東京五輪組織委の恐るべき無責任さ(2)
驚愕の有償アルバイト募集
昨年10月28日に配布された「タウンワーク」(リクルートジョブズ)の表紙に「東京2020オリンピック・パラリンピックを支える仕事特集」の文字が踊っていました。
中身を見てみると、パソナとヤマト運輸の大々的な人材募集広告が載っていました(上記写真はパソナのページ)。「仕事特集」とはいえ、たった2社なのは、両社が五輪スポンサーであり、人材派遣では独占的立場にあるからでしょう。ヤマトは主にロジスティクス(フォークリフト等)の仕事がメインですが、驚いたのはパソナの方です。
パソナは採用期間を「2020年2月から9月までの期間限定」とし、「国際スポーツ大会でのイベントスタッフ」となぜか東京五輪の名前を伏せながら、8業種のアルバイトを募集していました。五輪の名を使わないのは、スポンサーレギュレーションの問題があるからでしょうか。その募集名称は、
・国際コミュニケーション
・各競技会場運営
・選手宿泊施設運営
・IT テクノロジー
・トランスポート
・メディカル
・会場、施設管理
・バックオフィス
などとなっています。微妙にボランティアの活動名称とは違いますが、チェックしてみると、内容はほとんど同じです。
例えば「国際コミュニケーション」はボランティアの「アテンド」という業務内容と同じですし、「各競技会場運営」もボランティアの「競技」と同じです。同様に「選手宿泊施設運営」は「運営サポート」、「ITテクノロジー」は「テクノロジー」、「トランスサポート」は「移動サポート」、「メディカル」は「ヘルスケア」、「バックオフィス」は「運営サポート」と完全に業務が重なっています。唯一重ならないのは「会場、施設管理」で、会場内看板などの設置、維持管理なので、こちらは確かにボランティアにはありませんでした。
つまり、ボランティアがやらない業種を募集しているのではなく、ほとんど同じ業務内容で募集していたのです。
ですが、一昨年、組織委は「五輪を支えるのはボランティアだ」と言って11万人以上の無償ボランティアを大々的に募集(都市ボランティア含む)したのです。大量のタダ働きを集めておいて、片方で有償アルバイトも募集するとは、一体どういうことなのでしょうか。同じ仕事内容で一緒に働いたとして、ボランティアは何時間働いてもタダですが、こちらのアルバイトは時給1600円。つまり1日働けば12000円近くになるのです。
大会ボランティアの募集は18年の10月から12月に実施され、約20万人の応募者の中から約半年をかけてマッチングを行い、8万人を選定したと報じられました。つまり12万人を不合格にしたわけで、それなのに今になって大々的にアルバイトを募集するのは、どういうことなのでしょうか。
一つ考えられるのは、給料を払い、雇用関係が発生するアルバイトなら容易に辞めないだろうから、ボランティアのグループ責任者として配置しようという目論見です。大会中は酷暑が予想されますが、ボランティアは雇用関係にないためいつでも離脱できるし、組織委もそれを咎めるわけにはいきません。もし酷暑でボランティアが大量に離脱するようなことになれば大会運営に支障が出るから、各部署に最低限の有償アルバイトを配置して、万一に備えようという算段が考えられます。
しかしこれは、無償でもいいから大会を盛り上げたいと応募してきたボランティアをバカにしていないでしょうか。無償でもやりたいと集まってきた人々と、同じ業務を有償で請け負うアルバイトが同じ思いで働けるものでしょうか。ボランティアは無償を承知で応募してきましたが、彼らだって、もしもらえるなら、時給を貰った方が嬉しいに決まっています。
「五輪を支えるボランティアは無償が大前提」と言って多くの人々を集めながら、その横で有償の、しかも高額時給でアルバイトを集めるのは、無償でも役に立ちたいというボランティアの純粋な思いを踏みにじる行為ではないのか。有償アルバイトを大々的に雇うカネがあるなら、最初からボランティアを有償(とはいえ時給はもっと低額で)で集めればよかったのではないでしょうか。これでは、無償で働くボランティアがあまりにも哀れに思えました。なぜこのようなことが平然と行われるのか全く理解できないので、組織委に3度目の公開質問状を送ることにしました。その質問と回答を以下に記します。
組織委への質問
東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 御中
