やりきった先には
今は講師をしておりますが、以前は留学に関わる仕事をしておりました。
入社して数年たったころ、先輩から「知人の息子が渡米しようとしているが、どうも正規の手続きではなさそうで心配だから話を聞いてやってくれないか」との相談を受けました。
留学計画を聞いてみると知人のアメリカ人宅にホームステイさせてもらい学校に通うという計画でした。ビザも申請されておらず、入国審査ではねられる可能性が高いリスクだらけの計画でした。
そこまでしてなぜ行きたいのか話を聞くと、「アメリカで大好きなバスケットボールをしたい。本場で自分の力を試したい。プロになりたい。」とのことでした。
バスケットにかける情熱はわかりましたが、不法な留学計画なので、聞いた以上はやめるよう説得せざるを得ませんでした。気落ちしているのをみて申し訳ない気持ちにはなりましたが、お勧めできることでは到底ありませんでしたので、正規で留学できるよう手続きしようとしか言えませんでした。
留学先として希望していた学校は公立高校だったので普通の学生ビザではなく、交換留学生用のビザが必要でした。このビザを申請するために必要な書類を発行してもらうにはある程度の学業成績と英語力の証明が必要でした。
でも…彼の成績は、2がならんでいる状態でした。
「成績を3~4まで上げないと願書が出せないよ。このままでは留学はできない。留学するという強い意志があるなら成績を上げてきて。」と伝えました。反論されるかなと思いましたが、意外なことに「やります。」と、彼は答えました。それから数か月たってから電話がありました。
「成績が上がりました。頑張るので手続きをしてください。」
正直本当に驚きました。失礼ながらあきらめると思っていたんです…。
彼の努力のかいあって、無事願書が受理され、交換留学プログラムにのっとって留学することが決まりました。ただ公立高校でなので留学生用の特別なサポートプログラムはないこと、成績が悪ければクラブ活動が禁止されるうえ、成績によってはもしかすると帰国を勧められることもあることなどを説明しました。彼は臆することなく「必ずやります。」と言って飛び立っていきました。
言葉通り彼は公立高校での1年間、立派な成績をおさめ、2年目からは私立高校に転向し、その後アメリカの名門州立大学に進学しました。大学でもバスケットチームに入りました。体の大きさなど考えると、アメリカの州立大学でバスケチームに入ることは大変なことです。よほど頑張ったんだろうと思います。
大学に入ってからはたまに連絡がくるくらいでどうしているのかほとんど知りませんでしたが、卒業間近に連絡がありました。アメリカでそのまま生活をするのかなと思っていたんですが、日本に帰って家業を継ごうと思いますという意外な内容でした。
「アメリカでどうしてもバスケットがしたくて高校からこっちにきて、大学までずっとプレーできた。両親にとっても感謝している。バスケットも勉強もやりきったので、今帰国しても後悔はありません。」と。
「あの時、ちゃんと手続して留学することにしてよかったです。ありがとうございました。」と書かれているのを見て、目頭が熱くなったのをおぼえています。
やりきったと思えたらそこで待っているのは次の道なんだと思います。やりきった先に後悔が待っていることってないと思うんです。やりきる前に終わらざるをえなかった時、やりきったと思えず終わってしまった時に後悔が残るのかなと思います。
人の成長に関われる仕事に長年従事できたこと、今でもありがたく思っています。そして今はまた別の形で人の成長に関われる仕事をしています。後悔しないよう講師という仕事をやり切りたいと思います。