大学日本代表候補強化合宿 ~何度目の松山か~
今年も大学日本代表候補強化合宿、通称松山合宿を視察してきました。25年に行われる日米大学野球の選考に関わる大事な合宿であり、来年以降のドラフト候補の見本市である年内最大のアマチュア野球イベントを今年も堪能してきたので、個人的な視点で振り返りをしたいと思います。
1.参加メンバー
今回の参加メンバーで特筆すべきは1年生が6人選出されたことでしょう。昨年は佐藤幻瑛投手(仙台大学)、木口永翔投手(上武大学)、渡部海選手(青山学院大学)の3人だったことを考えるとその倍にあたる6人の選出は快挙と言えます。
夏の欧州遠征に代表として呼ばれた渡邉一生投手(仙台大学)や髙木快大投手(中京大学)はコンディション面を考慮して今回は参加見送りとなりましたが、それでも魅力ある選手が多く参加しパフォーマンスを発揮した実りある合宿だったと思います。
2.練習メニュー
私は仕事の都合もあり初日と2日目の2日間の視察でしたが、この2日だけでも十分満喫出来るレベルの内容でした。
特に初日のフリー打撃では神宮大会を沸かせた創価大学の立石正広選手(③高川学園)が2本の柵越えを放ち、そのうちの1本は松山坊っちゃんスタジアムの場外へと消えてく特大アーチでした。私は偶然外野側で立石選手のフリー打撃を見ていたのですが、場外へ消えていく放物線をこの目でしっかりと確かめました。球場の規格が他の球場よりも広く設計されている松山坊っちゃんスタジアムはホームランが出にくいと言われる球場ながら、フリー打撃とはいえ場外へ消えてく一発を放つ大学生は只者ではありません。
また初日のメニューで松山合宿では恒例の50m走のタイム測定がありました。昨年は今年度のドラフトで指名されたスター選手を抑えて当時2年生の城西大学の松川玲央選手(③関西)が5.88でトップでした。そして今年は
2-1 50m走
今年も松川選手の優勝かと思いきや、ダークホース的存在だった筑波大学の岡城快生選手(③岡山一宮)が5.82で見事優勝しました。右打ちの岡城選手なのでそこまで足に注目といった感じではなかった前評判でしたが、見事並居る強敵を抑えて堂々のトップとなりました。
今年は5秒台が4人と昨年の3人から1人増えたり、全体的にタイム自体が向上していることもあるので、選考時点である程度走力面も考慮しての松山合宿だったのかなと思います。特に東京六大学や東都大学野球といった中央球界の選手ではない選手達の好タイムが光った50m走でした。特に首都大学野球連盟から選出された3選手はトップ5入りを果たしており、来年は首都大学野球のリーグ戦が非常に楽しみな結果となりました。
2-2 シート打撃
今回の合宿では例年通りの紅白戦では無く、ランナーを置いた状況でのシート打撃方式で投手・野手の力量を計っていました。
今回招集された投手は19名、右投手13名左投手6名が打者6人に対してシート打撃に登板。シチュエーションはAパターン3人・Bパターン3人、条件は下記になります。
2-2-1 前半チーム
まず最初に登板したのは東北福祉大学の堀越啓太投手(③花咲徳栄)でした。最初の打者の亜細亜大学・前嶋藍選手(②横浜隼人)に対してボールが散らばり四球を与えてしまいましたが、以降の打者5人に対してはしっかり抑える辺り流石の投球でした。特に三振を奪ったスライダーはかなり驚異的なボールだったと思います。来年のドラフト候補の最前線に名前が挙がる投手だけに2025年は堀越投手に注目です。
次に登板したのは立命館大学の有馬伽久投手(②愛工大名電)でした。有馬投手は愛工大名電時代からよく見てきた投手であり、この春には関西大学の金丸夢斗投手(④神港橘・中日1位)との投げ合いをほっともっとフィールド神戸で見ており、ここまで大学で順調にステップを踏んでいる印象でした。シート打撃では打者6人に対して四球を1つ与えてしまったものの、無安打に抑える好投でした。セットポジションから投げる143キロのストレートは非常に回転の良いボールでした。
次に登板したのは有馬投手と同じ立命館大学の芝本琳平投手(②社)が登板しました。今秋の立命館大学は4年生の長屋竣大投手(④浜松開誠館)がTJ手術によりリーグ戦絶望となった影響で1戦目が有馬投手・2戦目が芝本投手が投げることが多く、芝本投手は7試合に登板し4勝1敗防御率1.26でリーグ最多勝に輝く成績を残しました。最速も150キロに到達し、2年生ながら早くも26年のドラフト候補として名前が挙がる存在に成長しました。私も今秋のリーグ戦で芝本投手の登板を皇子山球場で拝見しましたが、制球力が良くしっかりとゲームメイクが出来る好投手の印象を受けました。