10月28日に配布された「タウンワーク」の「東京2020オリンピック・パラリンピックを支える仕事特集」にて、株式会社パソナとヤマト運輸株式会社の人材募集広告が掲載されていました。
特にパソナの募集内容は、組織委が募集した大会ボランティアと業務がほぼ同じ(「会場・施設管理」を除く)であるにも関わらず、時給は1600円と高額が提示されていました。この件に関して、以下お尋ねしたいと思います。
(1)今回のパソナの募集人数は何人でしょうか
(2)今回の人材募集に関する、組織委からパソナへの業務委託費を開示してください
(3)8万人の大会ボランティアを無償で集めながら、なぜほぼ同じ業務内容の有償アルバイトを募集するのでしょうか。ボランティアの人数が足りないのでしょうか
(4)ボランティアとアルバイトは同じフィールド(職場)で勤務するのでしょうか
(5)ボランティアとアルバイトの制服は違うのでしょうか
(6)無償のボランティアが有償アルバイトと一緒に仕事しても待遇が違いすぎ、ボランティアから不満が出ることが予想されます。ボランティアにはどのように説明するのでしょうか。もしくは、すでに説明したのであれば、その内容を教えてください
組織委の回答
ご質問いただいた5点について、下記にて回答いたします。
(1)今回のパソナの募集人数は何人でしょうか
大会スタッフ(職員)として、約2,000人の募集です。
(2)今回の人材募集に関する、組織委からパソナへの業務委託費を開示してください
事業全体としての発注ではなく、個別案件ごとの派遣契約となりますので、開示は差し控えさせていただきます。パソナは、他のパートナー同様に人材サービスカテゴリースポンサーとして、商品・サービスの提供の機会を有しています。
(3)8万人の大会ボランティアを無償で集めながら、なぜほぼ同じ業務内容の有償アルバイトを募集するのでしょうか。ボランティアの人数が足りないのでしょうか
元々職員は準備フェーズと大会時フェーズで「長期」と「短期」に分けて確保する計画です。長期間準備フェーズを支える職員は、これまでもそれぞれの専門性に応じこれまでも採用してきております。一方、即戦力として大会時に必要となる短期かつ大規模な人員については、採用計画に基づいてその多くをパートナーであるパソナ社の選考を経た方々を派遣いただき各会場に配置する予定です。選考にかかる時間、各会場に配置する時間等を考慮したうえで、この時期から募集を開始いたしました。
(4)ボランティアとアルバイトは同じフィールド(職場)で勤務するのでしょうか
(6)無償のボランティアが有償アルバイトと一緒に仕事しても待遇が違いすぎ、ボランティアから不満が出ることが予想されます。ボランティアにはどのように説明するのでしょうか。もしくは、すでに説明したのであれば、その内容を教えてください。
自主的に参加いただくボランティアと、組織委の職員として勤務いただく派遣社員では、活動期間や、役割や職務(活動)に対する責任の有無など、大きく異なります。
ボランティアは、どなたでも参加いただけるように(移動サポートを除き)資格などを要件としておらず、オリエンテーション・研修などを経て、8万人規模の方に大会時にそれぞれの活動分野で役割を担っていただくものです。
一方、大会時を担う短期の職員については、組織委の即戦力として、派遣会社の選考を経て採用され、派遣されます。なお、両者は役割や職務(活動)に対する責任の有無など、スタッフとしての性質が大きく異なり、代替の関係にはないと考えております。
職員は運営計画における企画調整、関係各所との連絡調整、業務の進行管理など大会運営全般に責任を持って関っていただくことに対して、ボランティアは、本人の自由意志のもとで大会運営に携わっていただくことになります。両者の役割や責任の所在等は異なり、代替の関係にはないと考えております。
(5)ボランティアとアルバイトの制服は違うのでしょうか
ボランティアも今回募集の大会スタッフも、今年7月に発表した同じユニフォームとなります。競技会場の装飾と調和しながらも、観客からの識別性を保ち、様々な年代、性別、国籍の方々が着やすいデザインです。
以上、何とぞよろしくお願いいたします。
公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会
戦略広報課
組織委の回答は矛盾に満ちている
