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記憶の夜@Netflix

動画の3分ルールというものが自分にはあって、3分見ても面白くならなかったら、もうそれ以上は見ない、次の動画に移るという外道の見方をしている。

映画館でチケットを買ってしまったら高いし仕方ない、我慢して最後まで見るほかないが、サブスク動画の時代にそれは無理、あり得ない。3分間、待つのだぞ。カラータイマーが点灯したら、次の動画に乗り換える。

で、本作も幸せそうな家族の映像が続き、いい加減うんざりして見るのをやめようか?と思ったが、じつはそれが罠だった。この家族が新しい家に引っ越すところから物語は始まる。開かずの扉の一室があって、前の住人からの申し合わせで、入っては行けないことになっている。この設定はいかにもホラー。

学業もスポーツも万能で、性格もよく、一流大学に進学した兄のことを主人公の弟は心の底から敬愛している。どちらも爽やか系のイケメンだ。

その兄が雨の夜に謎の集団に誘拐される。19日後に家に帰ってきた時には別人のようになっていた。開かずの扉の向こうではゴトゴトいう音がやまず、その音は主人公にしか聴こえない。まさにホラー。けっこう怖い。

そのうち、おかしいのは兄ばかりではなく、母も父も以前とは違う。自分の命を狙っているようだと彼は気づく。

そもそも2浪している設定なのに、主人公が部屋に籠ってばかりで予備校にも出かけず、友だちもいそうにない。けっこう広い家なのに兄と同じ部屋に寝ているという設定もヘン。家族の団欒も、いかにも作りモノめいた感じでリアリティが薄い。最初はそこが安っぽい映画のように映ったが、後々それらはどれも作り手の計算ずくだったと判明する。

雨の夜、自分の家族に追われ、死に物狂いになって警察署に飛び込んだ主人公は、自分が22歳ではなく41歳のオジさんだという事実に直面する。一体これはどうしたこと?

すべては仕組まれていた。その後明かされる真相は普通に考えたらあり得ない。こんなどんでん返しが許されるのは映画芸術においてだけだ。逆に言えば、映画にしかできないトリックを存分に楽しませてくれる。

あり得ない物語を着地させるために、最初のホラーじみた展開は投げ捨てられ、以後はあれよあれよという間に韓国映画の十八番(おはこ)の情念のドラマに変貌する。情念によって説得させられてしまう。ずるい。

映画にしかできないトリックで二転三転。感動はしないが、しごく感心させられた。




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