この日は先頭の同志社大学の辻井心選手(②京都国際)に対しボールが抜けて死球を与えてしまって以降制球が甘くなってしまい連打を浴びてしまいます。0-2カウントのBパターンでも中京大学の秋山俊選手(③仙台育英)にヒットを許すなど結果としては振るいませんでした。気温が低い12月の開催ということもあり抜けてしまったのは仕方ないですが、死球を与えてしまった辻井選手がその後のメニューを不参加になるほど痛がっていたことが芝本投手に影響を与えていたのは間違いなく、本来の芝本投手では無かったのかなと思います。春のリーグ戦でもう1度輝きを見せ、夏の平塚合宿ではアピール出来るように頑張って欲しいです。
次に登板したのは慶應義塾大学の渡辺和大投手(②高松商業)でした。渡辺投手は高松商業時代は浅野翔吾選手(巨人)と共に2度甲子園に出場し、22年夏にはチームをベスト8に導くエースとして活躍しました。その後慶大に進学後2年目の今年に頭角を現し、今秋は6試合に先発して3勝1敗防御率1.17で東京六大学の最優秀防御率賞を獲得した今一番伸び盛りの投手です。
この日は先頭の繫永晟選手(③大阪桐蔭)にヒットを浴びましたが、続く創価大学の立石選手をゲッツーに抑えます。続く東海大学の大塚瑠晏選手の打球をショートを守る立教大学の小林隼翔選手(①広陵)が取り損ねてしまい結果エラー。渡辺投手は打者6人に対して結果的に最初のヒット1本に抑える好投でした。今秋リーグ戦で最速148キロを計測した渡辺投手でしたが、この日は寒さもあり141キロがMAXでしたが、キレのある良いボールを投げ込んでいました。
次に登板したのは早稲田大学の伊藤樹投手(③仙台育英)です。夏の欧州遠征にも代表で呼ばれた六大学通算13勝を挙げるWASEDAのエースは先頭の近畿大学・勝田成選手(③関大北陽)に内野安打を許すと、続く東日本国際大学の黒田義信選手(②九州国際大付)に四球を与えるなど、本来の投球からは程遠い内容でした。
前週まで神宮大会があったことや春から代表、秋のリーグ戦と休み無しに投げ続けたこともあり少し疲れ気味の伊藤投手でしたが、来年の代表には必ず呼ばれる投手だと思いますし、指揮官の堀井哲也監督(慶応義塾大学)も全幅の信頼を置いている投手だと思います。来年は伊藤投手の年になるのか、注目が集まる1年となりそうです。
次に登板したのは仙台大学の佐藤幻瑛投手(②柏木農業)です。昨年の松山合宿にも参加した投手で昨年は1年生ながら153キロを計測し話題となりました。この日はストレートの最速152キロを記録し、合宿参加者最速を記録します。さらにカット系のボールの威力も凄まじく、先頭打者で対戦した慶應義塾大学の渡辺憩選手(①慶應義塾)はバットを粉々にへし折られました。
前半組の中では唯一となる打者6人をパーフェクトに抑える好投を見せた佐藤投手は流石といったところでしょうか。ストレート・変化球共にハイレベルなボールを投げ込み、ランナーを背負った場面でもクイックでランナーをケアしながらしっかり結果も残した所を見ると全参加投手の中でNo.1は佐藤投手でした。
次に登板したのは佐藤投手と同じ仙台大学の大城海翔投手(①滋賀学園)でした。今回の松山合宿参加メンバーの中で6人呼ばれた1年生の先陣を切った大城投手は今春リーグ戦から大学野球デビューを果たし、6月には全日本大学野球選手権で東京ドームのマウンドにも登っている度胸のある1年生投手と聞いていましたが、実際大城投手を見るのは初めてだったので非常に楽しみにしてました。
この日のストレートの最速は143キロでしたがやはり投げてるボールのキレは素晴らしく、打者6人に対して2奪三振、2個目の見逃し三振を取ったストレートがとても印象的でした。リリースまでの腕の振りが速く打者もタイミングが取りにくいようなフォームなのかなと思いました。
大城投手に関してはスポーツライターの菊地高弘氏による記事が松山合宿終了後に出ており、そこでも大城投手について深堀りされているので、下記リンクの記事も見ていただきたいです。非常に面白い内容でした。
次に登板したのは名城大学の天野京介投手(①愛産大工業)でした。天野投手は愛知大学野球連盟に彗星の如く現れたスター候補生で、東京ヤクルトに1位指名された愛知工業大学の中村優斗投手(④諫早農業)の後継者は彼じゃないかと期待されている投手です。今回の松山合宿には中京大学の髙木快大投手(③栄徳)がコンディション不良で合宿参加を見送ったこともあり、代替のような形で天野投手が呼ばれました。1年生6人の中で唯一の右投手の選出となった天野投手の初JAPAN帯同に私は期待を膨らませていました。
