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アナトリア建国記2

紀元後302年、アナトリア東部の山間部。

霧深い山道を進むイオアネスの一行の周囲は静寂に包まれていた。彼らは東方の集落を視察する途中だったが、険しい道のりと冷たい風が旅を難航させていた。

「ここで休もう。」
イオアネスが馬を止めると、テオドロスが馬上から降りて言った。
「アナトリア全土を統一するという夢を持つなら、こうした山岳地帯の管理も考えねばならないぞ。」

イオアネスは地図を広げ、周囲を見渡した。
「この山々は、我々にとって自然の防壁だ。しかし、同時に隔離を生む。山間部の民が交易に参加できる仕組みを作らねば、我々の国は分裂してしまう。」

一行が休息を取る間、彼らは地元の村人と出会った。彼らは粗末な服を身にまといながらも、イオアネスたちを温かく迎え入れた。村の長老が語るには、この地域は長らくサーサーン朝ペルシャの脅威に晒されており、生活は困窮しているという。

「あなたがこの地を守ると誓うなら、私たちも力を尽くします。」
村人の訴えに、イオアネスは深く頷いた。
「私の国は、すべての民が守られるべき場所だ。この地の安全を保証しよう。」


初めての衝突

数か月後、イオアネスの言葉は試されることになった。
サーサーン朝ペルシャの小規模な部隊が国境を越え、アナトリア東部の村々を襲撃したとの報が届いたのだ。

「これは宣戦布告と見てよいでしょう。」
軍事顧問のテオドロスが厳しい顔で言った。

イオアネスはすぐに対策を講じた。ゴート族の騎兵部隊を中心にした防衛軍を編成し、襲撃された村への救援を命じた。さらに、自らも前線に立つことを決意した。

「我々はここで敗れるわけにはいかない。この地を失えば、国全体が崩れる。」


戦場の夜明け

イオアネスの軍勢は、山間部の谷間でサーサーン朝の部隊と対峙した。敵軍はアナトリア軍よりも兵力に勝っていたが、地形を熟知している地元民の協力が大きな利点となった。

夜明け前、イオアネスは全軍に声をかけた。
「我々はこの地を神々の祝福によって守る。共に立ち上がり、この侵略者を撃退しよう!」

ゴート族の騎兵は山の斜面を利用した奇襲攻撃を行い、敵軍の隊列を乱した。その間に、地元民兵と弓兵部隊が谷底から一斉射撃を行い、敵を追い詰めた。戦闘は数時間に及んだが、最終的にアナトリア軍が勝利を収めた。


勝利の代償

戦闘後、イオアネスは戦場を見渡した。多くの仲間が命を落とし、地元の村々も被害を受けていた。彼は戦勝の喜びよりも、失われた命の重さを痛感した。

「これが守るということか……。」
彼の呟きに、エウクレイアが答えた。
「犠牲は避けられません。しかし、この戦いによって、この地の民はあなたを信じるようになるでしょう。」

その言葉の通り、戦勝後には東部の山間部の民から多くの支持を得た。彼らはイオアネスの指導の下で再建に協力し、国への忠誠を誓った。


統一の兆し

この勝利を機に、アナトリア国全土での支持が広がり始めた。各地の民族がイオアネスの統治に期待を寄せ、多くの集落が自らの意思でアナトリア国に加わった。

  • 山岳地帯の要塞建設
    サーサーン朝の脅威に備え、東部には新たな要塞が築かれた。これにより、国境地帯の防衛が強化された。

  • 地方自治の推進
    各地の代表者が議会に送り込まれ、大臣と共に政策を議論する仕組みが整えられた。民族や宗教の違いを超えた共存の試みが始まった。

次なる課題

戦争は国の結束を強めた一方で、多大な犠牲をもたらした。このまま軍事力に頼り続けることは難しい。イオアネスは次なる目標として、交易と内政のさらなる強化を掲げた。

「この国の基盤は平和で築かれるべきだ。戦いではなく、繁栄で民をつなぐのだ。」
彼の言葉に、エウクレイアもテオドロスも静かに頷いた。

しかし、その影では新たな危機が迫っていた。ローマ帝国内部の動乱と、フン族の動きが不穏な影を落とし始めていた……。

紀元後303年、アナトリア東部、山岳の要塞都市「ペルガモン」

戦勝から半年後、イオアネスはアナトリア東部の拠点として新たに建設された要塞都市ペルガモンを視察していた。石灰岩の壁に囲まれたこの要塞は、険しい山々の中腹に築かれており、その立地の優位性から「神々の砦」と呼ばれていた。

