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00:牛をめぐる冒険 -序

 只々、それは偶然。だったのかもしれない。しかしそれは必然の縁のようにも思えた。
 運命は交差する。人は交差する。真実は交差する。その一点だけが紛れもない出会いだ。
 そしてそれは物語なのだ。
 僕が《牛》と出会ったのはそのような類いなのかもしれない。
 牛を巡る冒険に終わりは無いのかもしれない。が、たかだかあの出逢いはまだ一年足らずなのだから。

 ユメ、ゆめ、夢。
 夢の中で出会ったのは紛れもなく牛だった。途轍もなく大きな黒い牛。全てを悟ったかのような目で僕を見つめていた。憐れみにも似た、とも感じられるその表情、と言ってもいいのかも分からないが、その瞳は僕を捉えて離さなかった。
 何故だろう。その牛に僕はまるで《観音さま》を見たような気もするのだけれど、それは単なる思い過ごしだったのかもしれない。
でも、その牛は僕に何かを語りかけていたように思う。
 夢なのだから曖昧だ。でも、僕の記憶には鮮明に、強烈に、残っている。
その牛は確かに黒い牛だったと思う。思い返してみると、白く光っていたようにも思えるし、金色に光っていたようにも思える。
 神々しい。そのような言葉に置き換えることが出来るのかもしれない。
何れにせよ僕はこの夢を見てから、僕が僕である理由を探す冒険が始まったように思えるのだ。

 そして僕は「俺」となる。

つづく

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