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『盗聴(みみ)』(9)  レジェンド探偵の調査ファイル(連載)

『現役探偵の調査ファイル 七人の奇妙な依頼人』 福田政史:著
【第七話】盗聴(みみ)

 依頼人を伴って弁護士事務所を訪問したのは、そんなやりとりがあって三、四日したころだった。
 奥さんであるマルヒが十数回も不倫相手のマンションに行き、そこでいつも数時間過ごしていること、そして不倫相手の身元調査も話した。弁護士に渡した調査報告書には、二人のデートの様子やマンションに出入りする写真も添付していた。私と依頼人は、これだけ証拠が揃えば、弁護士も太鼓判を押してくれると思ったのだが、弁護士の反応はちょっと意外なものだった。
「この慰謝料の四千万円というのは、私も依存がありません。あまり小額ですと、裁判官が貴方の怒りはその程度なのかと思いますからね。最近の心の痛みに対する損害賠償金も上がっています。それは問題ないのですが……」
 と言いながら、妻・明子の行動調査の報告書をめくりながら話を続けた。
「でもねえ、これだけ高額の損害賠償金を相手に請求すると、あちらでも必死に反撃すると思うんです。そのとき、この報告書では証拠が希薄なんです」
 私と依頼人は異口同音に聞いた。
「それはどういうことですか?」
「確かに、奥さんはこの男性の部屋を頻繁に訪問し、かなりの時間を過ごしています。しかし、二人が性行為に及んだという証拠がありません。二人が口裏を合わせて、ゴルフの話をしていたとか、ゴルフを上達するためのビデオを見ていたと言われればそれまでなんです。この笹木なる男性は誰もが認めるぐらいゴルフが上手く、奥さんの趣味もゴルフですからね。これを格好の言い訳にすることが充分考えられるんです」
「でも先生。二人は車の中でキスをして、その写真もあるんですよ。笹木の部屋に行くときは手をつないで歩き、恋人然とした様子で腰に手を回したりもしているのに、それでもだめなんですか?」
 私がこう食い下がると、弁護士も苦笑気味に言った。
「写真については抗弁できないでしょうが、キスはしたが最後の一線は越えていないと言われたらそれまでですからね。密室のことですから、そうそう証拠を掴めないのでしょうが」
 数千万円の攻防とあって、当然、相手も弁護人を付けるだろうから、こちらも万全を期したい。二人に肉体関係があるというキチンとした証拠が欲しいというのが、弁護士の譲れない意見だった。
 依頼人と私は顔を見合わせため息をついた。
「先生。そうすると、このあと、奥さんが何回不倫相手のマンションに行こうとダメなんですか」
 私がこうねばると、
「いいえ、回数は多いにこしたことはありません。一回よりも三回、四回と重なれば裁判官の見方も変わるでしょう。でも、百回マンションに行けば絶対勝てるというわけでもないんです」
 弁護士は相変わらず不倫を裏付ける決定的な証拠が欲しいと主張する。

(10)につづく

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