京都の未来を考える選挙期間にしたと話します。
第二部で、岡氏がキーワードとして取り上げたのは“Open-endedness”、AIの終わりなき進化です。AIを自然現象のように観察する人工生命分野の研究事例や、AIが人の創造性を強化している事例などを紹介しました。
第三部では、安野氏、岡氏、藤井教授によるトークセッションを実施。AIと人の言語化能力、AIと相性が良い学習分野など、さまざまな話題が飛び出しますが、特に盛り上がったのが質疑応答の時間です。
・AIエージェントとなった安野さんが、都民に間違った回答をするかもしれない、ハルシネーションのリスクはあった？
・AIによってセレンディピティを生み出すために必要なのは、遊び、散策、ランダム、デタラメ、どのニュアンスが近い？
・一部の優秀な人だけがAIの恩恵を享受できるだけで、教育者を始めとする一般の人々は表層的な理解に留まってしまうのでは？
たくさんの質問が参加者の方々から届き、特に3つ目の質問に関して話が広がります。
「AIを自然現象だと思えば、観察する分だけ見えてくるものがあると思います。我々も別に炎という現象を完璧に理解して使っているかと言えばそうではないし、AIの中身を理解することと、それを使えることは別な話ではないでしょうか」と安野氏。
岡氏は「もちろん、裏の技術を理解しようとすると専門的な知識が必要になるのですが、ユーザーとしてなら誰でも使えるテクノロジーになっているはずです。たとえば、会場の中にChatGPTと数千時間過ごした方がいるのですが、それだけの時間をかけるとハルシネーションしなくなったと言うんです。ChatGPTの身体性を理解し、通じ合うためには時間が必要なのだと感じました」と言います。
ChatGPTと数千時間過ごした猛者に会場は騒然。安野氏は「ChatGPTとそこまで話せていない」と、反省モードになり笑みを浮かべます。
最後に、安野氏からこのようなメッセージがあり、トークセッションが終了しました。
「皆さんにぜひ知っておいていただきたいのは、我々もAIについて分かったような顔をして喋っていますが、AIが進歩する速さ、最近の解析されっぷりを見ていると、最先端のAI研究者ですら、正直何が起きているのか分からないということ。もはや全人類置いていかれているのではないかと。AIが分からない、置いていかれると心配になる方もいるかもしれませんが、研究者や我々登壇者、皆さんとの間に大きな差はないという認識でいます。何千時間もChatGPTを使っていない僕に何も言えることはありません」
ここからは、登壇者3名のアフタートークをお届けします。本フォーラムを通じて参加者だけでなく、登壇者同士も刺激を受けた様子が見受けられました。
安野 貴博氏「コミュニケーションが変わり、社会も変わる」
——登壇後の感想をお願いします。
岡さん、藤井さんとディスカッションしてみて非常に面白かったと思っています。皆さんからいただいた質問も良くて、まさにここでしかできない議論でした。
参加者の中には何千時間もChatGPTと過ごしてきた方がいるのも驚きでした。私はそこまでの時間を費やしていないので、そういう景色を見てみたい気持ちが湧いてきましたね。
——安野さんからは過渡期というキーワードがたくさん出ました。その過渡期において、AIはこれから教育現場でどのように活用されると思いますか。
もう始まっていると思いますが、レポートをまとめる際に、AIの力を使う学生がより増えていくのではないかと思います。
ある大学の教員の方から聞いた話で、良いなと思ったのがあって。一度提出してもらったレポート課題を、今度は「どんな情報が足りていないか」とChatGPTにフィードバックをもらい、それを踏まえてレポートをアップデートせよ、という課題を出したことがあるそうです。
確かにゼロの状態からChatGPTに聞こうとすると、なかなか答えは出にくいので、AIというツールを使ってより良いレポートをするにはどうしたら良いか、重要なことを問える良い課題だなと感じました。
——最後に、来場者の方や本レポートをご覧になる方へメッセージをお願いします。
