ブックレビュー「凍りついた女」
アニー・エルノー著「凍りついた女」読了。
私は読者でありながらまるで自分自身を追体験していた。
すべて言語化されている心からの気持ちよさと喜びだ。
饒舌体と言われるらしい、話し言葉のような文体が小気味いい。
アニー・エルノーは、2022年、ノーベル文学賞を受賞したフランス人女性。
自由奔放で夢に溢れ、平凡な人生などゴメンだと思っていた少女が、
大人の女性になっていく成長の中で、自分自身を抑え、学問を諦め、夫のご機嫌を伺い、家事と子育てに忙殺され、家庭生活の中で自立も自由も見失って凍りついてゆく。
まさに身も凍る自叙伝だが、同じような感覚を持つ女性はたくさんいるはず。なぜなら社会構造がもうずっとずっと「そのようにならざるを得ない」状況だから。私はこれは自分の話だと思った。同じような感覚になる女性はいるに違いない。
特に、この部分の言語化に、私はまるで救われるような思いだった。
「一番ひどかったのは、スーパーマーケットでの、予想もしない精神分裂症状。(中略)明日のために、別の日のために、多分私はたくさんのものを買う必要がある。が、もう何も手に取る気にならない。私は食品売り場の廊下を進むが、両側に並んでいる食品の区別がますますつかなくなる。何もかもゾッとする。(中略)わたしは店の外に出て初めて開放された。冷蔵庫の前でや、スーパーの手押し車の後ろでの実存的嘔吐ーーーたいした冗談だと彼は笑うだろう。」
スーパーマーケットで思考停止となり、あらゆる食品の区別がつかず途方に暮れ、どうしようもなく、息苦しく、うずくまる。そんな自分が失格者のように思えてそして泣く。こんなロクでもない女は世の中にいないんじゃないかと思っていたのに。
私はこのページに心底驚いた。自分と同じような人がいたのだ。日々の営みに疑問を持ち、だけどもなんとかやり過ごし、物分かりのいいふりをする。誰もがやっているから。私はまだ恵まれているんだから。家族の幸せが私の幸せだから。
アニー・エルノーの本を他にも読んでみたいと思う。