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分類その2「探偵役の超人的推理力を描いた作品」

探偵の魅力。それが推理小説の主たる醍醐味である。
時代小説の主人公が剣の達人であるように、推理小説に於いて名探偵という存在は、目を見張る程の卓越した推理力を持った人物であらねばならない。

強健な人がその肉体的能力を誇って、筋肉を活動させる運動を喜ぶと同じように、分析家はもつれを解きほどく精神的活動をよろこぶ。その才能を働かせるものなら、どんなささいな仕事にでも楽しみをくみとる。分析家は謎や、難問や、象形文字を好み、それぞれを解決して、ふつうの理解力にはまるで超自然とも思えるほどの、かなりな鋭敏さを示す。

エドガー・アラン・ポオ「モルグ街の殺人」より ―翻訳:鈴木幸夫

推理小説の創始者ポオは、彼自身がかなりの名探偵だったらしい。チェス差し人形の仕掛けを暴いたり、ディケンズの連載中の小説から犯人を割り出し、彼をして「悪魔のような男」と言わしめたりしている。
一方作家としての彼の境遇はおよそ成功者と言えるものではなく、当時の評論家や読者にとっては「早すぎた天才」だったのだろう。
そんな彼には鬱積した承認欲求があったに違いない。圧倒的な知能と文才を持て余していた彼には、世間に対して自分が天才である事を厳然と知らしめる作品を書く必要があった。それが「モルグ街の殺人」であると私は思っている。

C・オーギュスト・デュパンというこの物語の名探偵は、その後雨後の筍のように書かれる数多の推理小説に登場する名探偵の、あらゆる典型を備えていると言って間違いではない。
夢想家であり、まるで世捨て人のように書物に埋もれて暮らしている優雅な安楽椅子探偵。「盗まれた手紙」の冒頭で、デュパンがパイプスモーカーである事がわかる(しかもメシャムの!)。
気位が高く気分屋で皮肉屋。衒学的で上目線。だから孤独。まさにポオその人の影だったようにさえ思う。
この鼻持ちならない天才の後継者は多い。シャーロック・ホームズは勿論、エルキュール・ポワロやアンリ・バンコラン、ファイロ・ヴァンス。
日本に於いても明智小五郎、神津京介、気障な紳士の探偵を挙げればキリがない。

そんなマウント野郎どもの鼻を明かす愉快な探偵も登場した。
何とSF作家として有名なアイザック・アシモフが書いたミステリ短編集「黒後家蜘蛛の会」だ。

月一で開かれる推理合戦にセレブ探偵達が集う。みな名探偵のパロディのような人物達。しかし、いつも一番最後に美味しいところをかっさらって行くのは、席にすらついていない黒人ギャルソンのヘンリー。実に痛快な短編集である。

名探偵の類型は、現代に至るまで実に様々な変化を遂げている。頭の良さをひけらかさない探偵も、無駄に知識を披露しない探偵も登場する。間抜けを演じていて実は全部見抜いているという坂口安吾の産んだ巨勢博士。相手を油断させて追い詰める倒叙ミステリの王様、刑事コロンボもいる。この構図ではむしろ、かつての名探偵的人物が犯人役に回っていたりする。

それでも共通しているのは、彼等が始終論理的であり、事件を華麗に解決してくれる点だ。彼等は我々ミステリ・ファンの憧れであり、カリスマであり、アイドルであり、ヒーローだ。
名探偵というキャラクターの魅力無くして、推理小説は無いと言っても過言ではないのである。
あえて一つの作品に絞る事など到底不可能で、名探偵こそが、推理小説そのものだと言い換えても良いほどなのだ。

おっと、そう言えば大事な事を忘れるところだった。
昨日のスミス゠ジョーンズ゠ロビンソン・パズルの解答編をあげて、今日は終わりにしよう。

スミス゠ジョーンズ゠ロビンソン・パズル 解答編

制動手はシカゴとデトロイトの中間に住んでおり、制動手の3倍の年収がある乗客A氏が、その隣に住んでいる。
ロビンソン氏はデトロイトに住んでいるのでA氏はロビンソン氏ではない。そしてまたジョーンズ氏でもない。何故なら、ジョーンズ氏の年収は2万ドルで、きっかり3で割り切れないからである。A氏はスミス氏だと判明する。
制動手と同名のB氏はシカゴに住んでいる。ロビンソン氏はデトロイトに住んでいるのでB氏はロビンソン氏ではない。
そしてまたスミス氏でもない。何故ならスミス氏はシカゴとデトロイトの中間に住む制動手の隣人だからである。B氏はジョーンズ氏だと判明する。同時に制動手も同名なのでジョーンズだ。
スミスは火夫ではない。一人で玉突き(ビリヤード)はやれないし勝ち負けもないからだ。つまり火夫の名前はロビンソンだと判明する。
制動手がジョーンズ、火夫がロビンソンだとすると、機関士はスミスである。
答えはスミスである。


2023.3.17

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