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「いい体験」をしたことは、いつか思い出す

最近、心に残った体験

先日、エルのオフィスに、バルミューダのトースターがやってきました。秋のオフィス改装に向けて、新しく購入したものです。

社長曰く、「本当においしくトーストが焼けるんだよ」とのこと。それなら早速試してみよう!と、本社メンバーで使ってみることに。私にとっては、初めてのバルミューダ体験でした。

用意したのは、食パン一本にバター。それから、チーズやハム、チキンやレタスなど、パンに合いそうなものたちです。
まずは、王道のバタートースト。食パンを分厚くスライスし、その上にバターをひとかけらのせて、トースターへイン。焼けていく様子を、小窓からじっと見守るメンバー。

最初はじっくり蒸気を閉じ込め、最後は一気に焼き上げて、小気味いい音とともにできあがり。こんがりした焼き目の上で、じゅわじゅわと溶け出すバターに、思わず歓声が上がります。

じゅわじゅわ…

熱々のうちに、一口。

さくっ…。

お、おいしい…!「〇〇なくらいおいしい」の、〇〇が出てこないくらいおいしい……!!
表面に焦げ目がついているだけじゃない。パン全体を、抱きしめるように焼き上げた感じ。中はもっちり、外はさっくり。よく聞く表現が、こんなにしっくりくるなんて。
おいしいね、と、感動を分かち合いながら食べました。バタートーストをぺろっと食べたあとは、ハムとチーズをのせたり、レタスとチキンを使ってピンチョスにしたり。一本あった食パンは、あっという間になくなりました。みんなでトースターを囲んで、とても楽しいお昼の時間になりました。

この体験以来、私はバルミューダトースターのことを、ただ「おいしいトーストが食べられるもの」ではなく、「囲む人たちと楽しい時間をつくるもの」だと認識しました。またみんなで何か焼いてみたいし、リモートメンバーが本社に来たときは、ぜひ一緒に使いたいと思っています。

サービスを使って、いい体験をする。いい思い出になる。また使いたいと思う。これこそ、私たちがデザインを通じて提供したい価値のひとつだと思います。

いい経験は、心に残ります。バルミューダトースターを使っていい時間を過ごしたことで、改めて実感しました。
今回は、誰かにとっての「いい体験」をつくるために、普段考えていることをまとめました。


提供できる「いい体験」とは何かを考える

体験とは、サービス提供者とお客様の間に生まれる、唯一無二の物語のことです。そのため、まずはクライアントが提供できる「体験価値」を言語化しする必要があります。

「いい体験」を大きく分けると、「マイナスな感情をプラスにしてくれるもの」「プラスをより大きな数字にしてくれるもの」の2つに分類されると思います。

マイナス→プラス
例①
歯が痛くて困っていたのを、歯医者さんに治療してもらって、おいしくご飯が食べられるようになった。
例②
トイレが故障して困っていたけど、修理してもらえて助かった。

プラス→プラス+α
例①

おいしい食事をしたくてお店に行ったら、料理の他にも接客や雰囲気が素晴らしくて、大満足できた。
例②
インテリアに悩んでいたけど、トータルコーディネートをしてもらって、とても素敵な部屋になった。

お客様に提供する価値は、マイナスをプラスにするものなのか、プラスをより大きな数字にするものなのか。そしてそれは、どんなときに、どんな人に対して起こりうるのか。そう考えていくと、「自分たちにしか提供できない体験価値」が見えてきます。

100人中100人に、「いい体験」と思ってもらうことが目標ではありません。大切なのは、「届けたいひとりの人」に、しっかり届けることです。そのために、次の段階では「誰に」届けたいかを考えていく必要があります。


ペルソナの「人生」を考える

体験価値を整理したうえで、ターゲットを具体化した「ペルソナ」という存在を定義します。このとき、どんな人なのかだけではなく、その人が、どんな人生を送っているのかまで考えるようにしています。

その人は今、どんな状態で、どんな悩みを抱えているのか。
どんなことに幸せを感じて、どんなことに怒りを抱いて、どんな願いを持っているのか。

その人の人生にまで思いを馳せると、この人に刺さるメッセージを見つけやすくなります。
でも、単なる妄想になってはいけません。ペルソナの人生を考えるには、データと想像力が両方必要です。まずは、クライアントが普段接しているお客様はどんな人が多いか、どんな相談を受けることが多いかを、丁寧にヒアリングします。そのうえで、キーワード調査をしたり、アンケート調査を行ったり。身近にペルソナと近い人がいる場合は、「あなたはこんなときどうする?」と聞いてみることもあります。客観的なデータと、できるだけ生身のデータの両方があると、想像の土台がしっかりできます。

そのうえで、想像力を働かせます。

例1:27歳 女性 東京郊外在住 会社員
片道1時間弱かけて都心部に通勤している。毎日満員電車にストレスを感じている。の通勤時間をもっと有意義に使いたいと考えているが、具体的なアイデアは見つけられていない。仕事を変えるほど今の仕事が嫌いではないが、生活スタイルは変えたいと思っている。

例2:35歳 男性 地方在住 会社員
そろそろ家を買いたいと思っている。でも、心配性なのでなかなか踏み切れない。丁寧に相談に乗ってくれる、友人のような存在を探している。優柔不断だが、自分がいいと思うものはとことん好きなタイプ。奥さんのほうが発言権が強い。じっくり話し合うのは嫌いではない。

誰かの人生を想像するときは、できるだけ視野を広く持たなけばなりません。自分ではしない行動パターンを持つ人も、自分とは違う判断軸を持つ人もいます。自分の主観に囚われないことが大切です。
また、注意しなければならないのは、「ペルソナは思い通りには動かない」ということ。ペルソナにも生活があります。新しいサービスが入り込む余地はないかもしれません。だからこそ、ペルソナが潜在的に求めていることに気づけるよう、彼らの人生、つまり彼らを取り巻く状況について深く考える必要があります。


