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Twitterのシニアデザインディレクターが教える失敗との付き合い方

本記事は北欧のデザインメディア DeMagSign の翻訳記事です。
元記事はこちら:Learning to embrace your fuckups with Twitter’s Sr Design Director, Anita Patwardhan Butler - DeMagSign

プロダクトをデザインすることは旅路であって目的地ではありません。その旅路では、どうしてもミスをすることがあります。Twitter社では、ミスをすることは仕事をよりうまく進めるためのチャンスだと見なされます。Twitter社のチームが同社で起きたいくつかの失敗とそこから学んだこととは、どのようなものだったのでしょうか。

5月に東京で開催されるDesign Matters Tokyo 22のテーマのひとつは、「失敗を受け入れる」ことです。

私たちは長い間、「失敗するのは恥ずかしいことだ」と教えられてきたので、失敗すること、面目を失うことを非常に恐れ、失敗について話すこと自体をほとんどタブーのように考えるようになっています。失敗を犯すと、私たちはだんだんと自分を責めるスパイラルに陥ってしまい、自分がつまらないもののように考えてしまうことが多いです。デザイナーは特にこれに当てはまります。彼らは厳しいグローバルな競争を勝ち抜かなければならず、アイデアとソリューションを思いつかなければならないというプレッシャーに常にさらされているのです。

世の中では有名なデザイナーや起業家のサクセスストーリーが持てはやされていますが、それらは多くが美化されており、失敗について触れられることはありません。なぜでしょうか? もしかしたら、自分の成功は自分で掴むしかない、一生懸命努力しなければ成果は得られないと私たちが教えられているからかもしれません。そうして私たちは、自分のいましていることの正しさを他の人に確認してもらうことばかり考え過ぎるようになっているのです。失敗を認めることには勇気が要りますが、一方で、認めることができれば私たちの人生を良い方向に変えることもできます。また、特にデザイナーにとって失敗は、素晴らしい学びの機会でもあります。Design Matters Tokyo 22ではそのような「デザインをする上での失敗」を扱い、私たちが持つ弱さやある種の正しさ、そして共感について話をしたいと思います。

今回私たちはTwitter社のシニアデザインディレクターAnita Patwardhan Butler氏と、Twitter社の失敗に対するアプローチとその実例について話をしました。

Anitaは5月のDesign Matters Tokyo 22に登壇し、自身の失敗と、失敗との上手な付き合い方について話をしてくれます。チケットはこちら

――Twitter社のデザインチームにおける、失敗に対する態度とはどんなものなのでしょうか? よろしければ、うまく行ったこと、行かなかったことそれぞれの例を挙げていただけますか?

Twitter社では、失敗も成功もどちらも大切にしています。失敗を恐れていては限界を越えることはできませんし、自信を持つこともできません。失敗はイノベーションの一部であるだけでなく、絶対に不可欠な要素であると私は信じています。考えてみてください。失敗の繰り返しから始まった素晴らしいイノベーションは数多くあります。Henry Ford氏の自動車も、Dyson氏の掃除機もそうです。Steve Jobs氏がiMacとiPodにたどり着くまでには長い道のりがありました。彼らは皆、何年にも及ぶ数えきれないほどの失敗を経てプロダクトを生み出したのです。

Twitter社が大事にしているのは、「挑戦なくして成功なし」という原則です。私たちは勇敢に、野心的な目標を設定します。私たちは長期的に考え、行動を第一とし、自分たちの成功と顧客に与えるインパクトを最大化するために相当なリスクを取ります。

Twitter社における失敗とは、学びと振り返りの機会であり、より賢いやり方でまた挑戦を始めるための機会です。デザインとはプロセスであって、目的ではありません。そのプロセスの中では失敗することがあるでしょう。私たちはまぐれ当たりよりも学びを大事にしています。本当にイノベーションを起こしたいなら、居心地の良いところから一歩踏み出す努力をしなければなりません。失敗を恐れずに懸命に努力しなければ、素晴らしい結果は得られません。

最初うまく行ったものの、1年後には失敗したプロジェクト:Fleets

Fleetsになにが起こったか
2020年にテストを始め、同じ年にTwitterに導入した新たなプロダクトがFleetsです。ユーザーに自分の考えをシェアしてもらい、オープンな場での会話に気軽に参加してもらうというコンセプトでした。

導入から数か月の期間は、多くのユーザーをワクワクさせて彼らを引きつけていました。しかしその後、プロダクトの成長と使用状況は低迷しました。

原因の深掘り
私たちは社内のチームに、なにかがうまく行っていないときには早急に動き、データに裏付けされた確固たる決断を下すように促します。Fleetsのデータを詳細に分析した結果、私たちにとって重要な指標である、ユーザーがツイートを発信するFleetsのコンポーザー機能の使用頻度が低迷していることがわかりました。

