Designship2024で、デザインのとびらとして話した内容を公開します
こんにちは!デザインのとびら代表の東郷りんです。先日10/13(日)に今年で7回目となるDesignship2024に登壇させていただきました。メインのセッションのコンセプトは、多様な分野のデザイナーが、やっていることや作品とそこに至るまでの本人のストーリーや考えについて語るというものでした。当日お話させていただいた内容をスライドとあわせて記録しておきます。
イントロ
はじめまして、東郷 りんと申します。どうぞよろしくお願いします。
わたしは「デザインのとびら」という、子どもから大人までを対象に、デザインの考え方やモノの見方、マインドを伝える活動をしています。まずはじめに、私たちの活動の根幹になっている言葉を紹介しようと思います。
それは「世界を、過大評価する」という言葉です。
毎日歩いている道にある草木、使っているペン、朝ご飯のおにぎりの味。私たちは普段どれだけそれらに真面目に向き合い、感性をはたらかせて楽しんだり、感動したりしているでしょうか?
忙しい普段の生活のなかで目を向ける暇もなく、ないがしろにしてしまっている人も多いのではないでしょうか?
それは脳が負荷をさげるために、無視できるようにしてくれているからなのですが、その性質によって、まるで普段の日常生活の景色にはなにも刺激がなくおもしろみのないものに見えてしまう。私はそんな状態を、世界を過小評価している状態と呼んでいます。
しかし実際には、じっくり注意を向けてみたり、その裏側を想像してみるだけで知らなかった魅力や新しい一面に出会うことができることは、ここにいる皆さんにとっては想像に難くないと思います。
ちょっとオーバー気味にでも、前のめりに、ユニークにこの世界をポジティブに見てみようという思いを込めて、この言葉を私達は大切にしたいバリューとして、置いています。
改めまして、自己紹介を。大学で空間デザインを学んでから、三菱電機でビジネスデザイナー、ロフトワークというクリエイティブカンパニーでクリエイティブ・ディレクターを経て、昨年の秋からヨーロッパのスロベニアにあるリュブリャナ大学でインダストリアルデザインの修士課程に通っています。更にそこから今はエストニアの大学に交換留学をしており、そこではシステミックデザインを学んでいます。先週エストニアから帰国しまして、来週には戻る予定です。
そんな私が社会人2年目のときに立ち上げたのが「デザインのとびら」というチームであり事業です。
「デザインのとびら」は現在3人のデザイナーからなる、”デザイン教育”チームです。それぞれが異なるデザイン分野のバックグラウンドを持っています。
私達の活動目的は、創造的に生きる人を増やすこと。そのために、小中高、インターナショナルスクールなどの教育現場で授業をしたり、博物館や美術館の方々と一緒にワークショップを開催したりしています。
「デザイン教育」というとざっくりとしたイメージはつきやすいのでそう紹介したのですが、教えているという感覚はなく、参加してくれた方や生徒たちがもともと持っている個性や創造性をくすぐって、エンパワーメントしているような感覚で取り組んでいます。
今日は「クリエイティビティを育むデザイン だれもが創造性に自信を持てるようになるプロセスと実践」というテーマを持ってきました。私が、創造性を育むことに興味を持ち活動を始めた経緯と、教育現場で実践していること、発見したことをお話できればと思っています。
皆さんの間に新しい気づきや視点、対話が生まれるきっかけになればと思います。どうぞよろしくお願いします。ではまずは、いきさつから。
「デザインのとびら」立ち上げまでのストーリー
今日会場にいらっしゃる多くの方はデザインを生業にしている人が多いと思いますが、そんな人はきっと、人生のどこかのタイミングで、自分のクリエイティビティに自信を持つ瞬間があったのではないかと思います。そのきっかけとなるような瞬間、覚えていますか?
