見出し画像

初めての、大銀杏の樹。

大銀杏とちょんまげ。
白い廻しと黒い廻し。
あるいは、色とりどりの締め込みと黒い廻し。
15番と7番。
番付の肉太の文字と細い文字。
あるいは、肉太の文字と明朝体。
糊がぱっきぱきに効いたぴんとしたサガリと太ももに寄り添うたらりとしたサガリ。

朝から、あるいは、昼から相撲を見ていると、どこかに、境界線があることに気がつく。境界線は、テレビに見えることばかりではなくて、むしろ、見えないところにいっぱい存在する。

その境界線は、力士ひとりひとりに貼られた(集合体として大きな紙に書かれた)、番付というタグを通して確認される。

だが、運がよければ、なのか、1日にひとつ、あるいはふたつくらい、その境界線の真っ只中が、土俵の中に対峙することがある。テレビ画面の中に相撲字と明朝体が混在し、締め込みと黒廻しが東西にわかれて四股を踏む。

だが、その日は、ちょっとだけ幕下力士が背伸びをする日だ。大銀杏を結って、塩をまく。

そういう取組があることを、前日、あるいは、当日に識ると、なんだかドキドキとする。この11月場所の千秋楽には、なによりも、まず、その取組を待っていた。

えらくバランスの悪い取組だった。

幕下以下は15日のうち7番相撲を取る。その7番目の相撲は大抵後半3日のいずれかに組まれる(だから後半の3日は始まるのがちょっと遅い。東京に住んで生観戦をしていたときには、後半、ことに、平日である13日目に観戦をしようと心がけていた)。11月場所、幕下の上位には3勝3敗の力士がひしめいていて(ソレ以前に、既に十両に上がれる星を上げていた力士と、ちょっと下に、勝てば一発で十両に上がれる星で大一番を控えたひとがいて)、その3勝3敗の力士は3日の間に順番に出てくるという図式であった。この3日は、どこに取組が入ってもいいように、BSの中継で見られるようにスタンバイしていた(ABEMAではなくてBSで見たい理由というのは存在するが、この稿では措く)。…んだが、ほぼ雲行きは13日目に決してしまった。だいたいの方向性が固まり、あとは、ひょっとして十両に残るのが厳しくなるような星の力士が上にいるのかもしれない、という状況ではあったが、結局、勝って勝ち越しても上に上がれない、負ければ負け越して番付を落としてしまう、という状況の幕下力士が、初めて十両の土俵に登場するということになってしまった。

えらい厳しい割だよなあと。

それでもただただ楽しみになってしまうのがそのシチュエーションである。大銀杏が初めてテレビに映ったときには声が出たし、初めて塩をまくところを見たときに(塩をまくのは予測していたくせに)「わーーーーー、塩まいてるよーーーーーーー」とテレビの前で叫んでしまっていた。どんだけ。

画像1

「初めて」は終わった。

3勝3敗たちがいっぱい並んでさて誰が誰と当たるんだろうと言ってたときに「ソコ当たるんじゃないか」と思わず口に出した取組は、既に終わっていた。「あれ当たってたんだ!」のふたりがふたりとも7番相撲が貴源治とだったんだなと。終盤の5連敗で陥落の危機にあった貴源治は、最後の15番目で7勝目を上げてなんとかとどまる見込み、だ。勝ったひとと負けたひと、でもない、ちょっと違う。うーむ。なんだろう。同じ大学の1つ違いだというのは、あとになって識った。とかね。

妙に一生懸命見たので一生懸命描いて、さらに描き終わってから絵の中に塩を増やしてみたので、ここにのこしておく。続きは来年の楽しみにする。なお、周囲は水彩で極力白っぽくに仕上げたのだが、塩だけは、白のアクリル絵の具を歯ブラシに含んで、机に新聞紙をがっちり敷いて、思いっきり飛ばした。

明日は番付発表だ。上がる人々はどんな表情をそこに見せるのだろうか。四股名は変わるのだろうか。そして、やっぱり混戦の幕下上位は、どんなふうに入れ替わるのだろうか。毎日大銀杏を結って弓取式をおこなうかたも、かなり上がってその一員になるんだろうな。ちゃんとBSを録っておけるようにしよう、と、現在位置に引っ越して以来初めて思った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?