さらに、私たちがFleetsのユーザーとして想定した人たち(ツイートに積極的でない人たち)は必ずしもFleetsを使っていませんでした。使っていたのは、すでにTwitterで積極的にツイートを発信している人たちだったのです。このグループにおいてさえ、使用頻度は低迷していました。最終的に私たちは、ターゲットとしていたユーザーがFleetsを使っていないことがわかったので、頭を切り替えて、Fleetsが成功している部分に注目するなど、よりインパクトを生むための仕事に注力しました。具体的には、ステッカーや写真、動画など、クリエイティブな表現のためのより効果的なツールを作ることに着手したのです。

私たちはこれを失敗だったとはまったく考えていません。Fleetsは私たちにとって大きな賭けでしたし、うまく行かない可能性もあるリスキーなプロジェクトでした。こうした大きな試みに挑むときには、方向転換すべきタイミング、フィードバックから学んでもっとイノベーティブな仕事をするために再び動き出すタイミングが大事になってきます。自分たちのアプローチを変えることなく、あらゆる機能に固執していては、大きなチャンスを手にすることができません。

うまく行かなかったこと、そしていまでも取り組んでいることの別の例:「Heads Up(頭出し)」
自分が参加する前の会話の雰囲気を知りたいと思ったことはありませんか?  私たちは新たな参加者に対して、会話が盛り上がっているのか緊迫しているのかといった雰囲気の頭出しをできないかと考えました。これは、会話をよりスムーズなものにする方法を見つけ出すための、また別の実験でした。

Heads Upになにが起こったか
私たちは2021年にこの機能のテストを始めました。何ヶ月もテストを繰り返した結果、次のようにこのコンセプトを気に入ってくれているユーザーがいることがわかりました。

ですが、ユーザーの多くはそうではなかったのです。彼らは実際に、Twitter上でそのことを伝えてくれました

私たちはユーザーたちに彼らの声が届いていることを伝える一方で、自分たちのアプローチを見直しました。

さまざまなデザインとコンテンツを試行したことで、この機能に対するユーザーの反応を継続的に得ることができました。ユーザーの45%が中立的な反応を示し続けた一方で、47%はネガティブに感じていました。私たちが受け取るフィードバックのほとんどはネガティブなものでした。たった8%のユーザーだけが、この機能をポジティブに受け止めていました。

コンテンツとデザインをブラッシュアップする中で、私たちはユーザーがHeads Upを受け身で使うというよりもむしろ積極的に使おうとしているという事実に向き合いました。しかしユーザーからのフィードバックを受けて私たちは、ツイートにある種の免責の文言を付けるのではなく、ツイートの発信者に対してその後の会話に対するコントロールを別の形で与えることに注力することに決めました。

Heads Upの取り組みの中で得られたもの
ほんの小さな目に見える違いが大きな違いを生むということです。デザインとコンテンツが非常に重要です。体験を変えるだけでユーザーの気分をニュートラルに持って行けるということがわかりましたし、常に機械学習の部分に手を入れる必要もありませんでした。

この方向性は間違っていないと思うので、私たちはこの部分への取組みを続けていきます。実際に不正検知レポートの比率が下がっているので、このような機能がTwitterをもっと安全な場所にしていくだろうという私たちの仮説は正しいようです。いまではより良い方法も見つけています。ツイートに関する会話をもっと元ツイートの発信者がコントロールできるように、コントロールを増やすのです。

――全体的に、Twitter社のデザインにおけるカルチャーとはどのようなものなのでしょうか?

Twitter社では、成功よりもその過程で得られる学びを大切にするような、また、メンバーの誰もが共同創業者であるかのように感じられるようなカルチャーを作ろうとしています。リスクを計量化した上でそのリスクを積極的に取り、私たちが属するコミュニティとオープンに関わりながら一緒にデザインをしています。私たちがすべてのメンバーに大切にしてほしいと考えている姿勢は次のようなものです。

1. 誰もが事業のオーナーである。共同創業者のつもりで、独自の目線を持って実現可能なソリューションを検討する。たとえそれが誰か他の人の仕事であろうと、問題の特定と解決に積極的に貢献する。

2.  顧客の体験が最優先であって、顧客に体験を届けることは私たち全員の責任である。これは、顧客と直接会話すること、顧客の立場に立って考えること、そして彼らの体験に注目することで達成される。私たちは顧客への共感を高め、彼らのペインポイントとニーズを理解する。

3. 知的な正直さを持つ。私たちはデータに基づいて意思決定を行い、透明性を保ち、自身で説明責任を負う。「解決しようとしている問題は真の問題なのか」「データは私たちのソリューションがうまく行っていることを示しているか」「もっと良い方法は無かったか」と常に自分自身に問いかける。私たちは時間のムダと混乱を避けるため、こうした質問に向き合う。間違うことも、方向転換することも構わないが、自分の正しさを証明するために恣意的なデータを用いてはならない。

4. 物事をシンプルにし、スピーディーに進める。私たちは常に、より少ない内容をうまく進めることにフォーカスする。私たちはシンプルなスタートから巨大な結果が生まれることを知っている。