わたしはこのときでした。
これは、研究者だった祖父が書いた本です。発育学がテーマの書籍だったのもあり、表紙に当時3才だった私の描いた絵を使ってくれたんです。なんだか照れ臭いような、嬉しかった気持ちを今でも覚えています。これは私にとって一番はじめに、つくることや表現することに自信を持てた強烈な瞬間だったと思っています。
こんな経験も無意識に影響してか、ときは流れて大学生のとき、空間デザインを学んでいた私は卒業制作で、1人の子が図工などで作った絵や彫刻などをまとめて、作品という切り口でその子の内面的な変化や成長を可視化し、家族で祝うというコンセプトの展覧会の企画を行いました。
そこで見た光景は、子どもの創造性が発揮されたものはパワーを持っていることや、そこを照らすことが、本人や家族を笑顔にするということを私に教えてくれました。その笑顔は、例えば漫才を見て面白くてケラケラ笑うときの笑顔とはまた違う表情だったのが、とても印象的でした。
こんな経験から、私は社会人になる直前に、子どもの個性や創造性に光を当てることに興味が芽生えていきました。
その後、大学を卒業し就職したメーカーでは、ビジネスデザイングループという部署に入りました。2018年当時、世の中はIDEOが台頭する、いわばデザイン思考バブルのような時代だったと思います。
その風潮もあって、社内でこれまでデザインという考え方に触れてこなかったセールスやエンジニア、研究者の方々に対して、ワークショップを通してデザインの考え方を伝えて実践してみてもらうといった場面が本当にたくさんあったんです。
そんな経験をするなかで、場を用意し適度にアテンドすると、人の創造性は触発され、どんどん発揮されるようになるんだ、ということを感じました。これは私にとって小さな衝撃でした。
というのも、それまでの私がどこかで、クリエイティビティはある程度生まれ持ったものとそれを磨く努力を続けていなければいきなり発揮されるものではないのではないか、と思っていた節があったからです。
卒業制作を経て感じた子どもとものづくりのパワーや、インハウスデザイナー時代の経験での気付きが重なっていき、「デザインの考え方や視点を共有することで、その人の持つ創造性をアンロックすることにつながるのではないか?ビジネスの文脈だけではなく、創造的に生きるという意味では子どもたちと一緒に取り組んでみるのはどうだろうか?」という思いが自分のなかで生まれ、「デザインのとびら」という子どもに対してデザインを伝えていくプロジェクトを仲間と立ち上げました。
当初は、私が企業のなかでやっていたようなデザイン思考を体感するワークショップを、ほぼ内容はそのまま親子向けにやっていました。そこから、ワークショップをミュージアムと一緒に開催させてもらったり、コロナ禍で開発したオンラインのワークショップはキッズデザイン賞を受賞したりもしました。
活動を始めて1年経った頃の2020年に新しいチャレンジが訪れます。
高校での取り組みと「かんかくストレッチ」
ある日、以前ワークショップに参加いただいた親御さんからメールが届きました(!)その方は当時、都内にある男子校、聖学院高校で理科を教えていた先生で、今度新しいコースを創設するにあたって相談させてもらえないか、という内容でした。
少しコースの紹介をすると、新しいコースは「ものづくりとことづくりで世界に貢献する」がコンセプトにかかげた「グローバルイノベーションクラス」通称GIC、というコースです。GICには、STEAM教育の授業が週6時間あるのですが、私達はそこに年間を通して伴走をすることになったんです。STEAM教育というのは、Science, Technology, Engineering, Art, Mathematics を組み合わせた学びのことです。
そこで開発したのが、今日の本題である、
「かんかくストレッチ」というワークです。これは、クリエイティブの基礎体力になる、観察力や感性をほぐすワークです。
このクラスでは、すでに先生たちによって、最先端のデジタルファブリケーションも取り入れてグループで作品制作を行う授業がいくつも企画されていました。そういった授業があるなかで今の高校生に対して、私達ならではのできることは何だろうかと考えて提案したのがこのワーク。
「かんかくストレッチ」の目的は大きく3つです。「周囲への観察を通して自分の感覚に出会う」「自分のなかに答えがあることを知る」「他者の感覚を大切にできるようになる」。
というのも、このワークを始める前に彼らと何回かの授業を通して接しているときに感じた課題感が背景にあります。
私達の授業には唯一無二の正解なんてないのにも関わらず、「これであってますか?」と聞かれることがとても多かったり、自分が感じたこと考えたことを言葉にしようとすると手が止まってしまう子が多かったのです。
デジタルネイティブ世代で、ともするとすべてのことは調べたらわかるといった、ある種の全能感を持ててしまう状況だからこそ、世界をじっくり眼差すことで得られる気づきや驚きがあること、GoogleにもChatGPTに聞いても出てこない自分なりの感覚こそ、この場面においては「こたえ」として価値がある、ということを体感してもらおうと思いました。
このかんかくストレッチはシリーズもので、これまで、色、音、かたち、においの4種類を作っています。例として今日はにおいのかんかくストレッチを紹介してみようと思います。
