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花や虫たち

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花の写真 時々花と虫たち
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春隣

墨に秘む 色さそひだす 春隣 柿沼盟子  風土 1999年04月  先週「微かに春の香りが漂っているような気がした」と書いたばかりだが、今週は一転して、全国的に冬の嵐。北九州も再び積雪した。気がちょっと早かったようだ。  とは言え、時期的にはそろそろ梅の季節のはず。市内の梅園に立ち寄ってみると、すでに数十輪ほど咲き始め、甘い香りがした。  「春隣」とは、冬も終わりに近づき、春の気配がどことなく漂い、待ちわびる気持ちをあらわす冬の季語。一言でその心情を表すとは、何て奥ゆ

花の迷宮

 北九州市内で、「La vie des fleurs 花のある世界展」と題した花のイベントが催された。会場となった「旧安川邸」は、明治45年に建造された、企業家安川敬一郎氏(1849~1934年)の邸宅。現在は北九州市指定有形文化財となっている。     色彩の乏しい冬の街から屋敷内に入ると一転、そこには花の迷宮のような、華やかな世界が待ち受けていた。  大座敷や応接室、書斎など、部屋に合わせてデザインされたフラワーアレンジメントの花々は、不思議な程どれも元気がいい。研究

昼下がりの静止点

 雨上がりの午後、市内にある植物公園へ出かけた。山の小径はまだひんやりとした空気が立ち込めている。木漏れ日の柔らかな秋の光が降り注ぐ森の中では、海を越えて渡ってきたばかりの鳥たちも加わり、賑やかな歌声が響き渡る。 残暑が長引いた影響で、九州ではこの数日間でようやく木々が色づき始めた。見頃は今月下旬になるだろう。 今は、園内至る所で「ツワブキ」の黄色い花が咲いている。柔らかな午後の光に浮かび、足元を照らす明かりのように咲く姿は、のどかで繊細な日本の秋によく似合う。  十月

人がバラを好むのは

 毎年春と秋にフェアが開催されている市内のバラ園では、いつもと同じ場所に同じ薔薇が咲き、同じ香りが漂っている。  しかし種類は同じでも、まったく同じ花は一つもない。それぞれの花は、とても個性豊かに咲いている。大きさ、形、色も違う。すでに枯れてしまった花もあれば、これから咲き始める花もある。  一期一会。  沸き立つ喜びと、もの悲しさの入り混じった想い。  それは毎年訪れていても、出会うたびに、ささやかな感動を呼び起こしてくれる。  じっと見つめていると、花の薫りが外へ

生き抜く力

 連日の強い日差しに負けて、公園の花壇や、我が家の庭の植物たちの葉は乾燥し切ってヨレヨレである。それでも夏の小さな花たちは逞しく咲いている。よほど芯が強いのだろう。絶対に枯れない。決して負けない。     朝晩の大気には、ようやく涼し気な秋の匂いを感じるようになってきた。あともう少しの辛抱だ。 ⚽⚽⚽  毎年8月になると、中学時代のサッカー部のことを思い出す。何も知らずに遊び半分で入部したのは、東京都内でも有数の強豪チームだった。1年生の最初の夏休みは、何と朝9時から夕

梅雨明け近し

花に水やり 体に水分塩分滋養補給 眼と頭は休めて 心に憩ひのひとときを

森の木漏れ日と山紫陽花

 今年も紫陽花の季節がやってきた。北九州市高塔山では毎年恒例の紫陽花まつりが開催されている。梅雨入りの遅れに伴い、7万株あまりの西洋アジサイとガクアジサイの開花は全体的に遅く、見頃は来週くらいになりそうだ。    見物客で賑わうエリアを通り抜け、脇道へと進み、急勾配の狭い階段を下る。すると静かな森の木陰に野鳥のさえずりが響き渡る秘密めいた場所に辿り着く。そこには谷間を通り抜ける風に吹かれながら、数十種類の日本原産「山紫陽花」がひっそりと咲いている。  ここは管理者の友田氏が

