01:2015―現在 七月某日
「やっぱこの季節は暑いですね……疲れました」
「まるで夏やな」
「いや、夏ですよ……それにしてもセンセは初めて会ったときと比べる変わりましたよね」
「自分でも言うのもなんやけど、確かに変わったと俺も思うなぁ」
汗を拭いながら少し思い返してみる。この子と会ってからそんなに長い期間では無い気がするが、確かに俺自身に変化はある。そもそも外に出て暑い暑いと言っているこの状況も俺の変化の一つだ。
「なんていうか、自信がついたというか」
「自信? ですか?」
「うん。子供の頃から自信なんてものは僕、いや俺には無かったんよ。前にも言ったかもやけど。『あれ以来』いろんなこと知って、いろんなとこ行って。気づけば人前で話すようになって。そんな積み重ね、急展開やけどな、それが自信になってきた気がするし、してるんやわ。うまく言えんけど」
「ホント、初めて会ったときの印象とは違うんですよね。もしかしたら気のせいかも?とか思っちゃったんですけどね。でもまー、そんなとこも含めて面白いんだけど」
ありふれた会話。しかしそれは『今』の自分自身の証明でもあった。一人称はいつの間にか『俺』になってしまった(たまに僕になるけどそれはまぁ気にしない。とはいえ恥ずかしさが出てくるから、なるべく気をつけるようにしている)。人前で話すことも増えてきたし、その時の一人称は『私』と使い分けしている。
「センセ。これもそうなんかな?」
スマートフォンの地図アプリを見ながら少し悩んだ様子のサトミは僕に言ってきた。
レトロ調、アンティーク家具や雑貨に溢れ、薄暗い店内。今はもう貴重とも言うべき喫茶店の奥、シングルソファーが対面する壁際の席に座っている僕とサトミは休憩も兼ねて次に行く場所を模索していた。
計画が無かったわけでは無い。大雑把にいくつかの候補地は予め決めているのだが、フィールドワークの面白みというか、実際に現地に行ってみると、例えばインターネットに載っていないとか、見つからなかったこととか、ただただ気づかなかったこととかに出くわすことが多い。
なんと言えばいいか、陳腐な言葉しか見つからないが、「わくわく」するようなことはやはり『そこ』にあるし、『そこ』に潜んでいるのだ。
事前に調べすぎるとその「わくわく」が減る気がして、事前調査みたいなのはあまりしない。研究というと烏滸がましい気がするけど、なるべくなら楽しみたい。楽しさってのは印象に残る。印象に残るということは記憶しやすくなるということ。関連付けもしやすくなるからということもあるだろう。
最初の目的地の神社では概ね予想通りの収獲だった。収獲というより「やっぱりね」という感覚が強いものだった。特別珍しいものも無かったし、何となく予想してたとおり無人の神社だった。
『これ』とはなんだ、と早くも三本目の煙草に火を付け、ひと息つくかの如く、紫煙を燻らせる。少し目に煙が入りそうになり、一瞬目が痛む。顰めっ面になったその僕の表情にサトミがチラッと一瞬目を向ける。恐らく、そんなことになるようなものを何故吸うんだろう、とか思ってるんだろうなとも思うが、それがどうしたとばかりに私は特に気にせず既にコップの周りに多くの水滴のついたアイスコーヒーに少し口をつけた。
で、どれ? とサトミのスマホ(この略称があまり好きでは無いが、世間に合わせる形であえて僕もそういうことにしている)に目をやる。
「なるほど。ゴズだな」