ペルソナの「多面性」を考える

人間には、たくさんの側面があります。人と話すのが好きな自分と、一人が好きな自分は共存します。
さらに、ときと場合によって、感じ方や判断の仕方は異なります。疲れているときにほしいことばと、気合を入れたいときにほしいことばは違います。そのためペルソナについても、一側面だけを見るのではなく、多面性を考えるようにしています。

たとえば、新たに開店するカフェをクライアントとして、以下のようにペルソナを定義したとします。

クライアント
新規開店するカフェ

コンセプト
頑張っている大人が、ほっと一息つける
ひとりでゆっくりできる場所

ペルソナ
30歳 女性 独身 会社員

彼女は会社ではどんな人で、プライベートではどんな人なのか。仕事のどんなところにやりがいを感じていて、家ではどんなことに喜びを感じるのか…複数の面から彼女を捉えると、次のようになります。

側面①
仕事はバリバリできて、出世意欲が高い。上司や部下からの信頼も厚い。言いたいことははっきり言うようにしている。

側面②
家では極力楽をしたい。家事をする時間があるなら、だらだらとYouTubeやSNSを観るほうが幸せ。仕事をスムーズに進めるためにはっきりとした物言いはするが、繊細で気にしいな部分もある。

側面③
休日は外食することが多い。一人で居酒屋で飲むのが好き。あまりがやがやしすぎず、かしこまりすぎてもいないカウンター席があるとうれしい。会社の飲み会のような、大人数の集まりは本当は得意ではない。

ここまで想像したうえで、提供するサービスが、彼女の生活にどんな影響を与えられるかを考えます。

仮説
彼女は仕事がとてもできるけど、人に弱みを見せるのが苦手なタイプ。潜在的に、「一人になってゆっくりしたい」という要望が強いのではないか。
そんな彼女にこそ、仕事帰りや休日にふっと心を緩めてもらえる場所として、うちの店を選んでほしい。
Wi-Fiがあることや、一人でも長居できることを印象的に伝えたい。「ここではありのままに、思うままに過ごしていい」というメッセージを届けたい。
リラックスした時間にSNSをよく見るのであれば、インスタ広告を打つのはどうだろう。独自のハッシュタグを作ってユーザに拡散してもらうのはどうか。……

架空の人物としてペルソナを捉えるのではなく、同じ世界に実在する人物として捉えること。この社会で毎日生きていて、いろいろな人と関わって、いろいろな感情を抱いている、ひとりの人間だと理解すること。そうすることで、提供できる「いい体験」の解像度がぐっと上がる気がします。


論理的かつ感覚的に考える

ここからは、主にWebサイト制作の話になります。

Webサイトには、ユーザー体験ということばがよく使われます。そのことばが包括する範囲は広く、使うときにストレスがないか、ほしい情報にすぐたどり着けるか、予期せぬ動きをしないか、といった機能的なことから、感覚的に心地がいいか、愛着が湧くか、遊び心があるか、といった情緒的なことまでをすべて含みます。
ユーザー体験をよくするために、工夫できることはたくさんあります。でも、ただ技術を詰め込めばいいというわけではありません。大切なのは、そのサイトを使う人によって、最適な方法を取り入れることです。

エルではWebデザインを行うとき、左脳的な考え方と右脳的な考え方、両方から「心地いい体験」を考えています。
それを実現するために、最初の打ち合わせにはデザイナーも同席し、情報を整理する時間を丁寧に取っています。ディレクターが情報設計とサイトマップ作成を行い、デザイナーはそれをもとに、ワイヤーからデザインに入ります。伝えたいことを伝えるための導線設計と、「らしさ」を表現したビジュアル、そのバランスを常に意識しています。そうすることで、論理的にも感覚的にも「いい」デザインが生まれます。


細かいところを考える

Webサイトはちょっとした変化で、受ける印象が異なります。

デザインだったら、
どんなフォントを使うか。テキストカラーには何色を使うか。写真の大きさはどれくらいにするか。

コピーだったら、
句読点をどこに打つか、あるいは打たないか。語尾をどうするか、マイクロコピーは適切か。

モーションだったら、
マウスホバーしたときにどんな変化があるか。画面はどのように遷移するか。イラストや写真の出し方をどうするか。

この細かな部分が、ユーザー体験の質を左右します。だからこそ、妥協はできません。
公開前のクリエイティブチェックでは、これでもかというくらい細かく質を確認します。使うユーザの立場になって、いい体験を提供できているか、もっとよくなる方法はないか、常にチームで考えています。


「いい体験」は、人生の大切な1ページになる

人は、体験からものごとを判断しやすい生き物だと言われています。
一度行って雰囲気がよかった店は、次にお店を決めるときに思い出します。幼いころ遊びに行って楽しかった場所は、大人になっても行きたくなります。
長期的にブランドを育てていく場合は、「その商品・サービスに触れた人が、心に残る体験をできるか」を考えることが重要なのではないかと思います。

いい体験とは、心の「大切なもの」ボックスにしまわれて、必要なときにふっと取り出せるものなのではないでしょうか。

届けたいあの人に、「いい体験」を提供する。そのために、デザインとことばは何ができるのか。この視点を、忘れないでいたいと思います。

(あと、バルミューダのトースターも買います。)


【デザイナー募集中!】
私たちは、一緒に「らしさ」をつくるデザイナーを募集中です。

デザインスタジオ・エルは「超えるをつくる」を合言葉に「らしさ」をデザインするWeb制作会社です。
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