アニメ化決定の『ワンダンス』絶妙なリアルさと迫力が癖になる
来年からダンス漫画『ワンダンス』のアニメが放送されるらしい。
自分は以前からコミックアプリで最新話まで読んでいたのだが、ダンスの迫力を静止画でもよく表現されていて、またダンサーとしても共感できる内容が多々あり、何ならあるあるネタとしても楽しめるくらいによく取材されている印象がありアニメ化にも期待が高まるところ。
パリオリンピックでのブレイキンも話題になっていたことだし、今ストリートダンスの流れが来ていると確かに感じている。
13話まで試し読みできる他、公式SNSでも切り抜きポストを読むことができるのでぜひ。
吃音症の主人公小谷花木(カボ)が高校の同級生である湾田光莉(ワンダ)のダンスに惹かれてダンス部に入部、己のコンプレックスと向き合いながらダンスカルチャーにのめり込んでいく、といったストーリー。
ダンス部でコンテストに出場したり、外部のコミュニティと繋がってダンスバトルにも参加したりみるみる場面転換していくので飽きずに読み進められるようになっている。
その中でカボは前者のようなコレオグラフィー(振付)と後者のような即興性の高いバトルとの間で一方に傾倒する時期もあれば初心に返って元に戻るような展開がある。
これは実際にもあることで、自分自身も大学のダンスサークルからキャリアを始めたものの外部へ飛び出してバトルで名を上げることに夢中になるあまりサークルでのショーケース活動などを疎かにしていたこともあったなぁと当時を思い出す。
もっとも、詳しく書くと長くなるので割愛するが高校ダンス部と大学ダンスサークルも似て非なる文化であり、ダンス部の描写に経験的な実感はないが、もし自分がダンス部員だったら…?と羨まし交じりの妄想が膨らむ。
作中には部内で「即興とかバトルとか無理!」と言う部員もいれば見るからに部を軽視してバトル至上主義な幽霊部員の先輩もいるし、バトルをするダンサーの中にもある程度決まった技のセットを脳内で組み立てるタイプ、完全に即興でカマしてこそというタイプなど様々な登場人物がおり、それぞれのスタンスは性格や背景描写に直結してキャラの魅力をさらに色濃く感じられた。
世間的にダンサーは陽キャみたいな固定観念はあるが、その実変な奴だらけであることを細かい所作からも読み取れるようによく描かれている。
聖人でもクズでも自身の個性をダンスに昇華できる奴が正義なのだ。
そういった意味では、ダンサーに限らず差別だとかポリコレだとかSDGsだとか取り沙汰される普通の現代人にこそ刺さる部分があるかもしれない。
もうひとつ、創作として斬新なシステムだと思ったのが、作中で流れている楽曲のタイトルがテロップで表示されており、それがちゃんと実在するものなのだ。
ストリートダンスと音楽は切っても切れない関係にある。それは音に合わせて踊るみたいな表面上のことだけでなく、ダンスシーン特有の文脈も込みで。
例えば、試し読みの終盤ではダンス部部長宮尾恩(恩ちゃん)とカボが突発的に部内でバトルを繰り広げるシーンがあるのだが、2曲目にDax RidersのYou are the sunshine of my lifeが掛かった瞬間に「うわ、そうきたか!」と唸らされた。
この曲は現実のショーケースやバトルでもよく用いられており、強めのビートやトークボックスという声を楽器化するツールの機械感から主にPOPPINというジャンルのダンスにマッチしている。ロボットダンスもこの分類に属する。
とはいえ、他のジャンルでもある程度踊りやすいこと、また、あからさまな音ハメポイント(目立つ音にダンスを合わせて盛り上げやすい部分)が散りばめられていることから楽曲自体のフレッシュな印象も相まって学生シーンのジャンルを縛らないフリースタイルバトルで特に頻出しているように思われる。
つまり、ここがまさにドンピシャのシチュエーションだということ。
POPPINも含め多彩なジャンルを踊れる恩ちゃんが圧倒的なスキルを見せつけ、対面のカボがまだHIPHOPしか踊れないながらも恩ちゃんのフィーリングを受け止め自分なりの解釈で対抗し一段とダンスへの理解を深める様には、裏でこれ以上にないほど楽曲の効果が発揮されていたのではないだろうか。
ただ、アニメ版では著作権の関係もあるだろうしそのまま原作どおりにはいかないかもしれない…
と、まぁ、細かすぎて経験者にしか伝わらない通な要素もふんだんに詰め込まれているワンダンスだが、仲間と関係を深めながら目標に向かって成長する部活物、ダンスバトルでは特殊能力ばりに各々の個性が火花を散らす様は文字通りバトル物のそれであり、どちらのパートもダンスの予備知識ゼロでも問題なく楽しめるくらいに贅沢な作品となっているので、アニメ化に先駆けて布教のnoteを書くに至った訳だ。
ダンスに興味がある人はもちろん、授業のダンスに苦手意識があった人や、自身にコンプレックスがある人もぜひ読んでみてほしい。
最近だったらバレーボールのハイキューみたいに、マンガやアニメの影響でその道を目指すブームなんかが起きたりしたら夢があるなぁ。
せっかくなので現実のダンス動画もちょっと紹介。
どんな曲でも完璧に音ハメする韓国のホープHoan(左)と唯一無二の大道芸のような技で魅了するフランスのベテランSalah(右)のバトル。
ハイレベルなムーブの応酬の先、2曲目に当時のバトルシーンのアンセムであるFingazzのWinningでボルテージが高まり最後は両者の驚異的な即興のセッションで会場が大爆発した伝説的一戦。
日本が誇るLOCKINユニットHilty&BoschとPOPPINユニットCo-thkooがコラボし、世界大会BOTYにゲストショーケースとして乗り込んだときの動画。
クラシックなのに最先端のムーブと構成でどこを切り取ってもクールで、世界では現在に至るまでこれを超えるショーケースは存在しないとまで評されるほど。
かくいう自分も帰宅部高校生だった頃にこの動画(当時海賊版)に出会い衝撃を受け、大学生になったら本格的にダンスを始めようと決意したものだ。
4:19~に流れるDaft PunkのHarder,Better,Faster,Strongerはこのショーケースで界隈に決定的な印象を刻み付けた。モグリでないダンサーならイントロが流れた瞬間に必ずこの絵面が浮かんでくるはずだ。
ちなみにダンスは現場で見ると動画の50倍やばい。