LEGO Groupのリードコンセプトデベロッパーが語る、デジタルとフィジカルにおける遊びのユニバーサルデザイン
ダイバーシティやインクルージョン、そしてアクセシビリティはもはや単なる流行語ではなく、多くの人々がユニバーサルデザインによってこれを広めようとしています。LEGO GroupのリードコンセプトデベロッパーであるBret Schafbuch氏とのインタビューから、それがどのように進んでいるのか学びましょう。
・・・
職場におけるダイバーシティやインクルージョン、そしてアクセシビリティの重要性に対する共通認識が高まるにつれて、この機運は顧客のマインドセットにも広がり始め、顧客はそれぞれが支持するブランドや企業に対してより多くを期待するようになっています。さらに、明らかに「あらゆる人たち」を念頭に置いてデザインされていない古いシステムや時代遅れのプロダクトサービスに対して、社会は疑問を持つようになってきているのです。
このような状況から、ユニバーサルデザインの原理を学ぶことが意味を持つようになってきました。この言葉は元々1960年代にアメリカの建築家であるRonald Mace氏が生み出したもので、「すべての年代とあらゆる障がいを持つ人たちのためのデザイン」という彼の哲学を表現したものでした。彼はポリオ(急性灰白髄炎・小児麻痺)が流行した時代に育ち、ポリオウイルスに対する予防接種が普及する前、9歳の時にポリオに感染しました。彼は幼少期に移動の自由を失い、結果として車いすを使うことになりました。当時は公共建築のデザインにおいて障がいを持つ人を包摂することが十分に考えられていませんでしたが、彼は自身の障がいのゆえに、デザインの欠陥に気付くことができたのです。この経験から、ユニバーサルデザインと言う言葉が誕生したのでした。今日(こんにち)においても、障がいを持つ人たちのためのデザインに関しては私たちの世界はまだまだ発展途上であると言えます。
社会全体としてはまだまだでも、誰でも平等にアクセスできる世界にするために努力している人たちは数多くいます。私たちはLEGO GroupのリードコンセプトデベロッパーであるBretにインタビューする機会を得ました。彼はLEGO GroupのCreative Play Labにあるプレイエンジニアリング部で働いています。このラボは、子どもと大人がLEGOで遊ぶ体験のデジタル/フィジカル両面のコンセプトを研究するものです。Bretはユニバーサルデザインに熱心なデザイナーであり、2022年のコペンハーゲンでのDesign Mattersでより深く語ってくれる予定です。ユニバーサルデザインとはそもそもなんなのか、そしてなぜデザイナーがこれをワークフローに取り入れなければならないかについては、以下をご覧ください。
―― ユニバーサルデザインとはなんでしょうか? あなたのお考えとそこから導きだされた戦略、そしてLEGOでの遊びをデザインする中にどのように取り入れられているのか、お聞かせください。
この用語は元々1960年代に建築家のRon Mace氏によって作られたものです。
Center for Universal Designは、プロダクト・サービス・環境のデザインのために以下の7つの原則を導き出しています。
誰でも使えること。そのデザインは多様な能力の人たちに届き、使えるものである
柔軟に使えること。そのデザインはさまざまな個人の嗜好と能力に対応するものである
シンプルで直感的であること。ユーザーの経験や知識、言語能力、集中力に関係なく、使い方が理解しやすいこと
情報を届けられること。周りの環境やユーザーの知覚能力に関係なく、効果的に必要な情報を伝えられること
誤操作に対する耐性があること。予想外の、意図しない操作による悪影響を最小限にすること
身体的な負担が低いこと。疲れを最小限にしつつ、快適かつ効果的に使えること
使うための大きさと場所。ユーザーの体の大きさや姿勢や移動能力に関係なく、近づき、操作し、使うための丁度よい大きさと場所を用意すること
LEGOグループでのデジタル/フィジカル両面でのインタラクティブなプロダクト体験に関して言えば、できるだけ多くの子どもたち、そしてあらゆる世代の人たちに満足してもらえるような遊びの体験を提供するために、子どもの発達について理解を深め、遊びと創造を基本の要素として考えることです。
先に紹介した7つの原則は、デザイナーにとってはあらゆるデザインに共通する基本的なガイドラインだと思えるかもしれません。私の作品では、ユニバーサルデザインのアプローチの中に少なくとも3つの特徴を考慮しています。
遊びを通じて学ぶ
子どもたちには、なにかを言われてではなく主体的に体験してほしいと思っています。どうすればインタラクティブな体験が有意義で楽しいもの、積極的に関わるもの、複数人のグループの中でインタラクティブなものになるでしょうか?
子どもの発達における違い(年齢など)
たとえば、性別を問わず4歳の子どもと10歳の子どもではその能力がまったく違います。7歳の子どもならどれだけ読み書きができるでしょうか?
私たちが子どもから学ぶ
私たちはフィジカルなプロダクトにおけるインタラクティブな体験をテストし、デジタルと同時に作ります。多様なグループによるテストから直接学べることはどんなことでしょうか?
―― アイオワ大学の記事の中で、子どものパラダイムと大人のパラダイムは同じではないとおっしゃっていました。デザインをする場合、またプロトタイプを作る場合、さまざまな人間の能力を念頭に置きながらデザインするにはどうしたらいいのですか?