この日は先頭の星槎道都大学・那波賢人選手(②下関国際)にヒットを浴びるなど全体的にボールが走っておらず、決め球のスライダーも制球に苦しみ四球を2つ与えるなど打者6人と相対して相当数の球数を投げていました。特にBパターンの0-2からの投手有利のカウントで四球を与えてしまったのは決め球の制球力が原因かなと思いました。
天野投手も1年生ながら春先からフル回転しており、秋もリーグ戦で8試合に登板し王座決定戦で連投もあり、さらに神宮大会でも全国デビューするなど投げに投げまくった1年だったと思うので、12月のこの時期の登板は正直疲れがあったのだと思います。これも経験の1つだと思うので、松山合宿を経て成長した天野投手が来年以降も見れることを期待して愛知大学野球連盟のリーグ戦を楽しみにしています。
次に登板したのは神奈川大学の松平快聖投手(②市原中央)でした。今回の松山合宿では唯一のアンダースロー投手の選出とあって、どんなパフォーマンスを見せてくれるのか楽しみな1人でした。
この日は打者6人に対して先頭の繫永選手にボールが抜けてしまい死球を与えてしまいましたが、以降の打者を完璧に抑える無安打投球は素晴らしかったです。特に神宮大会で無双状態だった創価大学の立石選手との対戦はボール球無しの3球三振と素晴らしい内容でした。
アンダースロー独特の軌道もあり打者が苦労している印象もあったのですが、松平投手は191㎝と高身長なこともあり手足が長くアンダースローという極端にリリースポイントが低い投法なのもあるので、18.44mの距離感が他の投手と比べると短く感じるのかもしれません。まだ2年生ということで非常に楽しみです。
前半組で最後に登板したのは大阪商業大学の鈴木豪太投手(③東海大静岡翔洋)でした。鈴木投手は春の関西六大学リーグ戦でMVPを受賞し、大学選手権や平塚合宿でも活躍した好投手です。秋は春と比べると少し調子を落としているように見えましたが、しっかり松山合宿に招集されたのは流石でした。
この日は先頭の仙台大学・平川蓮選手(③札幌国際情報)にヒットを打たれた以降は完璧に抑え、打者6人に対して4奪三振とシート打撃登板投手の中で最多タイの奪三振を取りました。特に中央大学の皆川岳飛選手(③前橋育英)と中京大学の秋山選手というミート感覚に卓越した左打者から奪三振を取ったという所がとても評価出来るポイントなのかなと思っています。貴重な剛腕サイドハンドということで非常に楽しみな投手です。
2-2-2 後半チーム
シート打撃後半組で最初に登板したのは國學院大学の當山渚投手(③沖縄尚学)でした。當山投手は今秋リーグ戦では9試合に登板し43イニングで防御率1.43の好成績を残して松山合宿に招集されました。
この日の當山投手は打者6人に対してパーフェクト投球の素晴らしい内容でした。特にBパターンの0-2からの投球では3者連続三振を奪うなどストレート・変化球のキレが良く、打者も対応に苦戦を強いられていました。
ストレートの最速は143キロとシート打撃登板の左腕投手の中では最速タイを記録し、投げているボール・実際の投球内容を見ても後半組で1番良かったなという印象を受けました。
次に登板したのは日本大学の市川祐投手(③関東一)でした。こちらは東都大学リーグを代表する右腕で既にリーグ戦通算15勝を挙げる日大のエース。代表候補合宿の常連でもあり昨年の松山、今年の平塚と併せて3期連続の合宿参加となった市川投手。この秋は疲れもあり成績を少し落としていましたが、それでも3勝を挙げるのは流石でした。
この日の市川投手はAパターンで少し苦しみ先頭の早稲田大学・尾瀬雄大選手(③帝京)にはファールで10球近く球数を要し、その後もヒットと犠飛を許すなど内容も良くありませんでした。Bパターンでは本来の投球を見せパーフェクト投球でしたが、トータルで見ると少し物足りない内容でした。
実績のある投手なので今回のシート打撃で信頼が揺らぐことは無いと思いますし、来年の代表では主力投手の1人として計算されている投手だと思うので、ドラフトイヤーの来年に期待したいです。
次に登板したのは金沢学院大学の大槇優斗投手(③おかやま山陽)でした。大槇投手は11月の東海・北陸地区代表王座決定戦で先発試合を見ていたこともあり、どこまで実力を発揮出来るのか非常に楽しみにしていました。