結論から言えば、今回も要領を得ない回答が大半を占めました。今回、各質問に対して返答してきたのは、前回までの回答の仕方に対する批判を彼らなりに受け止めた結果なのでしょうが、それでも中身には疑問が残るので、以下に解説していきます。
まず、募集人数は2000人ということは分かりました。今回の募集に関するパソナへの発注額は明かされませんでしたが、通常の人材派遣におけるパソナのマージンが約30%であることから推察すると、一人当たりの組織委からパソナへの支払額は時給にして約2200円、日給にして約18000円程度ということになるでしょう。その2000人分ですから1日約3600万円、仮に2月から9月の8ヶ月間を240日と計算すると、総額86億4千万円という巨額になります(短期フェーズの採用者が多ければ、この金額は縮小します)。
(3)の質問は、「8万人の大会ボランティアを無償で集めながら、なぜほぼ同じ業務内容の有償アルバイトを募集するのか」ですが、これに対して「もともと職員は〜」と回答しているのも変です。私は職員の採用計画など尋ねていないのですから。
簡単に言えば、組織委は「長期と短期の職員を募集しているだけだ」と強弁しているのですが、長期と短期採用の人数割合は明かしていません。「タウンワーク」で募集されている職種は大会ボランティアとほぼ同じであり、もし短期フェーズの職員がボランティアと同じ仕事を、同様の大会期間中にするのであれば、やはり非常に不公平感が生じるのではないでしょうか。
同じことは質問(6)に対しても言えます。私は不満を持つであろうボランティアにどう説明するのか、もう説明したのかと質しているのに、それには全く答えていません。そして私の知る限り、組織委はまだ全ボランティアに対してまったく説明していません(募集が行われた19年10〜11月時点)。恐らく、説明しずらくて、このままスルーするのでしょう。
また、ボランティアには資格要件がないと言っていますが、外国人要人や選手アテンドには相応の語学力が必須であり、さらに医療スタッフに関しては医学的知識が求められるのは当然ですから、この回答もごまかしなのです。
募集時に資格要件を書いていなくても、職種によっては資格(または能力)が必要なのは自明です。それを、まるでボランティアには一律で専門知識を求めていないと言うのは、高度な専門知識を有しながら無償を承知で応募した人々を愚弄しているのではないでしょうか。
さらに「両者は役割や職務(活動)に対する責任の有無など、スタッフとしての性質が大きく異なり、代替の関係にはないと考えております」などと言っていますが、パソナの広告には「社会人経験があればOK!」「アルバイトの場合はリーダー経験ある方」でいいと書かれていますから、組織委が主張するほど、質が高い人材を集めているようには見えません。
さらに、パソナの募集でも語学や専門知識、資格の有無さえ応募条件になっていないのですから、高給に惹かれて集まった人材と、無償精神で集まった人々が同じ職場で仕事をした時、果たして組織委が唱える「ワンチーム」になれるのか、はなはだ疑問です。
善意の人々を愚弄する「スポンサーファースト」
以上から考えるに、今回のアルバイト募集は、わざわざスポンサーであるパソナに仕事を作ってやったように見えます。11万人以上の大所帯を運営するために中核となるリーダーが必要なのは理解できますが、たとえ有償でもそういう人材が必要なら、なぜ20万人が応募したボランティア募集時に、その中から有償で選抜しなかったのか。
最初から有償で長期間採用の職種があることを明示していれば、そういう人材も集まったはずです。そうすれば、わざわざパソナを噛ませて中間マージンを稼がせる必要はなかったはずなのです。事実、今回の募集を知ってボランティアを辞めた人もいます。前号で組織委の無責任体質を明らかにしましたが、数万の人々の善意を軽んじながらきちんと説明しない態度は極めて無責任で、唖然とします。
冷酷ささえ感じる組織委の姿勢
「ボランティアはTOKYO2020を動かす力だ」(組織委HP)などと言って善意の人々を無償で集めながら、その応募が終わった段階で、しれっと有償アルバイトを募集する。この、パソナにマージンを稼がせるために有償アルバイトを集める組織委の「スポンサーファースト」の姿勢は、まさに東京五輪の真の姿を象徴しており、無償ボランティアに集まった人々を完全に愚弄するものです。ボランティアに対する冷酷ささえ感じさせる組織委の姿勢は、もっと厳しく糾弾されるべきだと私は思います。