一般的に、多くの共感デザインのアプローチも、大学や企業が掲げているアクセシビリティに係るガイドラインも、扱っているのはさまざまな人間の能力についての情報の集め方と、そこから得られた情報のインタラクティブデザインプロセスへの活かし方です。インタラクティブなインターフェースについては、私たちは学ぶことの力を信じていますから、私たちはCAST(教育についてのリサーチと開発を行う非営利の組織)の「Universal Design for Learning guideline」を参照して、体験の中での表現や行動のための複数の手段を提供するにはどうすれば良いかを考えています。
私の出発点は、「個人個人のニーズに合わせてカスタマイズできる柔軟なアプローチを使って、あらゆる人に対して開かれた体験を作るにはどうしたら良いか」という問題意識です。
子どもたちのアプリの使い方の例
騒がしい教室と家
騒がしい環境で音声と映像のあるアプリと一緒にLEGOを使うと、音声を聞くことは難しいでしょう。このような環境でユーザーにアプリのコンテンツをより良く伝えるためにはどうしたらいいでしょうか。たとえば、映像に字幕を付けたり、再生速度を変えたり巻き戻したりできる機能を付けることが考えられます。子どもたちは活発に動き回るので、ケガをすることもある
眼帯をしている子どもや、三角巾で腕を吊っている子どもがいたらどうでしょうか? 彼らにもアプリは使えるでしょうか? たとえば、やり直しの機能やオートセーブ機能が有効かもしれませんし、仰向けに寝た状態でタブレットを使うことを想定して親指で操作できるようにしたり、テーブルに置いて使うためにその他の指で操作できるようにしたりすることも考えられます。ユーザーインターフェースのスタンダードを疑う
大人向けのアプリの多くは、チュートリアルが複数の画面から構成される場合、たとえば3ページある場合には3つの点でそれを表します。これはある種のスタンダードですが、果たして7歳の子どもにとっても当然のものでしょうか? 私たちは、小さな子どもたちに対するイントロダクションとしては、動画やミニゲームのような体験の方が適していることに気付きました。書体と読みやすさ
失読症(ディスレクシア)の子どもたちにとって読みやすい文字については多くの研究がされてきました。たとえば私は”A"を小文字で書くときに下図の下の"a"を使うことにしています。後者の方が、子どもが覚えている書き方に近いからです。
―― 知覚あるいは身体の能力に関しては、限界や欠如といった問題もあります。あらゆる人を念頭に置きながらデザインし、問題を解決するためには多様性のあるチームを持つことが重要だと思いますか? 私たちはどういうことを考慮し、どんな点に気を付けたらよいでしょうか。
間違いなく重要です。きわめてシンプルであるように思えますが、こうした限界や欠如といった要素は非常に個人的なものなので、間近にいることで大きな影響を受けることになります。
私たちがLEGO Groupで多種多様な子どもたちと家族のグループを対象にテストを行うのはこのためです。私たちのアイデアの問題点を見つけ、素早く対処法を学んで作り直し、やがて世界中の子どもたちに届くようなものを作るためです。
また、単純にダイバーシティやインクルージョンを達成するとしたら、一緒に働くことで違いを知ることができ、またそれぞれ異なるものの見方を示してくれるような多様な人材を集めることが自然です。意識して障がいを持つ人や異なるバックグラウンド、知識、経験、ものの見方、信念を持つ人をデザインプロセスに巻き込むことはインクルージョンを促進しますし、たとえば社内で使うツールのデザインにも影響を与えます。私たちがインクルーシブになればその分、あらゆる人のためのデザインがうまくできるようになるのです。
―― インクルージョンとアクセシビリティを考慮してデザインをする上で、忘れてはならない強力なトレンドはありますか?
高齢化社会と、平均寿命の伸長です。
また、個別性を高める一方で、デジタルを通じてより繋がるようになる社会においては、能力や要望、プライバシー、権利といったものについての個別のニーズに注目することが必要になると思われます。
―― ユニバーサルデザインの世界で、今後5年間にどんなことが起こると思いますか?
高齢化する社会ではより広く使われる体験が求められると思います。たとえば健康のための器具とサービスのデザインや、知覚、健康、知能の減退に関する考慮などが必要になってきます。
ダイバーシティに関する意識が社会全体で高まるにつれて、ユニバーサルデザインは物事を誰にとってもアクセス可能で利用可能にするためのアプローチとしてもっと受け入れられるようになるでしょう。
―― なぜデザイナーはユニバーサルデザインの原則に気を付けなければならないのでしょうか?
デザインを学んだ者の1人として、なにかを作る、多くの場合は才能に溢れた同僚と一緒に作るというときには、自然と自分の責務とクリエイティビティに突き動かされます。年齢や障がいなどの要素に左右されずに、あらゆる人が使えるようなプロダクトやサービスをデザインする場合には特にそうです。私はこのような仕事を誇りに思います。
端的に言えば、手軽でアクセシブルなデザインを手がけることが、人々の生活を良くすること、誰かを笑顔にすること、誰もが存在を認められ、尊敬されていると感じられるような表現を作り上げることに繋がってほしいと私は考えています。
ユニバーサルデザインが影響を与えるのは本来想定されているオーディエンスだけではありません。私たちは誰でもケガをしたり、既存のサービスやプロダクトを使うことが難しくなるような出来事に出会ったりする可能性があります。ですからひと言で言えば私たちは、人間に起こりうるさまざまな状態や条件においてもっと普遍的に使えるようなデザインを考えているということです。
Written by Adrienne Hayden (Design Matters)
Translated brought to you by Flying Penguins Inc. 🐧
・・・
Design Matters Tokyo 22、チケット販売中!
デンマーク発のデザインカンファレンスが日本に再上陸。2022年5月14日-15日に開催されるDesign Matters TokyoではGoogleやTwitter、LEGOなどのグローバル企業はもちろん、Whatever、Takram、みんなの銀行など国内のデザイン先駆者たちも勢揃いで、先端のデザイントレンドについてのトークが盛りだくさんです。プログラム、チケットなどの情報は https://designmatters.jp をチェック。