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水面


 風のない響灘は
遥か遠く見渡すかぎり湖のよう
誰の足跡もない砂浜には
おびただしい数の
黄や黒や赤や白の貝がらが
きれいに形を留めていたり
原形が分からないほどに砕けていたり
繰り返し打ち寄せては
引いていく波にもまれながら
やがては波に乗って大海原へと旅立ち
生まれ故郷に舞戻るその時を待つ

囁くような波の音
打ち寄せる柔らかな泡粒
岩場にしがみつく生き物たち
打ち上げられた海藻
太古から移動しつつある岩礁
大陸から渡ってくる涼し気な海風

数十万年もの時の流れを経て
今も尚変わりつつあるこの浜辺に立ち
広大無辺な大海原を目前にするとき
私の存在は
打ち上げられた名もなき貝殻一つと
何ら変わりはしない

意識の小さき一粒が宿るのは松果体
内に秘めたその燈火は
ビックバン直前の
ろうそくの火にも似た原初の光と等身大

水面みなもに写る陽の光は
地の底からこちらを見上げ微笑んで
一瞬にして輝くマカバへと姿を変えた
繰り返し打ち寄せては
引いていく波にもまれながら
やがてはマカバに乗って大宇宙へと旅立ち
生まれ故郷に舞戻るその時を待つ




遠賀郡蘆屋町 夏井が浜























































水面 西村由紀江



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