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『ヘッドハンティング』(3) レジェンド探偵の調査ファイル(連載)

『現役探偵の調査ファイル 七人の奇妙な依頼人』 福田政史:著
【第四話】ヘッドハンティング

 そうした翌朝の出来事である。
 玄関のチャイムがなり、誰かが訪れた気配がしたのは、ちょうどネクタイを結び終えた時だった。玄関先で応対していた妻が私の部屋に駆け込んできた。顔色が変わっている。少し震えた声で「あなた、警察の人よ!」と言う。
 私が、「入ってもらえ」と言うと、七~八人の屈強な男たちがドッと入ってきた。
 なかの一番年配の男が、「S署の堀川です」と言って名刺を出し、別な部屋で、私と二人きりになると逮捕状を見せた。
 私は、何のことか全くわからなかったが、キップ(逮捕状)がある以上ジタバタしても始まらない。居間の入り口で不安そうにしている妻と、その後ろに隠れるようにして、怖々と様子を窺っている娘に、目で「部屋から出るな」と伝えた後、堀川刑事と向き合った。
 このころになると、事務所からも連絡が入り、向こうにも突然九人もの刑事が来て、家宅捜査をしていることが分かった。自宅でも逮捕状とは別に家宅捜査の令状を見せられ、若い刑事たちによる捜査が始まっていた。
 私が、キャップと呼ばれている堀川刑事に、「どんなお疑いですか?」と聞くと、刑事は、「建設機材会社のT社をご存じですね」と言う。私が、「ハイ」と答えると、「じゃあ、取締役の才川さんも知っていますね」と言う。ここまでいたると、私にもおおよその事情が飲み込めてきた。
 家宅捜査が終わり、堀川刑事に、「それでは署までご同行願います」と促されたので、妻に着替えや洗面道具を用意させた。
 その間、私は顧問弁護士と連絡を取り、ことの経緯を掻いつまんで説明した。弁護士はちょっと驚いた様子だったが、「夕方、自分が接見に行くまで、何もしゃべらないでください」とアドバイスした。
 妻の用意したバッグを持って立ち上がった私に、若い刑事が手錠を掛けようとするのを、堀川刑事が目で制した。外に出ると、乗用車とワゴン車が停まっていて、私は堀川刑事と共にワゴン車に乗せられた。
 車中、様々な思いが入り乱れた。
 私は、たった一回会った才川氏のことを思い出していた。彼と会ったのはもう二ヵ月以上前のことだった。堀川刑事が先ほど携帯電話で、上司らしき相手に、「マルヒが才川さんと会ったことを認めましたので、連れて帰ります」と連絡したので、それが原因であることは間違いない。私はこの時、(へえー、警察もマルヒという表現をするんだ)と変な気持ちになった。
 それにしても、なぜ才川氏と会ったことが逮捕に繋がるのか?ここが分からない。渋谷のホテルで会って、一時間ほど話しただけなのである。その時の話が聞きたければ、とりあえず参考人として呼ぶべきではないか。
 私にはちゃんとした住居もあり、経営している調査会社は、警察庁が主管である。いわゆる「住所不定、無職」ではないのだ。などと考えているうち、彼らに対し無性に腹が立ってきた。
 私はワゴン車の中で、場合によっては国家賠償ものだな、とさえ考えていた。

(4)につづく

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