SHOGUN 将軍@ディズニープラス
2024年5月28日
風邪でやることがなく、一気見。真田広之の指揮下、ハリウッドが可能な限り忠実に戦国時代の日本を再現したという謳い文句。必ずしもホラではなく、実によく出来ている。
なるほど日本人からすれば、クビをかしげたくなるような個所もないわけじゃない。が、ストーリーの都合上やむを得なかったんだろうな、と許せる。ほとんど気にならない。
真田広之が美味しいところを全部持って行く感じだ。カッコ好すぎるだろ。実際の徳川家康は弱点だらけだった。なにより若い頃は戦争が弱かった。だからこそ彼は恭順した敵に寛大だった。その度量において「将軍」たり得たのであり、戦国に平和を齎したのである。
本作は大好評でシリーズ3まで予定されているとか。そうなるといよいよ、本作で「真田家康」を超人化したことの無理が出てくるように思う。
配役にかんして言うと、浅野忠信の道化役が大当たり。怪演と言うべきかも。本作のヒロインとも言うべき鞠子(=細川ガラシャ)を演じるアンナ・サワイは色気がなくてオレは嫌い。
どうしても日本人役は日本の2流俳優が演じることになり、作品の品格を落としている。とりわけ子役に魅力がない。アメリカ社会で日本人の上手な子役を見つけるのは難しいかったのかもしれない。
とはいえさすがに演技はしっかりやらせている。私としては、アメリカ人から見た戦国時代の生々しさ、そのリアリティというものに舌を巻いた。日本のドラマだと、得てしてごく淡白に描かれる人間関係が濃密に描かれ、そりゃそうだったろうな、と納得させられる。
夫や子供を虐殺されながら生き永らえ、敵将の妻にされることなど普通にあり、そんな女たちの恨みや怨恨といったものに焦点を当てている。虐げられた女の気持ちなど日本の戦国ドラマは描いて来なかったように思う。ようは男たちの戦いばかりで、女、ひいては「人間」を全く描いて来なかったのだ。
これだけカネをかけてるんだから、関ヶ原の戦いはさぞや!とあらぬ期待をしたが、最終回は呆気なく、虎永(=家康)の述懐として戦場の様子が語られるのみ。哀れ、石田三成はナレ死である。
これはもしかすると三谷幸喜の「真田丸」あたりの影響があるかも......戦場での戦闘などではなく、戦国時代を生きた人々の具体的な生活を描くという意図が揺るぎない。あっぱれ。
2024年9月17日
『SHOGUN 将軍』がエミー賞を独占して、日本ではお祭り騒ぎになっているが、本作の自分なりの評価を書いておきたい。いや、たしかに面白いドラマだったし、賞を取ったのは慶賀の至りではあるけど、そう大騒ぎするほどの作品でもないというのが自分の考え。
本作の主役は吉井虎永で、徳川家康をモデルにしている。で、史実に通じた日本人なら誰でも感じることだろうけど、真田広之はいかにも家康っぽくない。むしろ石田三成だ。あるいは真田幸村とか。本人も知的だし、知将タイプのキャラである。
本作のヒロインにあたる戸田鞠子は、細川ガラシャをモデルにしているらしい。アンナ・サワイという女優はアメリカ人が好む釣り目タイプの東洋系の顔立ちという気がする。渋谷あたりによくいる十人並みの美人で、日本のお姫様が発散するような高貴なオーラが皆無。ちっとも感情移入できなかった。
このふたりのキャラが役に合わないし、史実も恣意的に捻じ曲げられている。もっと歴史に忠実に作った方が説得力を増したのに、と残念でならない。ただ最後まで見れた理由は撮影が美しかったこと。日本の湿った風景美をこれほど如実に捉え得た作品は他に類例がない。
日本人俳優のことばかり目が行き勝ちだけど、本作のいちばん優れているところは風景描写と特殊撮影とカメラにある。これがずば抜けているがゆえに、脚本の幼稚さを救い、全体に品位あるドラマのように見せかけている。
真田広之が手を取り足を取って指導したのであろう、登場人物たちの身ぶりや仕草や所作も特筆しておかねばならない。これにより格式高い、様式美すら感じさせるドラマになった。
真田広之のことを、言葉の通じにくい向こうで脇役から艱難辛苦して……と立身出世物語で語るツイートが目立つ。オレは彼の出た映画やドラマをかなり見てきた方だと思うけど、そんな印象はない。けっこう好いドラマに味のある役で出ていたよ。役者だし、当たりはずれがあるのは仕方なかろう。
今回のドラマの成功は、真田がプロデューサーに加わり、現場を指揮できる地位を得たのが大きいだろうね。
日本の戦国時代が、シェークスピア劇に優に比肩するだけのドラマ性と深刻さに満ちていることに気づいたのが黒澤明だったと思うけど、かれは余りに様式美に走り過ぎた。アメリカのドラマは残酷で残忍な描写がお手の物。それが本作では生きている。様式と暴力のハイブリッドだ。
日本人が時代劇を作ると、得てして権力闘争の残酷さを押し隠してしまう。様式と形式に堕してしまう。それを包み隠さず正面から描いた。その意味では画期的なドラマだったと認めざるを得ない。
あの暴力と狂気に満ちた時代を生き抜き、勝ち抜いて江戸幕府を創設した徳川家康はまことに傑物だった。戦国に平和をもたらした。個々の毀誉褒貶は些末なことにすぎない。
2024年06月03日
北野武『首』@U-NEXT
コレ、映画としては楽しく最後まで見れたけど、信長の理解も戦国時代の知識もデタラメ、とりわけ男色の本質がまるで解ってない。エロスのかけらもない。
戦国時代のリアリズムを追求した真田広之「Shogun将軍」を見たばかりなので、本作のセンスの悪さ&古さに呆れた。信長を狂人として描くことにリアリズムの欠片もない。本当にこんな狂人だったら、従う大名や配下など1人もいなかったろう。
肝心の信長像にリアリティの欠片もないので、それ以外の登場人物においては何をか言わんや。そこに取って付けたようなおぞましい男色。戦国の武将どうしで、そんなのあり得ないだろう。せめて小姓の森蘭丸ぐらい色っぽく描いて欲しかったが......たんなるデクノボー。
北野武としてはシリアス一辺倒ではなく、作品に息抜きできるユーモラスな要素を入れたいのだと思う。ところが、かれにはその感覚がない。お笑いとはギャグだと思い込んでいる。やたらギャグを盛り込むが、その大半が不発に終わっている。