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デザイナーはAIとどう向き合うべきか

本記事は北欧のデザインメディア DeMagSign の翻訳記事です。
元記事はこちら:A Conversation on Artificial Intelligence With Designer Joël Van Bodegraven

AIの生み出すものは魅力的ですが、共感性、創造性、そしてコンテキストは欠けがちです。だからこそデザイナーには、AIのアウトプットが有害な方向に進まないようにし、データやモデルの包括性を守るような倫理的な枠組をデザインするという責任があるのです。

Joël Van Bodegraven氏はAdyenというアプリのプロダクトデザイナーで、AIと機械学習、予期的UXと予測的なデザインに力を注いでいます。最近では、AIの専門家たちと一緒に電子書籍「Artificial Intelligence Driven Design」を執筆し、AIを用いた製品やサービスが主流となっている時代においてどうやって有意義な体験をデザインするかという論点を深く考察しています。

私たちは、デザイナーとしてAIを扱うことの醍醐味や、どんなデザインの原則をAIに当てはめるのか、そして自分の仕事にAIを取り入れるときに、デザイナーが取り組むべき倫理的について、彼に語ってもらいました。

Joëlによる電子書籍のダウンロードはこちらから(画像:awwwards

──デザイナーとしてAIの仕事をすることのどんな部分にワクワクしますか?

デザイナーであれば、スムーズな体験を届けたいと思うものです。Hyper Islandでの修士時代、私は不必要な選択をすべて取り除くため、機械学習に基づく予期的なユーザー体験の研究を行っていました。取り分けこの新型コロナウイルスによるパンデミック環境下においては、人々は在宅勤務を行って24時間オンラインの状態にあり、毎日過剰な情報を目の当たりにしています。このような状態は「選択疲れ」に繋がることが多いです。過剰な刺激をひっきりなしに受けて、的確な意思決定ができにくくなっているのです。私はこの問題に対してAIが多大な貢献をできると考えていますし、AIとアルゴリズムを扱って仕事をする面白みを数多く見出しているのはこの部分なのです。さまざまなアイデアやコンセプトを実験するための副次的なプロジェクトを手がけることがほとんどです。

──AIと機械学習は相互にどのように関係しているのでしょうか?

これはとても大事な観点ですね。人工知能は主としてデータドリブンなものです。機械学習とは、機械がデータから学習できるようにするためのAIの集合です。機械学習がAIを育てるとも言えるでしょう。

──AIはデザイナーにとってどんな役に立つのでしょうか? デザイナーの助けになるような、AIを使ったツールなどがあれば教えてください。

AIは一定の結果を予測するという点において非常に役に立つと私は考えています。たとえばデザインパターンに関して言えば、AIは世の中にあるすべてのデザインパターンを見つけられるように訓練し、用途に合わせた最善のデザインパターンを予測することができます。スタイルやイメージの使い方からページのレイアウトまで、パターンは膨大な数になります。しかし、AIの結論は常に0か1かであり、そこに共感やクリエイティビティや文脈はありません(AIは、なぜデザインパターンがその用途に使われているかということを考慮できません)。私たちデザイナーは常にクリエイティブなプロセスをリードすべきなのですが、AIを使っていくつかの仮定を検証することもできます。Figma、Sketch、Framer、Adobe XDといったツールがAIの可能性を示す第一歩になってくれたらいいと思います。

──では、良いAIをデザインするにはどうすれば良いでしょうか?

私たちは人工知能をデザインすることができません。AIは、AI自身がデザインするのです。私たちにできることは、AIのアウトプットが有害な方向に進まないようにしたり、データとモデルの包括性を堅持するような倫理的な枠組を作り出しデザインすることくらいです。私たちデザイン業界にはこのことを考えて、行動を起こす責任があると思っています。

人工知能のアルゴリズムにおけるバイアスには注意が必要です。こちらは、ニュースのタイトルの例です(出典:Towards Data Science

──デザイナーがAIについて知っておくべきことは何ですか? AIと仕事をするには、コンピューターサイエンスの専門家でなければならないのでしょうか。どの程度の知識が必要で、その中で最も重要なことは何でしょうか。

AIについて学ぶべきことはたくさんあります。どこから始めたらいいか分からず、圧倒されてしまうこともあるかもしれません。だからこそ私は、AIのコンセプトをできるだけシンプルに説明するために、AwwwardsとAIのエキスパートたちと一緒に電子書籍の執筆を始めたのです。私たちが機械学習に基づくユーザー体験に関わる機会は増えていくので、AIと機械学習の基本的なコンセプトを理解するためにはこの電子書籍が役に立ちます。たとえば、NetflixのUIは基本的にAIによって作られており、ユーザーの行動やパターンに基づいています。

もしAIについて学びたいのであれば、AI Driven Designや、私の友人であるPedro Marques氏が書いたthis great GitHubというレポートを読んでみることをお勧めします。Pedroは、機械学習とは何か、機械学習で何ができるのかを自分自身で体験できる場を用意してくれています。

──もしAIに関するデザインの原則を5つ挙げるとしたら、どんなものでしょうか?
私たちはAIのエキスパートたちや、AIを用いたプロダクトを開発してきたデザイナーたちとの対話を経て、次のような原則を考えました。

  1. 最小限のインプットと最大限のアウトプット
    私たちの生きる現代においては、決断疲れのような現象が当たり前になっています。私たちは絶え間なく浴びせられる通知、刺激、期待に何とか対処しなければならないのです。この問題を解決するには、AIが私たちに代わって「手間のかかる作業」をする必要があります。簡単にアウトソースできるような無数のタスクを考えてみてください。Nestは最適な温度を設定することでこの役割を果たしました。Uberは仲介人を排除し、タクシーの予約を簡単にしました。GoogleのAIは自動返信を提案することで、メールに付加価値を提供しています。