この日は先頭の那波選手にヒットを打たれるなどAパターンでは2安打を許してしまいました。代表候補が一同に会する場での登板ということで少し緊張があったのかもしれませんが、本来の大槇投手よりは少し制球力が甘かった印象でした。
しかしBパターンでは決め球の縦スライダーを有効活用して3者連続三振を奪いました。Aパターンの時は捕手も捕球に苦労するくらいボールが散っていた大槇投手でしたが、Bパターンではそれが上手く嵌っていた印象でした。特にこの日抜群の選球眼を見せていた城西大学の松川選手から三振を奪ったシーンはとても良かったです。
次に登板したのは青山学院大学の中西聖輝投手(③智弁和歌山)でした。神宮大会優勝の立役者でもある中西投手は直前まで投げていたこともあり、疲労を考慮して登板しない可能性も示唆されていましたが、シート打撃に登板しました。
内容は打者6人に対して被安打1奪三振3とまずまずの内容でしたが、中西投手クラスになるとこれくらいは普通だったかもしれません。内野を抜けるクリーンヒットを浴びた訳でもなく制球で自滅することも無かったので、流石の安定感だなという印象を受けたのと同時にこれ以上のモノを見せてきたらそれこそドラフト1位候補になるのかなという予感がしました。捕手とさいん交換をする時の仕草で、覗き込むように首の角度を変えてサインを確認する時に中西投手は時折笑みを浮かべるようにしていたのが印象的で、マウンド上での余裕というものを1人だけ感じる大物感を漂わせている、そんな投手に見えました。
来年の青山学院大学の東都5連覇と大学選手権3連覇の偉業は中西投手に懸かっていると言っても過言ではありません、非常に楽しみな投手です。
次に登板したのは立教大学の吉野蓮投手(③仙台育英)でした。吉野投手と言えば仙台育英高校時代から打撃のイメージが強く、昨年までは野手として出場しており、私は静岡で行われたオータムフレッシュリーグでサードを守る吉野選手を見ていました。今年から本格的に投手に専念し、主にリリーフ登板で春秋併せて19試合に登板しイニング以上の奪三振を記録して今回の松山合宿に招集されました。
Aパターンでは平川選手、仙台育英の元チームメイトの秋山選手にそれぞれヒットを許すなど甘く入ったボールを痛打された印象でした。しかしBパターンでは決め球のフォークが冴えわたり3者連続三振を奪うなど見違える姿を見せました。カウントメイクに課題を残しつつ決め球の威力を十分発揮した吉野投手はある意味アピールには成功したのかなと思います。
次に登板したのは國學院大學の飯田真渚斗投手(③明秀日立)でした。飯田投手は當山投手と共に國學院大學の投手陣を支え、春は8試合に登板し防御率1.35と好成績を記録しました。秋は10試合に登板するも防御率4.07と数字を落としていましたが、私が今秋に東都の試合を観戦した時は當山投手と飯田投手のリレーで國學院大學が勝利し、飯田投手は4回をパーフェクトに抑える好リリーフで素晴らしいボールを投げていたので、トータルの数字が悪かったのは意外な結果でした。
この日は打者6人に対して被安打2与四球2と内容としては寂しい結果となりました。特にBパターンの0-2からの与四球と長打は少し印象を良くしない結果だったのかなと思います。シート打撃では當山投手とは対照的な結果となってしまいましたが、國學院大學が優勝するには飯田投手の力が必須です。来年の復調に期待したいです。
次に登板したのは東洋大学の島田舜也投手(③木更津総合)でした。島田投手と言えば11月の入れ替え戦で155キロを計測し、東都のスピードキングに輝いた来年注目の1人です。堀越投手同様松山で何キロを計測するのか非常に楽しみにしていた投手でした。
この日の最速は150キロと佐藤投手、堀越投手に次ぐ記録でしたがボールの威力というものを感じた投球でした。ネット裏から見ていると上背がある影響もあってかマウンド上の島田投手はとても大きく見えるのでより威圧感を感じ、そこから投げ下ろす150キロのボールがとても威力あるように受け取りました。
変化球に関しては引っかける場面も見られたのでまだまだ伸びしろのある部分なのかなと思いますが、ストレートに関しては惚れ惚れする軌道を描く豪速球なので、見ていてとてもワクワクします。東洋大学が入れ替え戦で勝利したため来年は1部で見られるのが本当に楽しみな投手です。
次に登板したのは愛知学院大学の河野優作投手(③創志学園)でした。今秋の愛知大学野球連盟で最多の57イニングを投げ5勝を挙げて最多勝に輝いた河野投手。春秋と防御率1点台前半の安定感も評価されて今回の松山合宿で代表関連初招集となった愛大連のクリス・セールがどこまで通用するのかとても楽しみにしていました。
