『完成まで』
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長い長い大きな道が、目の前に続いている。
自分と同じように歩みを進めている人間が、前後に米粒の如く見える。
空を見渡せばオーロラ。足下には霜。口からは白い吐息。
道の端から落ちたら何があるのか、道の果てまで行けば何があるのか。分からないまま足だけを動かしていく。
この道は前進を促してくる。ただ急かされるまま、歩を進めていく。
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老人 私を追い越すのか?
青年 ええ
老人 後悔するぞ
青年 いいえ
老人 君もいずれは、私のようになる
青年 構いません
老人 ……ああ。なら私も、後悔してはいない
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青年が老人を追い越すと、視界がぷつりと暗転する。
何があった?自分は道から落ちたのか?一体いつ、何を間違えた?
そうして様々な問いが浮かんでいくうち--ふと、青年は悟る。
遂に、道の果てまで来てしまったのだ。
あれほど大きく長く、無辺に感じられた道の終わり。それは唐突に齎された。慌てて振り返るも、もう戻ることはできない。
青年は孤独になった。
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青年 誰かー!?いないか?助けてほしいんだ!
青年 誰か、聞こえるか?こっちに来てくれ!ここには道がないんだ!
青年 誰か……僕を独りにしないでくれ……
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青年はずっと孤独だった。
当然だ。目の前に現れる人間を、全て退け、追い越して来たからこそ、ここまで辿り着いたのだから。
ここには誰も居はしない。
居たとして、誰も助けに来はしない。
青年が貫いてきた生き方のツケだ。
ここにはもう、何もない。
青年に、道はない。
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青年 ……道を創ればいいのか
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その限界を疑ったことがなかった道の続きを、自分の手で生み出す。
その思いつきは、そう悪いものでもないように思われた。
青年は、もう動かす余地のない足の代わりに、手を動かすことを覚えた。
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細やかな道が、後方に伸びている。
まだ他の人間が来る気配はない。
空を見渡せばオーロラ。足下には霜。口からは白い吐息。
いつまでこの旅が続くのか。旅の先に何が残るのか。分からないまま手だけを動かしていく。
前進を促す者はない。しかし、突き動かされるように、道を組み上げていく。
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私を追い越すのか?
『ええ』
後悔するぞ
『いいえ』
君もいずれは、私のようになる
『構いません』
……ああ。
なら私も、後悔してはいない。
fin.