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廃墟の庭。少年と少女。

「ここ、君の場所?」
「私の……じゃないけど、私以外がいるのはじめて見た」
「なら、君のだ。お邪魔します」

「遠くから来たの?」
「遠く、ってほどじゃないかな。君は?」
「私?私も……遠くってほどじゃないよ」
「そう。なら、ご近所さんだ」

「なにか、話を聞かせてよ」
「んー、じゃあ……この塀の向こうの通りの向こうの丘の向こうの森の向こうの、山の向こうの街の向こうの海の向こうの大陸の、その向こうにある小さな島の話をしようか」
「気が遠くなるほど遠いところの話だね」
「ところがどっこい、そこもここも大して違いはないんだな」

「……とまあ、そんな経緯で俺は島を出たわけ」
「すごい。島で暮らし続けようとは思わなかったの?」
「思わないね。人生なんてビックリするほど短いんだから、立ち止まってたら瞬きする間に終わっちゃうよ」
「そうかな。いつまでも続いてくように思うけど」

「……それは、退屈してるからじゃない?」
「え?」
「毎日一歩ずつ一歩ずつ進んでるとさ、一生で遺せる足跡の短さに絶望するよ。寿命が今の何倍あったって、とても“遠く”になんか辿り着けそうもない」
「……」

「いや、そんな頭抱えるようなことでもないんだけどね。物見遊山に、冒険に、ロマンスに、オカルト。毎日楽しいことばっかりだし」
「ごめん、私にはよく分からない。そういう、限りある生を大事に、みたいなの」
「そう」
「私、もう死んでるんだ」

「……」
「あなたの航海日誌にはもう出てきたことある?幽霊」
「ないよ。はじめて見た」
「驚いた?」

「いや……なんとなく分かってた。まるで何百年も一人で立ち尽くしてるみたいに、飽き飽きして見えたから」
「そっか、じゃあ、あなたのオカルト噺には残らないね。残念」
「俺と来ないか?」
「え?」

「いや、どうせずっとここにいるなら、一緒に旅でもしないかと思ってさ」
「嬉しい……けど、やめとく」
「冒険が怖いか?まさか、ユーレイなのに?」
「冗談!ってこともないけど……怖い怖くないじゃなくてね、動きたくないの。ここから」

「そういうのを怖い、って言うんだぞ。今いる場所が心地いい、新しい場所なんてロクでもない。それは、未知への恐れだ」
「そうかもしれない。けど、もうほとんど覚えてないけど、ここには私が居続けるべき理由があるの。だから死んでもここから離れなかった。だから、これからもできる限りここで存え続けるの」
「俺には、逆立ちしても分からない結論だな」
「世界の果てまで進んだら、天地がひっくり返って分かるようになるかもね」

「俺は、いつも動き続けていたい人間だから、君みたいな亡霊は、とっとと成仏してしまえと思ってるよ」
「うん、分かってる」
「でも、もしいつまでも消えずに、ここにしがみつき続けるつもりなら、俺とまた会うこともあるだろう」
「なんで?」

「この世界の果てから果てまで、隅から隅まで全部廻りきったら、またここに戻ってくるからだ」
「ありえない……」
「そんで、そこまでやっちゃったら後はヒマだからな。残りの人生はとことん君に付き合うよ」
「は……

あー……

んー……どんな冒険してきたか、教えてくれるの?」

「もちろん。さぞかし壮大な冒険になってるだろうからな〜、語ってる間に消えちゃっても知らないぞ」
「はいはい、期待せずに待ってる」
「じゃ、行ってくるよ」
「いってらっしゃい」

「……あ、そうそう。君との話も冒険譚には残すよ」
「外に出るのが怖い幽霊の話を?」
「そうそう。オカルトじゃなくて、ロマンスとしてね」



そうして、気障で夢見がちな少年は旅立つ。
そして、いつかまたその場所へ辿り着く。
全世界を制覇したのかもしれないし、小さな海や、陸や、宙の片隅を巡っただけかもしれない。
本当のところは彼自身しか知らない。

ともかく、かつて少年であった老人は、
どうにかその地に辿り着いた。

廃墟の庭。老人と少女。

「おかえり」

「ここ、君の場所?」
「いいえ。

ここは、私たちの場所」



そんな言葉を交わし合うのは、遠い未来の話。
今はまだ、少年も少女も、遠くないところにいる。

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あくび侍@日常のこじつけと、非日常の筋立て。
常に前よりダサい語りを心がけます。