この日は先頭の慶應義塾大学の渡辺選手にいきなりツーベースヒットを浴びてめちゃくちゃ心配しましたが、後続の打者はしっかり抑えて本来の姿を取り戻しました。秋ずっと投げていた河野投手はリーグ戦終盤にかけて少し調子を落としていたこともあり、この日も最速が140キロに到達せず変化球のキレも今一つでした。しかし持ち味であるインコースに突く投球スタイルは垣間見えたのは安心材料でした。
Bパターンの0-2から四球を与えてしまったことに関しては少し残念な内容でしたが、先頭のツーベース以外は痛打を許さずしっかりと投げ切れたかなと思いました。最終学年になる河野投手に来年は期待しています。
シート打撃最後に登板したのは日本体育大学の篠原颯斗投手(③池田)でした。篠原投手と言えば直近の神宮大会で制球を乱し1アウトも取れず5失点の大乱調でチームも初戦敗退してしまったことがあり、この日の状態はどうなんだろうかと始まる前から少し不安視してました。
そんな不安は杞憂に終わるような、この日の篠原投手は最速148キロのストレートを押し込むなど力強いボールを投げ込んでおり、神宮大会の姿とは別人でした。特に投げ終えた時に躍動感が神宮大会の時とは明らかに違っており、この日の篠原投手が本来の姿なんだなと思いました。
打者6人に対して被安打1与四球1、いずれもBパターンの0-2からの結果ということで内容としてはまずまずな結果だったと思いますが、投げているボールの力強さは後半組No.1だったかなと思います。
2-2-3 投手陣総括
投手陣は右投手13人、左投手6人の合計19人がそれぞれ打者6人と相対する練習でした。最初の3人は1死1・3塁カウント0-0のシチュエーションでの対戦となり、1塁走者は7割程度の確率でスタートを切るような形で打者と対峙していました。
この練習の目的は野手側の視点から考えると如何にして1点を取るかという練習だったと思います。この1死1・3塁のシチュエーションは得点パターンが1番豊富に考えられるシチュエーションであると思われます。単打・長打によるタイムリーヒットは勿論、犠牲フライ・スクイズ・内野ゴロ併殺崩れ(右打ち進塁打)・暴投・捕逸・偽装スクイズ・振り逃げ等々・・・逆に守り側としては1点が入るリスクが高い状況下で如何にして防いでいくかを見極めるシート打撃ではなかったのではないかと思います。
そこでAパターンによるシート打撃で1点も与えなかった投手達をここに列挙します。
なんと19人登板した中で0点に抑えたのはたったの4人だけでした。さらに言うと四球を与えてしまった堀越投手と有馬投手を除くと佐藤幻瑛投手と當山投手の2人だけがパーフェクトな投球をしていたということになります。
2人だけというのはとても価値があることだと思いますし、ピンチを背負った場面が3回連続で続いても集中力を切らすことなく投げ切ったことは評価に値すると思います。自分が堀井監督なら2人を真っ先に代表に呼んでも良いと思います、それだけ価値のある結果を残したということになります。
次にBパターンの2死2塁カウント2ストライク0ボールのシチュエーションでの登板、こちらに関しては圧倒的に投手が有利の状況となりますので代表クラスの投手と考えるのであれば0点に抑えるのが当然の場面です。
2塁ランナーは2死ということもあり打球の如何に関わらずスタートが切れますので、ヒット=ホーム突入による1点(守備側の力量に左右されると思うので、ヒット=1点で今回はカウントします)と想定した時に失点をしてしまった投手をここに列挙します。
上記3人以外にも愛知学院大学の河野投手と日本体育大学の篠原投手もヒット自体は打たれていますが、いずれのケースも内野安打ということで1点が入るケースではないので今回は除外しました。
あと1ストライクでアウトが取れるケースで決め球が甘く入って痛打を浴びてしまった3人ということになります。大城投手がいい例でしたが、打者にストライクをカットされボールを見極められて最終的にゾーン勝負の球を痛打という流れが失点のケースでした。そこで空振りが取れるor1球で凡打に仕留められる投球が出来ると投球の幅も広がり投手としてのスキルも上がっていくと思うので、逆にこの3人にはこれからの伸びしろに期待値が掛けられるという見方も出来ます。
来年のリーグ戦で同じようなシチュエーションに遭遇したらこの日のことを思い出します。そこで抑えられたらそれは紛れもなく成長であるので、そうなる日が来ると信じて期待しています。
