亡国の東京オリンピック 東京五輪問題―開催でも中止でも日本は 地獄に落ちる
以下の記事は、「月刊日本」の2020年6月号に掲載されたインタビュー記事です。6月7日現在、組織委は未だに延期に伴う追加費用を発表できず、IOCからは再延期なし、10月には開催可否の決断をと言われ、その否定に大慌ての有様です。
組織委が追加費用を発表できない理由は明白です。追加費用のうち、競技会場やプレスセンター等の箱物関連費用は容易に算出できても、コロナ関連費用は全く予想出来ないため、いつまでたっても発表できないのです。これはあと数ヶ月経っても無理なので、恐らくかなりいい加減な数字を発表するでしょう。それでも、その金額が巨額になることは確実です。全世界にワクチンが行き渡らなければ開催は不可能なのですから、無駄な投資はやめて、一刻も早く中止を決断すべきです。(以下、転載記事です)
「マネーファースト」の延期決定
―― 東京五輪の延期が決定しました。
本間 延期によって問題が解決されたわけではなく、むしろ問題はより一層深刻になってしまったと思います。今後、「マネーファースト」の商業五輪の弊害はますます拡大していきます。
まず今回の決定に至るプロセスは、まさに商業五輪の本質を暴露したものだったといえます。延期を決定するタイミングが遅れたのも、延期後の日程が来年の夏になったのも、全てカネの事情です。
もともとIOCや日本政府、東京都、大会組織委員会(大会組織委)は予定通りに東京五輪を開催したがっていました。中止になったら利益や投資がすべて水の泡で、延期でも莫大な追加コストがかかるからです。そのため、ギリギリまで判断を遅らせようとしていました。
しかし2月中に予定されていた五輪選考の予選大会はすべて吹っ飛んで、2月下旬には国際的に「東京五輪の開催は無理だ」という暗黙の了解ができていた。それでもIOCは3月17日に「開幕まで4カ月以上も前に抜本的な決断を下す必要はない」と、予定を変えない意向を示していました。
これに対して世界中のオリパラ委員会や競技連盟、アスリートから猛批判の声が上がりました。3月22日にはカナダのオリンピック委員会が「今夏開催の五輪には選手団を派遣しない」と発表する事態にまでなりました。
世界中から総スカンを食らったIOCは、翌23日に「延期を含めて検討を開始する。4週間以内以内に結論を出す」と発表しましたが、これまた批判にさらされて、翌24日の夜にバッハ会長と安倍総理が電話会談で延期を合意せざるをえなかったということです。
東京五輪は「アスリートファースト」を掲げていましたが、実際にはギリギリまでカネにしがみつこうとして、世界中のアスリートから総スカンを食らってやむをえず延期に追い込まれたということです。結局、いざという時に出てきたのはアスリートへの配慮ではなく、カネの心配だったわけです。一連の中止・延期騒動によって、「マネーファースト&アスリートラスト」である商業五輪の本質が浮き彫りになったといえます。
―― 延期決定の背景には、米放送最大手であるNBCの存在があったと指摘されています。
本間 NBCはIOC最大のスポンサーで、2014年冬季大会から2032年夏季大会まで総額120億ドル(約1兆3000億円)の契約を結んでいます。
当然、IOCはNBCの意向を無視することができない。現にIOCが延期を決定した前日には、NBCが3月23日に「いかなる結論でも従う」という声明を発表して延期を容認していたのです。IOCはNBCのお墨つきをもらわなければ何も決められないということです。
NBCが延期を容認したのは、得もしないが損もしないというソロバン勘定です。実際、NBCは「保険などで損失は出ない」と言っています。
―― 延期後の日程は「来年の夏」に決まりました。
本間 それもNBCの都合です。たとえば大会組織委の高橋治之理事は「1年未満の延期は、米国の野球やアメフト、欧州のサッカーなど主要なスポーツイベントとぶつかるため、困難」と発言しています。
結局、東京五輪はNBCがカネを儲ける手段であり、最優先されるのはNBCの意向だということです。日本はNBCのビジネスに踊らされているにすぎません。
―― 「マネーファースト」の結果、さまざまな弊害が生まれています。
本間 日本の場合でいえば、決断を遅らせた結果、コロナ対策が遅れたという側面は否定できないと思います。五輪延期が決定した3月24日以降、東京都内の感染者数は急増しましたが、そんな偶然があり得るのか。東京五輪の開催を見越して、感染者数の発表を意図的に押さえていたとしか思えない。「人命」よりも「カネ」を優先したということです。
しかしこれは今に始まったことではない。もともと東京五輪は猛暑で選手や観客、ボランティアの生命を危険に晒していました。組織委や東京都、日本政府の体質はコロナでも変わらなかったということです。
五輪経費は4兆円を突破!?