花菖蒲咲く宮地嶽神社と奧之宮

    福岡県福津市にある宮地嶽神社の境内に、梅雨の風物詩花菖蒲が咲き始めている。わずか3日間だけ咲く摩訶不思議な姿の花には、梅雨空の青白い光がよく似合う。宮地嶽神社で育成されているのは「江戸系花菖蒲」。他の品種に比べてやや小ぶりで派手さはないが、その清楚な雰囲気が神社の境内に相応しい。  今年の梅雨入りは全国的に例年より遅く、北九州では来週以降になりそうだ。これからしばらくの間は恵みの雨と共に咲く草花を楽しみたい。 ⚓  この宮地嶽神社には本殿の奥、宮地山の斜面に「奥之

黄昏の園

    西の空に色鮮やかな夕焼けが広がるとき、その場の風景もみるみるうちに紅色の光のヴェールに包まれることがある。それまで目にしていた光景とは別世界のようで、突然のギャップに驚く。  ライトアップ直前の、黄昏のバラ園にもそれがやってきた。目の前に咲いていた花が急に色めいて、ふわっと浮かんで怪しく揺れて、一瞬のうちに闇の中へと消えていった。     日没と日の出の直前直後の「薄明」は、「黄昏」や「薄暮」「トワイライト」「逢魔時」など多数の呼称があり、また撮影用語で「マジックア

バラの奥に潜むもの

 北九州市内にあるバラ園で、毎年恒例のフェアが開催されている。昨年は開花時期が例年よりもだいぶ早かったが、今年は逆に遅く、先日訪れた際にはまだ4~5分咲きほど。見頃は今月20~25日位になるらしい。  約450種、2,700株、そして数十万、数百万の個性豊かなバラの花。同じ姿形をしたものはひとつもない。  (フェアは6月9日まで) 🌹  専門家の研究によれば、バラの発祥地はヒマラヤの麓や渓谷周辺。遠い昔、そこから世界中に広がったとされる。  原種から数多くの交配が繰り返さ

初夏の花

 ちらほらと薔薇が咲き始めたこの時期、市内にある県営公園の花壇では初夏の花が一斉に咲き誇っている。  この公園は散歩がてら月に数回は来ている馴染みの場所。長い階段もしくは迂回路の坂道を登った丘の頂上にあるために訪れる人は少なく、とても静かなひとときを過ごせる。四季を通じてこの花壇を観察していると、いろいろと気付かされることがある。    1ブロック20平米ほどの花壇が10ブロック並び、それぞれ一人ずつボランティアの方々が自由気ままに管理している。人様の家の庭をじっくり

『オルハン・スヨルジュ記念園』

 関門海峡を見下ろす下関市の高台にある火の山公園では、5万株のトルコチューリップが満開となっている。     下関市とイスタンブール市とは「海峡」という地理的類似性があることから1972年姉妹友好都市となった。ここに植えられたチューリップはすべてイスタンブール市から寄贈され、下関市民ボランティアによって植栽されたものだ。  このチューリップ園の名称『オルハン・スヨルジュ記念園』とは、1985年3月、イラン・イラク戦争の最中にテヘランに取り残されていた日本人215名を救出した

庭に春時雨

 この一週間は北九州でも不安定な天候が続いた。暖かくなったと思えば急に気温が下がり、強風が吹き荒れ、雨が降る。晴れて静かになったと思ったら今度は黄砂。黄色く霞む空を見上げる度に自ずと呼吸も浅くなりがちだ。 それでも雨が降ると無性に草花の写真を撮りたくなるのは、目の前の光景が突然輝き始めるからだ。春時雨は庭の春色をいっそう際立たせてくれる。  我が家の庭は、とても全体をお見せできるような大層なものではないが、先月の梅の花を皮切りに所々春らしい花が一斉に咲き始めている。 12月

言い得て妙

 冬から春へと移りゆくこの時期、景色を春色に染めるのは河津桜や寒緋桜。市内にあるいつもの植物公園に出かけると、一本の河津桜の樹に数十羽のメジロ大集団が群がり、近くに人がいても逃げることなく、一心不乱に蜜を吸っていた。 花壇には色とりどりのクリスマスローズの他、カンザキアヤメ、スイセン、バイカオウレン、ヒマラヤユキノシタ。少し気温も暖かくなってきたせいか、春本番に向けて植物園もにわかに活気づいてきた。 来園者のために休憩室として使われている古い木造家屋の和室には雛人形も飾ら