2-2-4 野手陣総括
野手陣は3チームに分かれて攻撃・守備・走塁でタームを分けながら進行。打者は最低でも4打席(死球による負傷の辻井選手は1打席)は打席に立ち、その中で複数安打を放った選手を以下に列挙します。
今回のシート打撃でマルチヒットを放ったのは4人でした。今回の松山合宿に招集された野手は27人。各ポジション3人(捕手は6人)ずつ呼ばれる形でしたが、4打席立って3安打猛打賞する選手は居ませんでした。それだけ松山合宿の開催時期の気候を考えると投手有利の環境だった中で複数安打を記録するというのは素晴らしい結果と言えます。
ます最初に口火を切り長打を放ったのが青山学院大学の渡部海選手(②智弁和歌山)。芝本投手のボールを引っ張ってレフト線へのタイムリーツーベースヒット、打った打球音からも相当な打球速度なのが伺える素晴らしいタイムリーでした。
2本目のヒットもセンター前へ運ぶ渡部選手らしいヒットでした。1年生から青山学院大学の正捕手に君臨し、渡部選手が正捕手になってから青山学院大学は東都1部4連覇中という偉業を成し遂げています。その間に常廣羽也斗投手(23年広島1位)や下村海翔投手(23年阪神1位)といった好投手や今年指名された西川史礁選手(千葉ロッテ1位)、佐々木泰選手(広島1位)などの素晴らしい選手が集まっての偉業ではありますが、渡部選手の存在感はとても大きいと思います。
東都5連覇の偉業に向けて頑張って欲しい渡部選手、代表の正捕手争いも一歩リードしているような気がします。来年とても楽しみな選手です。
続いてマルチヒットを記録したのは仙台大学の平川蓮選手(③札幌国際情報)です。平川選手は187㎝と大型ながら50m走では4位の5.99を記録するなど俊足の面も持ち合わせているのを初日に確認出来ましたが、2日目には打撃面での能力を発揮してくれました。
両打ちの平川選手ですが2安打とも左打席でのヒットとなりました。1本目は大阪商業大学の鈴木投手からライト前へ、もう1本は立教大学の吉野投手からこちらもライト線へ。打球自体抜けるような当たりじゃなかったものの、平川選手の俊足が生きて2塁へ到達したツーベースだったので、能力の高さが光ったヒットだったと思います。
右打席では惜しくも快音は響きませんでしたが、右でもスイングスピードの速い鋭いスイングをしており、仙台大学で指導を行っている坪井俊樹コーチ(社高-筑波大-千葉ロッテ)のツイートによると両打席とも160キロを超えスイングをしているみたいです(下記を参照)。平川選手とても楽しみな存在です。
続いてマルチヒットを記録したのは中京大学の秋山俊選手(③仙台育英)です。秋山選手は愛知大学野球連盟所属の選手ということで私は何度も何度も拝見してきた選手で、今の愛大連の野手でNo.1の選手であると思っています。そんな秋山選手が全国の猛者達が集まる松山合宿でどのようにアピールしてくれるのか、非常に楽しみにしていました。
秋山選手は立命館大学の芝本投手からBパターンで初めてのヒットを放つと、次はAパターンで立教大学の吉野投手から内野安打を放ちマルチヒットを記録しました。マルチヒットを記録した選手の中でBパターンでヒットを打ったのは秋山選手ただ1人です。それだけ追い込まれても自分の打撃を崩さずポイントを広く取れる好打者であることの証明だと思います。
さらに秋山選手はこのシート打撃終了後のフリー打撃で野手陣唯一の柵越え2本を放ち、参加者の度肝を抜きました。走攻守の3拍子が大学トップクラスの秋山選手はこの松山合宿で良いアピールが出来たのではないかと思っています。
最後にマルチヒットを記録したのは星槎道都大学の那波賢人選手(②下関国際)です。実は那波選手の高校3年生の時を甲子園で見ていたらしいのですが、準優勝だった下関国際メンバーで背番号13を背負い3回戦の浜田戦で代走での出場だった那波選手を流石に覚えていませんでした。
前日の練習でもシートノックでは特筆目立つ様子はなく、フリー打撃でも鋭い当たりがあまり無くアピールがあまり出来ていない印象でしたが、実戦ではしっかりとマルチヒットを記録してミートセンスの高さを見せました。ヒットを記録した投手は名城大学の天野投手と金沢学院大学の大槇投手のストレートが強い2人からなので、その辺も評価ポイントして高いと思います。
Bパターンではいずれも三振と粘ることが出来ませんでしたが、全国クラスのボールを体感した経験は来年以降に生かしてくれると期待してます。
2-3 シートノック
