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『盗聴(みみ)』(2)  レジェンド探偵の調査ファイル(連載)

『現役探偵の調査ファイル 七人の奇妙な依頼人』 福田政史:著
【第七話】盗聴(みみ)

 平成十五年五月、うちの事務所のホームページを見たという男性から調査依頼の電話があった。言葉遣いは丁寧で、会う時間の打ち合わせなどもテキパキしている。私はあえて調査の内容など聞かず、約束の日、事務所で待っていた。
 ちなみに、ホームページを作るように勧めたのは事務所で働いている娘である。かつて探偵業界の唯一とも言える広告媒体はNTTが配布するイエローページ(業種別に電話番号が記載されている電話帳)だったが、最近はネットでホームページを見て、来所する依頼人もずいぶん多くなっている。昔気質の私は、正直なところインターネットにいまひとつしっくりこないところもあるのだが、これも時代の流れなのだろう。
 電話をかけてきた依頼人は時間どおりにやってきた。
 名刺を交換し、ソファに座っても「ホームページを拝見しますと、もう三十年以上営業してらっしゃるのですね」といった当たり障りのないことを話し、なかなか本題に入らない。これは、男女を問わず探偵事務所でよくあることなので、私も急かすこともなく受け答えした。
 雑談をする間、机に置いた名刺を見ながら、それとなく依頼人を観察した。
 名刺には日本を代表する大手商社の常務取締役の肩書がある。年齢は五十四、五歳ぐらいだろう。やや痩せ気味で背は高いほうだ。髪の毛はきれいに七・三分けして、グレーのスーツはかなり高級そうである。顔は柔和な中にも厳しさが感じられ、名刺の肩書にふさわしい容貌だった。
 依頼人はしばらく雑談したあと、ちょっと緊張した面持ちで依頼内容を話した。
「実は、妻の尾行調査をお願いしたいんです」
 その顔には、雑談のときとはうって変わった苦渋の色さえ滲んでいる。
 私は自分より少し年下であろう依頼人を見て、
「奥様に何か不審なことでもあるのですか?」
 と聞いた。

(3)につづく

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