『山中湖にて』(5) レジェンド探偵の調査ファイル,浮気調査(全11回)
『現役探偵の調査ファイル 七人の奇妙な依頼人』 福田政史:著
【第五話】山中湖にて
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依頼人の依頼を要約すると、「マルヒが別れる気があるのか、彼の奥さんは離婚に応じるのか」ということになる。とりあえず、私はマルヒとその家庭の状態、特に妻の性格やものの考え方などを知ることが先決だと考えた。
内定調査はこの点を重点的に行うことを、依頼人に話し了解を求めた。
彼女は、私が仕事を引き受け、具体的な調査方法を明示したことで安心したらしく、「よろしくお願いします」と何度も頭を下げた。
私はそんな彼女に、
「でもね、最初にお話ししたように、たとえ調査をしても、奥さんが希望する結果とならないかもしれないし、岡田夫婦が分かれるかどうかは二人の問題で、僕らのチカラではどうにもならないですよ」
と付け加えた。そして「二度と自殺なんかしないと約束してくださいね」とクギを刺した。彼女ははっきり返事をしなかったものの、小さくうなずいた。
その後、調査に先立つ予備知識を得るため、彼女が知る岡田教諭、および岡田夫妻の詳しい状況を聞いた。最後に、岡田先生の写真はありますかと聞くと、ないとのことだった。彼は彼女と頻繁に会い、会えば必ずといってよいぐらいセックスをするが、いままで旅行に行ったこともなく、二人きりで写真を撮ったこともないという。私は、マルヒが故意にそうした場面を避けているのではないかとさえ思えた。仕方がないので、岡田教諭の身長や体重、風貌などを聞くと、
「えっと、顔は俳優の田村正和と歌手のジュリー(沢田研二)を足して二で割ったような感じです」
と、少しはにかみながら言った。
「へえ~、ずいぶんハンサムなんですね」
と言うと、「ええ」と頬を染めている。