初日・2日目と共にシートノックは行われました。その中で特別目立っていたのは東海大学の大塚瑠晏選手(③東海大相模)でした。大塚選手は高校時代は東海大相模の主将として3年春のセンバツに出場するも、準々決勝直前で急性胃腸炎になってしまい以後の試合を欠場。チームがセンバツ優勝する中その瞬間を病室で過ごしていた悲運のキャプテンでしたが、東海大学進学後は持ち前の守備力が評価され下級生からレギュラーを掴み活躍していました。
個人的には松山合宿に呼ばれるのが遅いくらいの選手だと思っており、明治大学の宗山塁選手(東北楽天1位)と並んでシートノックを受けている所が見たかった選手の1人でした。
この日は城西大学の松川玲央選手(③関西)と小林隼翔選手(①広陵)と並んでショートでノックを受けていましたが、捕ってからの持ち替えやスローイングの正確性、足の運びなど見ていて惚れ惚れするようなプレーを平然とこなす大塚選手を見てちょっと別格だなと思いました。
シート打撃中の守備でも好守備を見せており、実戦でもあの動きが出来るのは素晴らしいなと思いました。守備だけなら大塚選手がNo.1だなと思います。
3. 注目の選手5人
野手は数が多かったので1人1人紹介するのは省略させていただいたので、ここでは5人ほど野手の注目株を個人的に紹介出来たらと思っています。
3-1 立石 正広(創価大学)
やはりこの選手を紹介しないといけないと思います。神宮大会では15打数10安打で安打数の大会新記録の樹立し、初戦と準決勝で2HRを放ち創価大学の準優勝に貢献した25年ドラフト最注目のスラッガーです。
この松山合宿では初日からフリー打撃で場外ホームランを放つなど話題を席巻しており、合宿参加者も立石選手の打撃理論に興味があるのか練習中に続々と聞きに行っている様子が見られたこともあり、選手たちの中でも一目を置かれている選手なのだと思いました。
シート打撃では5タコとまさかの結果に終わりましたが、スイングスピードは合宿参加者で最も高い数値をおそらく出しており、先ほどのフリー打撃の件も含めて来年のJAPANの中核を担う選手であることは間違いなさそうです。
今秋リーグ戦では不振に苦しみ最初は代表合宿に招集されていなかった(最終的に法政大学の松下歩叶選手の辞退により代替招集)こともあり、来年のドラフトイヤーはいかに調子の波を小さくするかが立石選手の課題となりそうです。
2024年ドラフト野手の目玉は宗山選手でしたが、25年は間違いなく立石選手になると思います。
3-2 大塚 瑠晏(東海大学)
やはりこの選手も注目されるべき選手だと思います。守備だけで言えばドラフト1位間違いなしと言った選手だと思います。そうなると気になるのは他の部分になりますが、思ってる以上に打撃が良い選手であると思います。
右投げ左打ちの大塚選手は同じ首都大学リーグの城西大学の松川選手と比べると体格は一回り劣ることもあり、打撃スタイルがコンタクト重視の巧打タイプにカテゴライズされがちですが、今秋のリーグ戦では1試合2HRを放つなど長打力にも磨きが掛かっています。
私が今春に大塚選手を見に行った試合でもライトに強く引っ張る強い打球を放っており、決して当てにいくスタイルではなくしっかりとスイング出来る打撃の選手なので、非常に面白いと思います。
残念ながらシート打撃では無安打に終わりアピール成功とはなりませんでしたが、守備以外も光る所がある選手だと思っています。来年の大塚選手に期待しています。
3-3 黒田 義信(東日本国際大学)
3人目は黒田選手です。九州国際大付属高校時代は1番センターとして春ベスト8、夏ベスト16入りに貢献し高校JAPANにも呼ばれた逸材でした。高校時代はプロ志望届も提出するも指名漏れし東日本国際大学に入学します。
私は高校2年秋の神宮大会で初めて黒田選手を見て以降春のセンバツ、夏の選手権とその都度黒田選手を見てきましたが、高校生として走攻守のレベルが非常に高く特に走力に関しては同世代の高校生には無い圧倒的な力を持っている印象でした。
東日本国際大学では1年からレギュラーを掴み、1年春には早くも大学選手権に出場するなどその力量は大学球界でも遺憾なく発揮していました。私が大学で黒田選手を見たのは意外にも今年の大学選手権が初めてでした。
この試合では終盤に黒田選手の痛い走塁ミスもあり東日本国際大学は負けてしまった試合でしたが、途中は黒田選手が早稲田大学の伊藤投手から2点タイムリーを放つなど東日本国際大学がリードしており、その中心には黒田選手が居ました。
