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『Disqualification』

「ハイツギー!!!」(和訳:はい、次)

図書館の入り口では、無愛想な小男が待っていた。
乱雑な手つき、品性に欠ける声。

「ココは叡智の楽園ヨ」

無数の本だけではない。デッサン・彫刻・人体図。楽譜や蓄音機の類まで、ここには全てがあった。
男の言う通り、ここは叡智の楽園。
しかし、訛りの強い言葉を話す彼は、お世辞にもこの“叡智の楽園”の番人には相応しくないように思える。

「目的ハ?」

しかし、そこに椅子がある以上、男に従うより他に道はない。
素直に答える。

「本を借りにきました」

古今東西の巨匠が積み上げてきた研鑽の集積。
それらを覗き、己がものとするのが自分の役目だ。
そうしなければならない。
自分こそがその権利を得るに相応しい。

「ウン」

男は、ここさえ抜ければ通行証になる紙切れを、粗雑な手つきで確かめる。
なぜこんな愚鈍そうなやつに値踏みされなければならないのか?
心の内では憤りを感じながらも、少なからずの余裕はあった。自分がここで足止めを食らうような人間ではないという自負があったからだ。

「いいネ」

それでも、男の言葉が返ってきたときに、安堵の心で体がずっしりと重たく感じられたのは気のせいでない。
思わず頬が緩む。そのまま足を踏み出す。

軽やかに踏み出したせいで、ポケットからあるものが零れ落ちた。

「あっ」
「ア〜、コレ……」

男に、落としたものを拾い上げられる。
何のことはない、ただの握り飯だ。

「コレはキミノ……飯の種だネ」
「ええ。僕も生きていかなくちゃいけないので」
「フゥン……」

男の目は、その白黒の三角形に釘付けとなる。

「中身ハ……明太子カ」
「詳しいんですね……というか、見ただけでなんで分かるんですか!?」
「カン」

面白くもなさそうにそう答えた後、彼は一拍の間を開けて、言い放った。

「やっぱりダメだネ。帰っテ」

は?

「は?」

理解が追いつかない。

「なんで?」
「卵が沢山束ねられた塊ガ、塩漬けになっタモノ……工夫もされテルし、それナリに新鮮だシ、何ヨリ味が濃クッテ美味しいよネ。デモ」

男はそれを図書館の出入口へ放り投げる。おにぎりは、開かれた扉の境界を少し超えて、地面に当たってぐちゃりと潰れた。

「館内は飲食禁止だカラ。キミ、食べ物ゼンブ置いてケル?」
「……なに無茶苦茶言ってんだよ、無理に決まってんだろ……?」

ここは単なる受付ではなく、通る者を選別する関所。そう話に聞いてはいた。だから、ここを通るだけの準備をしてきたはずだし、ここを通ってきた連中に劣るものは何一つないよう自分を鍛えてきた。
兵糧は、その準備の最たるものだ。
なぜ、それを否定される?

「ナラ、キミは不適格ダ」
「何が……何があれば通れるんだよ?ここを!」
「分かっテナイなァ」

男はケタケタと嗤う。

「何も要らナイヨ〜。逆ヨ、ギャク!持ち込んジャァいけナイ物があるダケ。ここを通りタクバ……」

男の笑みが消えた。
平坦な声がこの身を突き放し、
冷徹な視線がこの心を突き殺した。

「我執を捨てよ。」

……。

気がつけば書庫も門番も消え去って、一枚の壁だけが目の前にそびえている。

周囲を見回すと、若者が壁へと群がっていた。
ある者は歓声を上げ、ある者は蹲り。
勝者と敗者がいて、通る者と劣る者がいる。
自分はどうなる。どうなった。
関所を通った者だけが、叡智を借り受ける資格を有するのだ。
目を擦る。壁に刻みつけられた、勝者の行列を睨む。

手元にある紙切れは、何度見ても存在しない数字を示している。

「なんなんだよ、それは……」

「っ、なんなんだよォォオオッ!!」


◯◯美術大学、合格発表日。

熱い雨の降る日だった。
風の音だけが聴こえていた。

Music:ピコン『ガランド』
https://www.youtube.com/watch?v=SXC2wO1XdMI

[終]

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※ツイッター企画のお題募集( #リプライで来た要素三つで何か考える )で『図書館』『グアムの税関』『明太子』をいただきましたので、それを使わせていただきました。お題をくださったらじおかさんきっとくんくらげさん、そしてシメの二行のアイデア『スコール』をくれた亡靈さん、本当にありがとうございました。

※※この記事のコメント欄でも、お題を募集させていただきたく思います。ひとまずは先着三つのお題を基に、何か考える予定です。お待ちしています!(お題はなるべくそれと分かるようにお願いします)

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あくび侍@日常のこじつけと、非日常の筋立て。
常に前よりダサい語りを心がけます。