匂いの話「紋帳をペラペラ捲っていると気づくことはいっぱいあるんだよ、って話」其の貳

前回の話からのつづきです。

匂いとは

みなさんは匂いという言葉を知っているでしょうか?
着物関連の職人さん、特に下絵師や作家さんなどにはごくごく当たり前の言葉です。
匂いとは植物の花のいわゆる蘂(シベ)のことを指します。
つまり花が匂いを発するポイントである、オシベ、メシベの文様上の名称です。
いつ頃からの名称かは定かではないですが、まぁ江戸時代でしょうね。

上絵とは

さて、この匂いですが、紋にも見られます。
ほとんどの花の紋にはこれが描かれていますが、何故かこの部分は太線で表現されているのです。
紋を描くとき、その線のことを「上絵(うわえ)」といいます。
着物に紋を描く職人さんを「紋章上絵師(もんしょううわえし)」と言います。分かりやすいですね。
紋を描く際の上絵は同じ細さで描くのが暗黙の了解となっているのですが、匂いは何故か太く描かれています。
直接この疑問を上絵師さんにぶつけたことは無かったですが、色々と家紋に触れているうちに分かってきました。

太く描かれている理由

実は非常に単純なことでした。
紋帳という紋だけが羅列された本があり、これは江戸時代から現代まで発刊されています。
近代以降の紋帳の多くは紋は黒地の上に描かれています。これは黒紋付を表現しているからです。
明治の初期やそれまでの江戸時代の紋帳は黒地に紋が描かれていることはありません。紙の上に紋が線のみで描かれています。
これを「素描(すがき)」といいます。
※黒地に描かれた紋は「染抜紋(そめぬきもん)」といいます。
ネット上でよく見られる表現方法は印初め(しるしぞめ)、つまり主に幕や幟、提灯などに入れる際の表現方法です。
江戸時代の紋をよく見てみると匂いは全て「複線」つまり二重の線で描かれているのです。
恐らく時代が下っていく中で複線で描かれていたものが、その幅が狭くなったとか、素描で表現されることが少なくなってきたこととかが原因になっていそうです。

桔梗紋で説明

麒麟がくる』で話題になっている? 桔梗紋でご説明致します。

下記に画像を用意しました。(すみません。面倒で一枚の画像にしてます)

一番上が染抜紋。
二番目で赤い印をつけてみました。線の太さの違いがあるのことが分かって貰えると思います。
三番目が素描です。
匂いの部分をよく見て貰えると複線になっているのが分かるでしょう。
少なくとも江戸時代はこのように描かれていたようです。

この事実に気づいてからは私は自分で描く紋の匂いはこのように描いています。(下記画像も私が描いたものです)

桔梗で説明

今回は以上です。
大して面白くも無い話だと思いますが、多分このnoteではこんな重箱の隅をつつくような話をちょこちょこしていくと思いますので、引き続きよろしくお願い致します。
因みに太線で描かれているものの大半がやはり二重線であることが多いですね。
また実際に画像を見せて紹介したいと思います。

つづく

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