南東北リーグでは無双している黒田選手が松山合宿で全国の猛者達相手にどれくらいやれるのか非常に楽しみにしていました。シート打撃ではヒットは内野安打1本に終わりましたが、フリー打撃では柵越えこそ無かったものの鋭い当たり連発でフェンス直撃の打球も何球か放っており、持っているポテンシャルの部分はしっかりとアピール出来ていたように思いました。
黒田選手に関してはあと2年もあるというのが非常に大きく、今後の大学野球界を背負っていく選手だと思うので、非常に楽しみにしています。
3-4 尾瀬 雄大(早稲田大学)
4人目は尾瀬選手です。尾瀬選手は早稲田大学の不動のリードオフマンとして春秋とも安定した成績を残しており、打撃に関しては卓越した技術力のある選手です。
春のリーグ戦では打率.479のハイアベレージを記録し、秋も.388と通年で高いパフォーマンスを発揮した尾瀬選手。リーグ戦での彼の打席を見ていると非常に選球眼が良く、ボール球をしっかりと見極める能力に加え臭いゾーンをカット出来る技術も持ち合わせており、しっかりと自分の待ち球を引き寄せる能力を兼ね備えた理想的なリードオフマンだなと思いました。
その割にと言ってはあれですが、リーグ戦ではほとんど盗塁をすることが無かったのでこれはチームの方針なのかと思っていましたが、今回の合宿で尾瀬選手の50m走は6.38とワースト5位タイの所謂俊足の選手ではないことが判明しました。てっきり1番センターということで俊足・巧打の選手だと勝手にステレオタイプに当てはめてしまったみたいですが、今回の合宿を経て特別1番にこだわる選手でもないのかなと思いました。
シート打撃ではAパターンで1安打、Bパターンでは2三振と結果だけ見ればまずまずの内容でしたが、打席でのアプローチが素晴らしく簡単にアウトにならないようにカットして狙い球が来るまで相手投手と駆け引きをしたりと、初対戦となる投手相手にも対応していた打席が印象的でした。
今回のシート打撃の理解した上で自分に出来ることを実践出来ている尾瀬選手の対応能力というのは国際大会には必要な選手なのかもしれません。尾瀬選手は今年の春秋と全国大会で苦しむシーンが多く、そういった苦い経験をプラスに変えてここまで来た選手だと思うので、堀井監督もそういった所を評価して来年のJAPANには尾瀬選手を呼ぶような気がします。楽しみな1年になりそうです。
3-5 栗山 雅也(西南学院大学)
最後に紹介するのは西南学院大学の栗山雅也選手(③東福岡)です。この選手は代表合宿のメンバーが出るまで全く知らない選手で、松山合宿まで一切プレー動画を見ずに本番でどんな選手なのかを確かめたいと思った選手でした。
初日のシートノックを見る感じ守備に関してはまずまずだったと思います。少し気になったのはスローイングのアームアングルかなと、あの投げ方では強い送球が制球出来るのかと少し思いました。
一方で190㎝のガタイの大きさで打席に立つ栗山選手を見ていると阪神タイガースの佐藤輝明選手(仁川学院-近大)を彷彿とさせました。打球に関しても少し角度が付きにくい印象を受けましたが、スイングスピードと打球速度に関してはパワーヒッターのそれでした。あそこまで強く振れる選手はとても魅力を感じますし、何かきっかけを掴めば大打者に成長しても何ら不思議ではないようなそんな風に見えました。
シート打撃ではAパターンで犠飛2本にBパターンで内野安打と結果も残しており、地方大学に眠る大砲候補の実力をしっかりと発揮出来ていたと思います。言語化が非常に難しいのですが、とても雰囲気を感じる打者だなと思います。スタンドから飛び交った”西南のギータ”の来年の1年が非常に楽しみです。
4.最後に
松山合宿は2年連続2回目の視察となりました。昨年は宗山選手や金丸投手と言った超目玉の選手が一同に会する場として注目度も高かった印象ですが、今年はマスコミの数も少なく例年より寂しい合宿だったのかもしれません。しかしここからプロ野球選手が多く誕生するのは間違いありませんし、将来的にMLBに挑戦する選手が現れても何ら不思議ではありません。
それくらい金の卵の見本市として魅力のあるイベントだと思うので、もしこれまでに松山合宿に参加したことないよってアマチュア野球ファンの方が居たら是非松山に足を運んでみて欲しいです。
松山合宿は丁度12月に差し掛かる時期に毎回開催されており、道後温泉を初めとする松山市内の観光地も賑わいを見せている時期なので、松山の空気を吸うだけで楽しめると思います。
そんな観光の一面も少し載せながらレポートを終了致します。最後まで読んでいただいた方本当にありがとうございました。