ミドルマネージャーになって「自分の言葉で話せない」という感覚を持った
株式会社MIMIGURIで、組織コンサルタント・組織ファシリテーターをしている矢口泰介です。
昨年、ミドルマネージャー(チームリーダー)という役割になって経験したのですが、「マネージャーとして思っていることを言ってくれ」と言われた時に、何を話せばいいのかわからない、という状況に直面しました。
また、同じ頃にメンバーから言われたのが「自分の言葉で話してくれている感じがしない。借り物の言葉で話している感じがします」というフィードバック。
一体どういうコト?私は何を言えばいいの?!あるいは、何を言ってはいけないの??!と混乱したことを覚えています。
この「言葉が出てこない」「自分の言葉で話せない」「何を話せばいいかわからない」という言葉に関する身体感覚はいったいどこから生じるのか?について、考え続けてきました。今回はその中間報告をしてみたいと思います。
マネージャーの役割は「人を介して成果を上げる」こと
言わずもがな、マネージャーの役割とは「人を介して」「成果を上げる」ことです(もっといろいろあるだろと思いますが思いっきりシンプルにしてます)。
そのため原則として、その役割を妨げるようなコミュニケーションは望ましくないと言えるかと思います。
今回は「マネージャーになるとなぜか言葉がうまく話せない」というテーマですが、もしかすると逆のケースもあるかもしれません。
すなわち、メンバーとあれこれ話していたところ、マネージャーの立場での発言が、誤解されたり、邪推されたり、不安を与えたりとエラーを起こしてしまった、というような。
このように、マネージャーのコミュニケーションには、役割に付随した「望ましいプロトコル」のようなものが存在するように思います。
マネージャーのコミュニケーションにおける望ましいプロトコルとは
私が考えるのは
というところかなと思います。
1. 基本的にはポジティブなコミュニケーションが望まれる
「人を介して」「成果を上げる」役割ですから、メンバーに対しては「鼓舞する」とか「不安を与えない」などのポジティブなベクトルのコミュニケーションを取ることが大事だと思います。
その逆、ネガティブ(愚痴や不満)なコミュニケーションは、メンバーに対して良くない影響を与えるので望ましくない、かつ役割に対し逆行してしまいます。
2. 最終的にはメンバーに行動を促すこと
「マネージャーとメンバーは仲良くなってはいけない!あくまで行動させるための役割でなければ」という意見を耳にすることがあります。厳しい意見ですが一理あります。
かと思うと、また最近では「マネージャーはメンバーのメンタルケアも仕事の範囲だ」という意見も言われます。
このようにマネージャーに求められるコミュニケーションは文化や時代によって変わってきますが、どんなコミュニケーションであれ、最終的にはメンバーをして成果をあげるため、行動にコミットしてもらう、という目的を持っていることは共通していそうです。
3. 「自分の言葉」で話すこと
よくマネージャーは「自分の言葉で話せ」と言われます。しかし「自分の言葉」で話すとは具体何を指すのか?が、最初のうちはいまいちピンときません。
実は「自分の言葉で話す」とは、
マネージャー自身の価値観
チームが追う成果にとって重要なテーマ
メンバー一人ひとりが自分ごとにできる課題
が重なり合う汽水域を自分なりに表した言葉を指しているのだ・・・ということが最近わかってきました。
自分たちにとってこの領域が何なのかをマネージャーは見つけ、言葉にする必要があります。
なぜマネージャーはときどき「言葉が出てこない」状況に陥るのか
以上のコミュニケーションプロトコルを仮説的においてみると、私自身も経験した「言葉が出てこない」という状況がなぜ起こるのか、いくつかの理由が考えられそうです。
マネージャーとしての自己が確立されていないから
先ほど「自分の言葉で」と言ったように、マネージャーになると事あるごとに「自分主語」で話すことを求められます。
必ずしもマネージャーだけがリーダーシップを発揮しなければいけないわけではありませんが、「チームをどうしたいのか」とか「メンバーにどうあってほしいのか」など、マネージャーはリーダーとしてビジョンを語る視座を持つことを求められます。
しかしマネージャーになったばかりでは、これはまだ確立されていないことがほとんどです。
マネージャーとしての自分を「パフォーマンス」することができていないから
自分らしいオーセンティックなリーダーシップを紹介する書籍「なぜ、あなたがリーダーなのか」には、マネージャーには「演じる」ことが重要であると指摘されています。
演じる、とは偽ることではなく、自身の影響力を打ち出すために「望ましい自分を意識的に振る舞う」ということです。
「言葉が出てこない」という状況には、先程のビジョンと関連しますが「自分が何をどう振る舞えばいいか」がわかっていない、ということもありそうです。
追うべき「問い」を立てられていないから
MIMIGURI代表の安斎さんのnote「マネジメントの「もぐら叩き」からいかに抜け出すか。ミドルマネージャーが心得ておくべき「問いのデザイン」の新原則とは?」では、
ミドルリーダーは、目先の「問題"風"のキーワード」に振り回されず、問題の本質を捉えてチームが解くべき「問い」を立てよう、と書かれています。
チームが協力して向かい合える「問い」とは何か?を立てると、問いに対する答えを出す過程にメンバーが自分ごととして参加しやすくなり、チーム全員がリーダーシップを誘発することにつながります。
しかし、その「問い」を立てることは一朝一夕にいきません。マネージャーがチームの成果とは何か?を考える思考の積み重ねが重要になってきそうです。
プレッシャーにさらされているから
プレッシャーをかけられると、答えられるはずのことが答えられなくなったりと、頭が真っ白になることも多いものです。
もしかすると多くのマネージャーは、上からは成果に対するプレッシャーをかけられ、下からはあるべきマネージャー像とのギャップに対してプレッシャーをかけられ・・・という状況にあり、日々「どうその場を切り抜けるか」という思考になっている方もいるかも知れません。
「自分主語で話す」ことも「今本当に解決すべき問いを立てる」ことも余白があってこそ。もしかすると、心の余白が持てていないから、という理由もありそうです。
すぐにはそういう状況を改善することはできなくても、自分の状況をメタ認知してみると、気づくことがあるかもしれません。
マネジメントにおける身体感覚を大事にしたい
今回は、「マネージャーになったばかりのときに言葉が出てこなかった」という自身の体験から、理由を考察してきました。でも、まだまだきっと、考えればもっと別の切り口が出てきそうです。
組織における課題や難しさは、ときに頭でっかちな議論💦に行きかけることがありますが、マネジメントの日々の試行錯誤で感じるのは「うまくいった」とか「なんだかしっくりこなかった」という身体感覚なのではないでしょうか。
今回のように「自身の身体感覚」を起点にすることで、組織に生きる私たちの問題をより実感を伴って考えることができるのではないか、と考える次第でした。