  2. 許しのデザイン
    AIを駆使したのプロダクトは、ユーザーデータとインプットに依存しています。しかし時には、提案された歌やシリーズや動画などがユーザーのニーズにマッチしないこともあります。ここに、許しの出番があります。フィードバックのループを追加することで、私たちはユーザーに学習モデルをトレーニングしてもらうことができます。良質な学習モデル、予測モデルにはフィードバックのループが不可欠です。

  3. 信頼のデザイン
    AIの進歩のカギとなるのはデータです。私たちデザイン業界には、ユーザーのデータとプライバシーを守る重大な責任があります。私たちは倫理的なデータ管理を支持し、リスクについて同業者を教育しなければなりません。デザインにおいては、私たちがユーザーの何を知っているのか、それをどのように使うのかを常に明らかにしておく必要があります。できれば、ユーザー自身がそれらのデータをコントロールできて、必要に応じて修正できるようにしておくべきです。

  4. 体験に人間味を持たせる
    私たちとテクノロジーの関係は長い時間を経て変化してきました。AIが自殺願望を止めるためにさえ使われている中国のような国では、人々は自分のデバイスにぴったりくっついているように感じるでしょう。体験に人間味を持たせることによって、ユーザーはその特定のサービスや製品に親近感を抱くようになります。

    Googleが最近発表した、ユーザーがGoogle Homeをどのように使っているかを調査した結果を見ると、あることが分かりました。ユーザーは、まるで人間のようにGoogle Homeと接していたのです。音声で指示を出した後に、「ありがとう」や「ごめんなさい」などと言っていたのです。これは、人間と機械の関係における人間性に可能性を見出すような発見です。映画「Her」は、デザインやテクノロジーと人間との繋がりがどのように絡み合うかについての多大なインスピレーションを与えてくれました。

  5. 選択肢を絞り込むデザイン
    あなたの作業工程、デザインの中で、不必要な選択を減らすようにしてみてください。これによってユーザーの頭の中に余裕が生まれ、私たちが考えもしなかったような結果さえ生まれるかもしれません。もう一歩先を見据えたデザインができるようになるかもしれません。

──お気に入りのAIデザインを3つ教えてください。
Netflix、Gmailの自動返信機能、Spotifyです。

──AIとAIへの偏見についてお伺いします。AIに関するもっとも典型的な偏見とはどのようなものでしょうか? 特にジェンダーや人種についてのバイアスをよく耳にします。これは、ソーシャルメディアのクリエイターや、その採用においても問題になることでしょう。その他にはどんな偏見があると思いますか? また、AIからバイアスを取り除くためにどんな取り組みしていますか?

最も典型的なのは、自動化・ジェンダー・データに関するバイアスです。Nadia Piet氏はAIとバイアスに関して素晴らしい電子書籍を著しました。これらの有害なバイアスを軽減するのは大きな課題で、機械学習のトレーニングモデルのための倫理的な枠組を作ることから始めなければなりません。

(出典:Artificial Intelligence Driven Design, Chapter 4, written by Nadia Piet)

──AIに関してどんな倫理上の懸念を持っていますか?

私が最も懸念しているのは、有害なバイアスについてです。AIは0か1かのものであり、感情的な知性を持っていません。たとえば、もしAIに病院を任せたとしたら、ほとんどの患者は死んでしまうでしょう。それが、最も効率的で有意な結果だからです。AIは、患者の感情や彼らの生きたいという気持ち(どれほどその望みが叶うかは別として)を考慮しません。ですから、私たちはトレーニングモデルの中で私たち自身の人間としての価値を守る責任があります。Nadiaのような人がこうした問題について考え、この分野で働く人たちのために何らかの枠組を定義しようとしているのは喜ばしいことです。

これについてもっと知りたい方は、私たちのコミュニティAIxDesignに是非参加してみてください。

AIxDesignのWebサイトにあるサービスとリソースの一例

──私たちはデザイナーとして、どうすればもっとAIに人間味を持たせることができるでしょうか? VICEは「ある科学者がAIに口説き文句を教えたところ、混沌とした結果になった」という記事を投稿しました。想定外の、あるいはワクワクするようなAIの使い道はあるでしょうか?

私はこのような実験が大好きです。AIにどれほどコンテンツや共感性が不足しているかをはっきりと示しています。私は、AIが生み出すアートが大好きです。私のお気に入りのプロジェクトの1つに「Learning to see」というものがあります。

人工的なニューラルネットワークがライブのWebカメラからの入力を予測し、以前に見えたものから今見えているものの意味を導き出そうとしています。私たちと同じように、AIは既に知っているものしか見ることができないのです。

Written by Giorgia Lombardo (Design Matters)
Translated brought to you by Flying Penguins Inc. 🐧

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Design Matters Tokyo 22が来年5月に開催

Design Matters Tokyoは世界のデザイントレンドが学べる、コペンハーゲン発のデザインカンファレンスです。次回は2022年5月14日-15日に開催予定です。GoogleやTwitter、LEGOなどのグローバル企業はもちろん、今年はWhatever、みんなの銀行など国内のデザイナーも登壇予定です。イベントに関する情報はSNSを中心に発信していきますので是非フォローください(カンファレンス参加しない方も大歓迎です)。

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