古典 と トーマス (なにか と なにか #1)
「おい、次古典の授業だよな。辻Tの授業で寝ない方法思い付いたぞ!」
佑哉がドヤ顔で俺らに宣言してきた。
辻原先生は女子から人気出るタイプのおじいさん先生。普段は柔らかな物腰と声、おまけに課題も緩い。そんな先生の数少ない致命的な欠点がある。
授業が眠いのだ。
優しい口調から繰り出される古文はまさしく子守唄。しかしそんな先生に限って授業態度は注意してくるものだ。注意はそこまで怖くないんだけど、生徒にとっては死活問題である。
そんな辻Tの授業を起きる方法があるのか。グループ全員が佑哉に注目する。
「これだよ。」
そういって彼が興奮気味に取り出したのは、機関車トーマスのお菓子である。ざっと出すもんだから一気に3つも出てきた。トーマスが3人(?)並んだ。
https://www.lotte.co.jp/products/catalogue/candy/10/detail02.html ロッテさんのHPより
「これ、チューイングキャンディっつーんだよ」
周囲の空気がトーマスで止まった気がするけど佑哉は気にしないで続ける。
「つまりどういうことかって言うとな!バレそうになったら食べれる最強のガムなんだよ!!」
なるほどと何人かの顔が明るくなる。それなら授業中でも噛める。何人かは懐疑的だ。俺も後者。
「絶対ばれるだろそれwww」
周囲がいくら嗜めても佑哉は聞かない。実践する構えだ。
チャイムが鳴る。辻Tが入ってくる前に佑哉は共犯1名と共にガムを口に入れる。
辻Tの古典の授業には似合わない緊張感が2人を包んでいる。
授業はいつも通り進んだ。俺はこっそり引き出しに忍ばせておいたミンティアを口に放り込んだり、佑哉達の様子を見たりして過ごす。辻Tの授業をこれだけ集中したことがあっただろうか。内容が入っているかは別として、すごく目が冴えている。
板書の合間に、先生が俺の机に来た。
「おい、お前ミンティア食ってんのか!」
俺が食ったのが見えてたのか。やらかした。俺は真面目(自称)だからちゃんと謝る。
佑哉がしたり顔でこちらを見てきた。さっきも見たドヤ顔とガムを噛んで動く顎もうざいんだが、何が特にうざいって、こっそり見せてくるパッケージのトーマスの表情だ。そんな哀れむような顔で俺を見るな。笑
授業が半分を超えたあたりで、生徒の半分くらいの集中力も半分になってきた。こんな集中しているのは俺らくらいじゃないか。優しい声で古典が朗読されてクラスを漂っている。
と、ここでついに佑哉のところへ先生が!!!
「おーい、何か食ってないか??」
今度はこちらがしたり顔の番だ。
「いや、何も食ってないっすよ?」
口を開ける。何もなさそうだ。こいつ、飲み込んだな。澄んだ顔してやがる。
胃の中に入ってしまえば証拠はない。俺のしたり顔は真顔に戻る。先生も怪しく思いつつも証拠がないので怒れない。
危機を残り超え、黒板に戻ろうとした先生の後ろでしたり顔。トーマス、お前はなんもしてないからしたり顔をするな。笑
と、ここで先生が立ち止まる。
「あれ、こんなとこにトーマス落ちてるぞ」
教室が一気にざわつく。そりゃそうだ。高校生の教室にトーマスが落ちてることなんてない。先生に拾われたトーマスも、どこか引きつっているように見える。
佑哉がさっき3つも出して、2人で食べたから、一個が仕舞われていなかったのか。佑哉は何も言えないが顔が真っ赤だ。
「このトーマス誰のだー?」
辻Tのこの言葉もパワーワードすぎる。皆笑いを堪える。掲げられたトーマスも(以下略)
「はい、俺んです…」
佑哉が手を挙げてささっと回収。クラスは爆笑に包まれたのであった。
佑哉の元に帰った時のトーマスの表情よ。笑
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