5. 決断を先延ばしにしない。決断には、簡単に覆せるものと、そうではないものがある。前者について私たちは素早く決断する。なにも決断しないよりは間違った決断をする方が良いからである。後者については、十分に考えた上で決断する。

6. 野心を持つ。挑戦なくして成功なし。私たちは勇敢に、野心的な目標を設定する。長期的に考え、行動を第一とし、自分たちの成功と顧客に与えるインパクトを最大化するために必要であれば大きなリスクを取る。

――あなたご自身は、どのように失敗と向き合っているのですか? Twitter社の社内に限らず、なにか個人的な体験があればシェアいただきたいのですが。

失敗とは苦しいものです。誰にとっても、失敗することは気分の良いものではありません。何度も失敗をしてきましたが、私はその度に、なにが間違っていたのか、もっと別のやり方でできたはずのことは無かったかと懸命に考えています。次にもっとうまくやるために、あえて居心地の悪い時間と向き合うのです。たとえばかつて私は、デザイナー仲間にフィードバックを与えることで、友人関係を壊してしまったことがあります。

私のキャリアの初期、私はAOL / Time Warnerでシニアデザイナーとして働いていました。ある日、同じチームで働く友人が彼女のデザインについて私にフィードバックを求めてきました。彼女は当時もいまも素晴らしいデザイナーです。そのプロジェクトでは、彼女はブランドチームが送ってきた写真を使わなければなりませんでした。その写真はひどいものでしたので、私は彼女のデザインを見たときに、それを笑い、からかいました。その写真がデザインのほとんどを占めていたのです。そして私のフィードバックは容赦ないものでした。

ですが彼女は、それを彼女自身に向けられたものと受け取りました。彼女は、私が写真ではなく彼女のデザインがひどいと言っているように感じたのです。彼女は非常に怒り、私と話すことはなくなりました。私たちの関係は壊れ、二度と元通りになりませんでした。

私は途方に暮れました。彼女はただの同僚ではなく、私が尊敬するデザイナーだったのです。さらに重要なことに、大事な親友の1人だったのです。私はいまでも自分の無神経さを後悔しています。できることなら時間を巻き戻し、彼女をそんなに深く傷つけたことをやり直したいです。

私が学んだこと
無神経になることはなにも解決しないということを学びました。私は自分のフィードバックが物足りないものや曖昧なものにならず、敬意を持った建設的なものになるように、コーチと一緒に自分のスタイルを磨くことに時間をかけてきました。私がどのように言ったかではなく、なにを言ったかが相手に伝わるように、コミュニケーションのスタイルに注意を払っています。もっとキャリアの早い段階でこうしたことを学んでいれば、大事な友人を失くすこともなかったでしょう。

――失敗を大事にすることで、人として、またデザイナーとして成長できると思いますか?

デザインだけでなく、すべてのものにはバランスがあります。陰と陽のバランスです。誰もが、常にハッピーなわけではなく、常に成功するわけではありません。失敗を恐れるということは、自分の限界に挑戦せず、居心地の良い場所に安住するということですから、進歩することもありません。まさにトレーニングのように、私たちが強くなるためにはほんの少し無理をする必要があるのです。やり方を大きく変える必要はありません。ほんの少し居心地の悪い場所に自分を置けば、あなたは人間としてもデザイナーとしても、なにかを学んでレベルアップし、一歩先に進むことができるでしょう。私のメンターにこう言われたことがあります。「『嫌だ』と言いたいような仕事に出会ったら、そこから成長が始まる」。

――チームリーダーとしては、メンバーが失敗を恐れず挑戦できるようにするためにどんなことをしているのですか?

私のチームでは、思い切ったアイデアが自然に出てくるような環境を心がけています。自分の進んでいる方向が間違っていないと認められれば、思い切りクリエイティブになれるものです。チームのメンバーには、自分が信頼し、尊敬しているデザイナーたち、自分の作品を見て正直で建設的なフィードバックをくれる仲間たちと一緒に働いているんだという気持ちを持ってもらいたいのです。

安心できる場所だからこそ、自由に、勇敢に考えを発展させることができるからです。

自分の後ろには手助けしてくれるチームがいると思えば、それは簡単なことです。失敗しても批判されないのであれば、失敗しても構わないと思えるでしょう。

Written by Giorgia Lombardo (Design Matters)
Translated brought to you by Flying Penguins Inc. 🐧

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Design Matters Tokyo 22、チケット販売中!

デンマーク発のデザインカンファレンスが日本に再上陸。2022年5月14日-15日に開催されるDesign Matters TokyoではGoogleやTwitter、LEGOなどのグローバル企業はもちろん、Whatever、Takram、みんなの銀行など国内のデザイン先駆者たちも勢揃いで、先端のデザイントレンドについてのトークが盛りだくさんです。本記事のAnita氏も来日予定です。プログラム、チケットなどの情報は https://designmatters.jp をチェック。

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