―― 延期により、大会費用がさらにかかります。
本間 ただでさえ東京五輪には莫大なカネが使われています。これまで組織委と東京都は、大会経費は1兆3500億円、そのうち組織委と東京都がそれぞれ6000億円、国が1500億円を負担すると発表していました。
しかし、実際にはもっとカネがかかっています。東京都は6000億円の開催経費に加えて8100億円の「大会関連経費」を計上しています。
国も1500億円の開催経費に加えてセキュリティ対策などの「関係予算」として1380億円を計上しています。しかし会計監査院は昨年12月、国の五輪関連予算の支出は18年度までの6年間で、既に1兆600億円にのぼっていると報告しています。
つまり、実際の経費は組織委が6000億円、東京都が1兆4100億円、国が2880億円であり、それとは別に国は五輪に紐づけてバンバン関係のない事業を行い、すでに1兆円600億円も使い込んでいるということです。五輪経費の総額はすでに3兆円を超えていますが、ここからさらに延期コストが乗っかってくるわけです。
組織委は延期経費を3000億円程度と見込んでいますが、関西大学の宮本勝浩名誉教授は延期経費が4225億円、延期による経済損失は6408億円と試算しています。このままでは五輪経費の総額は4兆円を突破するのではないか。
―― これだけカネをかけても、来年の夏に開催できるかどうかは分かりません。
本間 東京五輪の1年延期は人間の都合で決めただけで、新型コロナウイルスには関係のない話です。現在の状況は「延期・中止・開催」の三択が「中止・開催」の二択になっただけで、中止の可能性は依然として残っています。
来年コロナが収束しているかどうか分かりませんが、これからアフリカなど発展途上国に感染が拡大していくことを考えると、来年の開催も危ういと言わざるをえない。先ほど紹介した宮本教授は、東京五輪が中止した場合の経済損失は4兆5151億円と試算しています。
「開催」でも「中止」でも地獄
―― 仮に開催できるとしても、問題は山積みです。
本間 ただでさえ東京五輪には「猛暑」という問題がありましたが、さらに「延期作業」と「コロナ」という問題まで付け加えられてしまった。暑さ対策すらまともに出来ていなかったのに、これからは延期作業と並行してコロナ対策もやらなければならないわけです。その結果、暑さ対策まで手が回らなくなり、猛暑の危険性は今よりも増すでしょう。そこにコロナの危険性も加わる。2020年よりも2021年の東京五輪のほうが危険だということです。
―― 東京五輪は「猛暑」「延期作業」「コロナ」の三正面作戦を強いられる。
本間 それに「放射能」を付け加えれば四正面作戦です。しかし三正面作戦や四正面作戦というのは軍事的にありえませんからね。そもそも東京五輪の開催には無理があるということです。
しかし、もはやこの泥沼から抜け出すことはできない。これから日本はコロナの状況を見ながら、開催できるかどうかも分からない五輪の延期作業を進めなければならない。仮に開催できても、猛暑やコロナで危険極まりない大会を運営しなければならない。一方、中止になれば4~5兆円規模の経済損失が出る。「開催」でも「中止」でも日本にとっては地獄です。
私は2年前から東京五輪のことをインパール作戦になぞらえて「TOKYOインパール2020」と呼んでいましたが、まさにその通りになってしまった。東京五輪によって日本のリソースがどれだけ無駄になるのか、日本の国力がどれだけ削がれるのか。そもそもオリンピック如きに国家の命運を賭けてしまったのが間違いだったのです。これを機に、日本の衰退はさらに加速するでしょう。その意味で東京五輪はもはや行くも地獄、退くも地獄の「亡国五輪」なのです。