まずは最初の授業でオリエンテーションを行い、次の授業までに日常生活で気になったにおいを集めてきてもらいます。鼻も目も耳も、起きていれば開いているから働いているように思いがちですが、ぜんぜんそんなことはないということがこの期間で気付かされます。
1、2週間そうやって過ごしてもらったあと、次の授業では集めてきたにおいをシェアします。
次に、においを一つ選び、そこから自分なりに感じたことをマインドマップの形で広げていってもらいます。
ここでのポイントは、あくまで主観でイメージを広げること、客観的に分析しないこと。このにおいがどんな成分で構成されているかや、かならずしも他の人が見て同じものをイメージできるように忠実に表現する必要もありません。
また、となりの人と同じものを嗅いでみて、それに対してマインドマップを広げてみます。
同じものを対象にしていても、何を感じるかって人それぞれで、どちらが優れているとかもないなんだな〜ということを知ることにつながります。
さらに、ここからがちょっとしたクリエイティブジャンプが必要なところで、集めたにおいを起点に短歌を作ってみます。つくるまえに国語の先生に短歌の簡単なレクチャーをしてもらい短歌とはどんなものかを学んだあと、匂いの情景を自由に表現していきます。
においを集めてきて、おもしろいな〜いろんな匂いがあるな〜、と思うだけでなくて、表現に落とし込んでもらうことで、よりにおいと自分の感覚に向き合うことになるのがポイントです。
男子高校生がにおいを起点にこんなポエティックな短歌をつくっているってちょっと不思議な光景ですよね。でもみんな、思った以上に楽しんでやってくれるんです。
最後に、できあがったものをクラス内で共有します。同級生同士、デザインのとびら、学校の先生からなど多様な視点からフィードバックを送り合います。
以上が、においのかんかくストレッチの紹介です。
かんかくストレッチと、創造性への自信
具体的なプロセスは、音や色など対象によって異なるのですが、どのストレッチも共通しているのはこの4点です。自分の感性を働かせ、表現に落とし込む、どんなクリエイティブにも通じるこのプロセスのハードルをできるだけ下げ、楽しくベイビーステップを踏み出せるようになることを意識しています。
俯瞰して生徒たちの変化を見ている先生からも、「日常を観察してくることで自発的な学びになっている」とか、「自分の感じ方でいいと思えるようになっていった」「とまどいが自分の感覚の信頼に変わっていった」といったコメントをもらっています。
もともと、かんかくストレッチは、観察することや自分の感じたままを表現する練習として設計したのですが、結果として、自分の感覚というのは誰かに否定されたり、優劣がつくものではないので、そこに対して自信が育まれていくような効果もあることに気づきました。
私たちは、感じることは創造性の入口になると思っています。だから、創造性への自信を育むというと仰々しく聞こえますが、その入口となる感覚をほぐし、自信を持てるようにアシストすること、そういう小さなことから始めることに意味があると思って、取り組んでいます。
かんかくストレッチのようなワークを通してセンサーが研ぎ澄まされると、美しいもの不思議なものに感動することだけではなく、怒りや悲しみ、理不尽な状況を、そういうものだ仕方がない、と片づけてしまわず鋭く捉えることにもつながると思います。
そういった自分の審美眼や違和感に自信を持てるということは、これからの未知の課題に溢れた社会においても、誰かが手をつけてくれるのを待たずに、自分でやってみようと思えることに繋がるのではないでしょうか?
実際にAdobeが日本の高校生に行ったリサーチでは、自分の創造性に自信を持っている子のほうが、「自分には周囲の世界を変える力がある」「社会の中で自分らしく生きていける」といった項目でもポジティブな回答をする割合が高いことがわかりました。
最後に、ドイツ出身の美術家であり教育者でもあったジョセフ・アルバースが、感性をほぐすことと創造的であることのつながりについて彼が話した言葉を、すこし長いですが紹介します。芝生を例にあげて話している場面で、(ここはスライドを読んでください)
今日は高校生とのワークについて話しましたが、感覚、ひいては創造性を育むこと、自信を持つことに年齢は関係ありません。皆さんもぜひ、自分や周囲の方とも一緒に世界を過大評価してみることから始めてみてください。
私からの問いは、「あなたは普段、自分の五感にどれだけ向き合えていますか?」
この問いを起点に、創造性やそこに自信を育んでいくことについて、これからみなさんとお話ししていきたいと考えています。ありがとうございました。
Designshipの運営のみなさん、貴重な機会をいただきありがとうございました!私の話に一体、どれくらいの人が共感したり、興味をもってくれるんだろうかと不安だったのですが、会場でも、X(Twitter)でもたくさんの方が反応してくれて、信じてやってきてよかったな〜と胸をなでおろしました。
ぜひ、私たちの活動や連携に興味のある方はご連絡いただけると嬉しいです。学校以外の場所、企業や行政の現場でも、創造性や感性を耕すことが必要な場所であればどこでも、一緒にできることはたくさんあるのではないかなと思っています。
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