要塞の中庭では、大工や石工たちが忙しなく働き、砦の壁を補強していた。イオアネスは彼らに直接声をかけた。
「皆の働きが、この地を守る盾となる。君たちの努力に感謝する。」

汗を拭いながら作業をしていた石工の老人がイオアネスに微笑みかけた。
「陛下のような方が我らのために戦ってくださるなら、これくらいの労働、安いものです。」

イオアネスは彼の手を握り返した。
「この国は、あなたたちが築いているものだ。私たちの血と汗で守る土地だ。」


戦後の復興

要塞が完成に近づく中、山間部の村々では戦争の爪痕がまだ残っていた。略奪された家屋、焼かれた穀倉、崩れた橋……それらを再建するため、イオアネスはすべての地方に復興基金を設けた。

「交易で得た利益を復興に使え。」
彼はテオドロスに命じ、中央から支援物資を送る体制を整えた。

復興活動の中で、イオアネスはどの村にも自ら足を運び、現地の声を聞いた。ある農村で、幼い子どもを抱えた母親が彼に泣きながら訴えた。
「陛下、私たちはこの戦争で家族も土地も失いました。でも、あなたの言葉だけが希望です。」

彼女の手を取ったイオアネスは、静かに答えた。
「約束しよう。この地をもう二度と戦火に晒さない。そして、子どもたちが平和に育つ国を作る。」

その言葉は、アナトリア国民の間に深い信頼を育てた。


外交と策略

ペルシャとの小競り合いは一時的に収束したものの、イオアネスは戦いが再び起こる可能性を見越していた。彼は新たな同盟を求めて北方のゴート族やスラヴ人と交渉を開始した。

ペルガモンの会議室では、ゴート族の長老、アトリウスがテーブル越しにイオアネスを睨むように見つめていた。
「お前たちの国に協力する理由を聞かせてもらおう。」

イオアネスは冷静に答えた。
「協力は互いの利益のためだ。我々は交易によって得た富を分け合うことができる。そして、君たちの民も、アナトリア国の平和の一部となれる。」

アトリウスはしばらく考えた後、大きく笑い声を上げた。
「面白い! お前のように腹の座った男なら信用できる。我々もお前たちの戦いに力を貸そう。」


多民族国家への試み

アナトリア国には、戦争や交易を通じて多様な民族が流入していた。ゴート族の戦士、スラヴ人の農民、さらにはペルシャ人の技術者や商人も国の一員として迎え入れられた。

しかし、この多様性は課題も生んだ。宗教、言語、文化の違いから、各地で摩擦が生じ始めた。

イオアネスはエウクレイアに相談した。
「多民族国家を維持するにはどうすれば良い?」

エウクレイアは微笑みながら言った。
「答えは一つ、調和だ。オルタ教は神々の調和を説いている。それを国家の理念とすれば良い。」

この助言を受け、イオアネスはすべての民族が参加する「国民評議会」を設立した。評議会では各民族の代表が集まり、国の政策について議論する場を設けた。


次なる目標:アフリカへの道

復興が進む中、イオアネスは視線を南方に向けていた。地中海の向こうに広がるアフリカ大陸には、豊かな土地と交易の可能性があった。

「港をさらに強化し、南方との交易ルートを開拓する。それが次の目標だ。」
彼の言葉に、テオドロスは不安げに答えた。
「しかし、南にはローマ帝国の勢力が強い。慎重に動かねば、衝突を招く恐れがある。」

イオアネスは静かに頷いた。
「分かっている。だからこそ、まずは交易という名目で進めるのだ。戦争を避け、平和裏に領土を広げる。」

彼の指示のもと、南方への交易船団が次々と出発した。船団は地中海を横断し、エジプトやリビアの港町で新たな市場を開拓した。その成果として、アナトリア国にはアフリカから豊富な穀物や金が流れ込み、国の財政はさらに潤った。


嵐の前の静けさ

国内が安定しつつある中、外部の脅威が再び忍び寄っていた。
フン族が西方で勢力を拡大し、ローマ帝国の領土を脅かしていた。そして、ペルシャでは新たな王が即位し、アナトリア国を警戒する動きが見られた。

「平和が続くとは限らない。我々は常に備えねばならない。」
イオアネスの言葉には決意が宿っていた。


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