AIは今後社会を大きく変えていくと思います。特にAIによって強化されたコミュニケーションが、社会の形を大きく変えていくのではないかと。個人対個人、組織の中の関係性、10万人、100万人、1,000万人規模のコミュニティの構造も変わっていくと思っています。
岡 瑞起氏「個で探求できる精神力が必要になる」
——登壇後の感想をお願いします。
「The Great Transition～ポストAIは来ない～」という素晴らしいテーマをいただき、安野さん、藤井さんのお話を聞けて、わたし自身いろいろな発見がありました。
特に、安野さんのように、候補者本人がAIを活用しようとする例は今までなかったと思うので、ご本人から話を聞けたのが面白かったですね。2024年はAIとのコミュニケーションに対する考え方が大きく変わったような、歴史的なタイミングだったのではと感じています。
——確かに、安野さんのお話を聞いて選挙って自由なんだなと思いました。
そうですね。いろんなハックの仕方があると思いますが、安野さんのような方法もあるのかと。安野さんだけでなく、選挙の仕組みそのものをアップデートしようという機運が、世の中的に高まっている気がしています。
——岡先生は筑波大学で学生や研究者と接する機会が多いかと思います。近い将来、教育の現場においてAIはどんな使われ方をすると思いますか。
大学だと講義という形で教育をすることもあるのですが、同じくらい重要なのが研究です。
特にわたしがいるコンピュータサイエンス分野では、生成AIを使わない研究が珍しいほどです。そのため、これまでの枠に囚われずに新しい研究テーマが発見できるかどうかが、さらに問われてきます。
加えて、研究プロセスそのものの自動化が進んでいることも考えると、コミュニティに頼る必要もなくなってくるため、全員が同じ問いに向き合う機会も少なくなるかもしれない。つまり、研究者個人が試されているんです。他者が重要だと思っていない問いであっても、探求し続けられるような、精神力の強さが求められる時代になったと感じています。
——最後に、来場者の方や本レポートをご覧になる方へメッセージをお願いします。
トークセッションで安野さんが、専門家と非専門家の知識の差はそんなに違わないとおっしゃっていましたが、本当にその通りで、わたしも1週間情報を追っていないだけで置いていかれている感覚があります。
今は過渡期であるため、研究者やエンジニアが重視している問いが、5年後10年後には問い自体の意味がなくなっている可能性もあります。だから、そこに非専門家の方々が携わっていないからと言って、何か大きな差があるわけではないんです。
必要なのは最新の情報を追い切ることではなく、AIとの関わり方や、子どもたちとAIの関係性を考えることだと思っています。
藤井 直敬教授「AIは誰もが使わざるを得ないものに」
——登壇後の感想をお願いします。
安野さんの試みが、新しいし面白い。選挙期間中という時間に限りがある中で、あれだけのシステムを回すという、実証実験そのものをやり切った。今だから、安野さんだからできたことだと感じました。
岡さんについても、人工生命というひとつの研究カテゴリーで留まっていたものが、AIの進化に伴って社会と接続してきて、それも面白い。双方とも非常に価値のある試みをされていて、お呼びして良かったと思っています。
——藤井先生は、これからの教育現場においてAIがどのように浸透していくと思いますか。
教員側も学生も社会も、今後どうなるのかまだ分かっていないのが本音です。生成されるものの価値が分かっていない状況で、評価が定まっていない段階なので、これから「実用的なシステムだ」と、教育現場に限らずさまざまな場面で評価され始めると思います。
——最後に、来場者の方や本レポートをご覧になる方へメッセージをお願いします。
AIのような先端テクノロジーは、業界最前線の人が使っているイメージだと思いますが、スマホを持つくらい、誰もが使わざるを得ないものになると思います。知らないうちに僕らの中にどんどん溶け込んでいく。そしてそれは知らなくても良いことなんです。
以上、近未来教育フォーラム2024のアフターレポートでした。
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